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逃げたとしても……

 


 ーー()()()()()()から。



 それは、涼が発したセリフ。



(だから、これが俺に送られてきたのか。だとしたら……これを送ってきたのはーー)



 そう考えると同時に、襲ってきたのは、紛れもない『恐怖』だった。



 自分の体なのに、自分の意思に反して震えだす体。完全に『恐怖』に支配された体と思考。

 その支配を解く切っ掛けを作ったのが、巽だった。巽に強く腕を捕まれ、その痛みに、勇也は自分を取り戻した。多少震えながらも、勇也は鞄から一通の封筒を取り出した。



 テーブルに広げられたのは、四枚のプラチナチケット。



 その表紙には、〈裏野ドリームランド〉の文字と〈プラチナチケット〉の文字。そして、日付と時間、〈神埼勇也〉の名前がはっきりと記載されていた。



 長い沈黙が、室内に重苦しい空気を生み出す。



「届いたのはいつだ?」

 沈黙を破ったのは、巽だった。



「……今朝」

「ーー!! 今朝だと!! なら、どうして……どうして、もっと早く言わなかった!?」



 巽が怖い顔で勇也に詰め寄る。



「…………言えるわけないでしょ! 元々、行くつもりもなかったし……」



 勇也は小さい声で、ボソボソと答えた。あれだけ激しかった震えが、ほとんど治まっていた。



「馬鹿か!!」



 巽は勇也の答えを聞くと怒鳴り付け、その茶色の頭を叩く。結構痛いはずなのに、勇也の反応は薄い。そんな勇也の様子を見て、巽は行儀悪くチッと舌打ちする。



「おい、涼!! こいつを助ける術は何かないのか!?」

 テーブルに両手を付き、巽は身をのり出して涼に詰め寄る。



 勇也はそんな巽をぼんやりと見詰めていた。



 いつも自分の前で、巽は人をくったような感じで話をしていた。表情は豊かだったけど、本当のところ本心を表すことはまずしない。そんな人だったはずなのに、今その人は、真剣に腹を立てている。黙っていた自分を、怒り、心から心配していた。



 巽に詰め寄られながら、涼は勇也に呼び掛ける。



「勇也君、跡地に行かなければ大丈夫だって思ってたみたいだね? だとしたら、それは大間違いだよ。このチケットを受け取った時点で、君はもう逃れることは出来なくなった。一方的に渡されたとしてもだ。……例え、当日そこに足を運ばなくても、気付いたら、そこに立ってるだろうね。勿論、チケットを破ることも燃やすことも不可能だ。……勇也君、君は〈縁〉を繋いでしまったんだ。もののけとね」



「涼!!」

 非難する巽の声を、涼は無視する。



「…………〈縁〉を結んだ?」



 ポツリと勇也は呟く。その声は淡々としたもので、恐怖を感じさせない。それがかえって、巽を不安にさせる。



 涼は分かり易いように、チケットのある部分を、指でトントンと叩く。

 巽と勇也は、その指先に視線を移す。そこには、勇也の名前があった。



「これが〈縁〉だ。名前は固有を特定するもの。固有を縛るんだ。つまり、君自身をね。でも、一方的な〈縁〉は弱い。分かるかな。……君は今まで、暗闇から見ていたもののけたちを、無視し拒否していた。その時は、こんなこと起きなかったはずだ。だけど今回、君は行方不明者の案件を調査するために、裏野ドリームランドの跡地に行った。この時、君ともののけとの〈縁〉が強くなったんだ。だから、これ幸いと、もののけたちは自分たちが運営する遊園地の券を君に送った。それも、逃げられないように名前入りでね。それも四人分。……そしてそれを、君は受け取った。この時、もののけと〈縁〉を強く結んだんだ。強くね。これほど強く結んだ縁を解くことは出来ない。勇也君、君は行くしかないんだ。裏野ドリームランドにーー」



 涼が告げたのは、最低最悪な答えだった。



 勇也はゾッとした。

 送られて来たプラチナチケットは、四人分。確かに四人分だ。

 まだ、巽の分は納得出来る。だが、涼と華の分を想定して送られて来たとしたら……彼らは、自分の周囲の人物を把握していることになる。勇也自身が知らなかった繋がりをも。



「僕が巽と繋がりがあることは、もののけの間では有名だから、そんなに深く考え込む必要はないよ。勇也君」



 慰めるつもりで涼が言ったのか、分からない。だがそのセリフに、勇也の心は少し浮上した。

 怖くないといえば嘘になる。さっきみたいに、震えそうになるが。それでも、どこか……本能で理解していた。



 逃れられないとーー。



 何故なら、勇也が面接した、行方不明者の同行者たちから預かった、プラチナチケットの半券には、どこにも名前が書かれていなかったからだ。






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