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視線

 


 ーーコンクリートで整地された空き地の写真。


 そこにはかつて、遊園地URANOドリームランドがあった場所だ。今はもうない。


「……更地になったのは、二年前です。おかしいでしょ」


 特におかしくもないのに、勇也の顔に乾いた笑みが浮かぶ。


 不可解な行方不明事件は、更地になって以後も続いている。そして唯一、発見された同行者は口を揃えて証言した。


 ーー()()()()()()をくぐってからの記憶がないと。


 巽は勇也が撮ってきた空き地の写真を食い入るように凝視すると、その写真を持ったまま、どこかに電話を掛け始めた。


(どこに電話してるんだ?)


 巽の行動を不審に思いながらも、勇也はその後ろ姿を黙って見詰める。


 二言、三言話した後、巽は電話を切った。軽くため息を吐いてから振り返る。


「勇也、今晩暇か? ちょっと今から付き合え」


 疲れたような覇気のない口調だったが、その目はやけに鋭く、勇也は頷くしかなかった。


「仕方ないですね」と渋々頷きながらも、その実、この時の勇也にとって、巽の誘いは非常にありがたかった。


 夜一人でいるのが怖かったからだ。


 この年になって、それも大の男がと、自分でも情けなく思うが、それでも本能的に暗闇が怖くて仕方がなかった。特に今はーー。


 別にトラウマがあった訳じゃないが、どういう訳か、幼い時から暗闇が異様に怖かった。


 少し前まではまだマシだったんだ。だけどここ最近、特に酷くなった。一週間前に感じた、変な視線が原因だ。その視線が、今もずっと、自分を追いかけて来ているような気がしてならなかった。


 勇也は何度も気のせいだと思い込もうとした。


 しかし、思い込もうとする度に、どうしても視線は勇也にまとわりつく。一度感じてしまった恐怖は、簡単に勇也を解放してくれなかった。












 三十分ほど巽の愛車に乗り、案内されたのは、普通の何処にでもある五階建てのマンションだった。


 巽は慣れたように愛車を駐車場に停めると、階段を上って行く。勇也は不審に思いながらも、その後ろを黙ってついて行くしかない。行き先は最上階のようだ。巽がドアをノックするよりも早く、ドアが開いた。


「ようこそ、おいで下さいました。巽様、勇也様」


 日本人形のような可愛らしい容姿をした中学生ぐらいの少女が、ドアの脇に立ち、頭を軽く下げ二人を出迎える。


(何で名前を知ってるんだ? 巽さんが話したのか。いや、電話の時は話してなかった筈)


 商売柄か、勇也は探るような目で少女を見詰める。


 少女は巽から渡された上着をハンガーに掛け、次に勇也の上着を掛けようと服に手を伸ばした。


 その時だ。勇也と少女の目が合った。勇也は何かに縫い止められたかのように、その目から視線が外せなかった。少女はにっこりと微笑む。


「怖がる必要はありませんよ。()()は、ここには入って来れませんから」


 少女は微笑みながら意味深なセリフを残すと、勇也から上着を受け取りハンガーに掛けた。


 唖然としている勇也の隣で、巽が厳しい顔で二人を凝視していた。巽は少女の言葉を聞いて、自分の勘が外れてなかったと確信する。


 やっぱり、この種類の案件は()()が絡んでいたのだとーー。


「さぁ、あるじがお待ちです。どうぞ」


 少女は二人を室内に案内する。


 書斎だろうか、一人掛けのソファーに、勇也と同じぐらいの年の青年が座り優雅に本を読んでいた。青年は巽と勇也が来たのに気付くと、本を閉じ、四人掛けのソファーに移動した。


 巽は既に勝手に座っている。慣れた様子に、巽と青年が親しい間柄だと勇也は思った。一人だけ立っているのも目立つので、勇也は巽の隣に腰を下ろした。


「災難だったね、勇也君。巽に変な案件を任されて」


 開口一番、青年は勇也の顔を見ながら告げた。


「あーー。やっぱり、この案件はそっち方面だったか?」


 苦虫を潰したような顔をしながら、巽は頭を抱える。


「間違いなくね。かなり危ない案件になるかな。特に、勇也君がね……」


 男とはいえ、美形に真っ直ぐ見詰められて、勇也は思わず顔を赤らめる。だが、最後に自分の名前が出た瞬間、勇也は体を強ばらせた。


 ーー危ない案件。特に俺が。


 目の前の青年はそう告げ、部屋に案内した少女は自分に向かってこう言った。「()()は、ここには入って来れない」と。


(アレって、一体……)


 底知れぬ不安が勇也を襲う。もしかしたら、ずっと自分が感じていた視線の正体が、アレなのか……。


 しかし、勇也にそれを確かめる勇気は、とてもがないがなかった。それよりも、気になることがある。


「…………あの……巽さん、ここは一体? それに彼らは?」


 勇也は戸惑いを隠せない。いつもの陽気な表情は一切消え、その声も暗くて固い。


「ああ。こいつは俺の悪友で、柳井やないりょうだ。そして入口で会ったあの子は、こいつの仕事の助手をしている、はなだ。たまに、仕事を手伝ってもらってる。()()()方面でな」


(アレやそっちって……さっきから、何を言ってるんだ? 巽さん)


 自分にも分かるように説明して欲しいと、勇也は思う。たが、心の片隅で聞きたくないと思う自分もいた。


 相反する気持ちを抱き複雑な表情を見せる勇也を、涼はじっと観察していた。






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