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「あのな、勇也。涼とは、中、高一緒でな、一応同業者なんだが……ちょっと俺たちとは畑が違うっていうか……。化けものが絡んだ案件を主に請け負ってる」


 勇也から視線を逸らし、何もない宙に視線をやりながら、とても歯切れ悪そうに、巽は目の前にいる青年について語る。


「…………は?」


(今、何て言ったよ、この人は? よりにもよって、化けものだって? 冗談だろ)


 心の中で勇也は突っ込みをいれた。口にしないだけ偉い。だけど目は正直で、やけに冷めた目で上司である巽を見る。


「やっぱ、そういう目で見るよな……」


 思った通りの反応に巽は苦笑した。たが、否定はしない。つまり、冗談じゃないってことだ。


「………………マジですか?」


 それしか言えない。


「ああ。こんなところで嘘を言って、何の得がある」


「確かに、そうですけど……」


 いくら信頼している上司で先輩だとしても、いまいち信じ切れない勇也の耳に、場違いな笑い声が聞こえてきた。


 巽と勇也の向かいに座っていた涼が、二人の会話を聞いて笑っていた。


「……ごめんね。君たちの会話がおかしくて」


 笑い声を必死に堪えながら涼は謝る。


「何がそんなにおかしいんですか?」


 何処に笑う要素があったんだ。それに、笑いながら謝れても誠意は感じない。初対面の人間だけど、勇也は苛立ちを隠そうとはしなかった。


「だって、そうでしょ。当事者の君が全く信じてないし。それに、巽の困った顔を見るのが楽しくて」


「「…………」」


(本当に、楽しそうだな)


 見た目と反して悪趣味な性格をしていると、勇也は思うが、勿論口には出さない。代わりに顔をしかめた。その時だった。


ぬし様、楽しそうですね」


 勇也と巽の背後から少女の声が聞こえた。


(主様? あだ名じゃないよな)


 巽さんは少女の事を華と呼んでいた。


 華はテーブルに、三人分のコーヒーとケーキを置く。自分の分は必要ないようだ。


「どうぞ」


 華は巽と勇也に微笑みながら薦めると、そのまま涼の後ろに移動する。まるで、涼に遣えているようだ。勇也は、二人の関係性がいまいち把握出来ないでいた。隣を見れば、慣れてるのか、巽は気にしていないようだ。なら、自分が気にする事じゃないか……。


「…………それで、君たちがここに来たのは、〈人喰い遊園地〉の件だったね」


 別に深刻な様子を見せるわけじゃなく、あまりにもさらりと、涼は核心に触れてきた。


「「人喰い遊園地!!!!」」


 物騒な単語が飛び出してきた。思わず、巽と勇也の驚愕した声が綺麗にハモる。涼は軽く頷く。


「僕たちの間で、URANOドリームランドのことを、もっぱら〈人喰い遊園地〉って、呼んでるからね」


 そう告げた涼の目が、今までおかしそうに笑っていた目とは全く違っていた。口元は笑みを浮かべたままなのに、目だけが刃物のように鋭く、獲物を離さない肉食獣のようだった。といって、ギラギラしていない。まるで、深海の底にいるような静かな目だ。どこまでも澄んでいるのに、冷酷なものを秘めている不思議な目だった。


 今まで出会った人の中で、勇也はそんな目をした人と一度も出会ったことはなかった。一般の人よりも、目を見て話す機会が多い仕事を生業にしているのにだ。


 勇也は涼に興味を持った。目の前の男の事が知りたくなった。だが同時に、本能が警報を鳴らす。この男は危険だと。距離を取るにしても、どれぐらい離れればいいのか、距離感をもてばいいのか分からなかった。勇也にしては、とても珍しい事だった。


 そんな勇也の葛藤を、涼は手に取るように分かった。同時に、それを微笑ましく感じていた。さすが、巽が信頼を寄せる人物だと、内心涼は思う。しかし今は、そんな悠長なことを考えている時間はない。


 なんせ、彼らが関わってしまった案件は、非常に危険なものだったからだ。涼自身、絶対関わりたくない程に。


「URANOドリームランドの噂は、勿論、把握してるね」


 涼は早速本題に入る。


「ああ。勇也が細かく調べてくれたからな。……確か、七つあったよな」


 巽の台詞を取るように、涼が続ける。


「そう。全部で七つ。確か……一つ目が、子供がいなくなる噂だったね。二つ目が、誰も知らない〈ジェットコースター〉の事故の噂で、三つ目が、〈アクアツアー〉。謎の生き物がプールに現れる噂。四つ目が、〈ミラーハウス〉から出て来たら人が変わっていた噂。五つ目が、〈ドリームキャッスル〉の秘密の地下室が拷問部屋だったと、記憶してるけど、違ったかな」


「間違ってない」


 スラスラと述べる涼に苦笑いを浮かべる巽。


 噂は後二つあった。


 誰も乗っていないのに、廻っている〈メリーゴーランド〉。


 最後が、誰も乗っていない〈観覧車〉から、『出して……』という謎の声が聞こえてくる、といったものだった。


「……その通りだ。よく知ってたな。さすが、専門家。で、その噂は本当なのか?」


 勇也も巽もその噂が真実なのか気になっていた。一部符合する点があったからだ。


 本当なのか、どうなのか。


 代表して、巽が尋ねる。


「さぁ、それはどうだろう。行ったことがないからね」


 大事なところははぐらかす。真実を知っているような気がするのは、俺だけか。勇也は心の中で呟く。


「……だったら、柳井さん、行方不明者の人がどうなったか分かりますか?」


 勇也は質問の方向を変えた。勇也は涼の目を真っ直ぐ見詰め、躊躇ためらうことなく、核心に迫る。巽は表情を固くし、勇也と同様、悪友の顔を凝視する。


「勇也君。さっき、僕はこう言ったと思うけど。……URANOドリームランドのことを〈()()()()()()〉と呼んでるって」


 ーー()()()()()()


 確かに、涼はそう言った。


 つまり裏を返せば、行方不明は全員死んでいると、目の前の青年は断言したのだ。今は存在しない遊園地に関して。


 勇也も巽も、行方不明者の生存率は低いと考えていた。でもここまで、はっきりと断言出来なかった。


 断言出来るということは、勇也や巽が知らない情報を持っていることを意味している。大小関係なく。


「知っていることを、教えてもらえませんか?」


 勇也は涼に頼む。


 そう口にしながら、正直この時、勇也はこの場から逃げ出したかった。何も聞かないで、全てを忘れ、布団にくるまり寝たかった。しかし、本能が逆らう。


 知るべきだと、本能が叫ぶ。


 勇也は決めた。本能に従うことを。こういう場合は、本能に従う方が上手くいく。今までの実体験でも、それは明らかだった。


「これ以上知ると、引き返せなくなるよ。いいのかい?」


 今度は、涼が勇也の目を真っ直ぐ見詰め尋ねる。そして巽は、黙って、勇也と涼のやり取りを静かに見詰めていた。


「構いません。本音を言えば、逃げ出したい程怖いけど、俺は知るべきだと思います」


 勇也は目を逸らさずに答えた。正直に。


「……そうだね。確かに、君は知るべきだね。君の()に関わる事なんだから」


 少しの間の後、涼は小さな声で告げた。


「………………俺の命……?」


 思った以上にか細い、小さな声が勇也の口から漏れ出た。そんな勇也に向かって、涼はもう一度同じことを繰り返した。


「そう……。勇也君、君の()に大きく関わってくる事なんだ」と。


 






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