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神埼勇也

 


 机の上に置かれた資料を見ながら、神崎かんざき勇也ゆうやは大きなに溜め息を吐く。そういえば、朝から嫌な予感してたんだよな……。


「……俺が調べるんですか? 巽さん」


 心底嫌そうな表情を別に隠すことなく、勇也は上司に向かって不満を平然と口にする。


「今、暇なのはお前だけだろ、勇也。嫌なら、別の奴にやらせるが。そうなったら、お前、クビな」


 遠慮のない言い方に苦笑しながらも、はっきりとクビを宣告する上司に、勇也は非常に慌てる。この人なら、間違いなくクビにする。躊躇ためらうことなく。


「いえ、不満はありません! 分かりました。至急、調査してきます!」


 クビを回避するために、勇也は直立不動で返事をする。


 高校、大学の可愛い後輩で今は部下の勇也に、巽はニヤリと笑うともう一冊資料を手渡した。


「これが最新の資料だ。ちゃんと、覚えとけよ」


 最新の資料って言っても、書かれている内容は然程変わらないだろ。声にしないで、胸の内で勇也はぼやく。


「は~い。で、巽さんはもう帰るんですか?」


 上着を掴んだ上司に、勇也は不満の声を上げる。


 巽はそれを無視すると、「鍵、きちんと閉めとけよ」と、一声、声を掛けてから事務所を出て行った。


「薄情だよなぁ……」


 文句を口にしながら、勇也は資料をパラパラとめくる。


 一ページ目には、子供の写真と名前、性別、そして行方不明になった時の服装などが、事細かく書かれていた。三十ページほどあるページ全て、別人のものだ。


 共通しているのは、親、或いは近親者からの捜索依頼ぐらい。


 彼らは最後の願いを込めて、探偵事務所に依頼してくる。


 勿論、警察にも届けている。届けていても、見付からない。捜査経過の知らせも一切ない。本当に捜査してくれてるのか不安になる。それを確かめに行けば、おざなりの言葉しか返って来ない。それが、何年も続く。依頼者は精神的に追い詰められる。


 ほんと、負の連鎖だ。


 だから打開策として、親や親族たちは一抹の願いを込めて警察のOBである巽のところに依頼する。巽が率いるこの探偵事務所は、人探しにおいて結構有名だからだ。


 三十ページにわたる行方不明者たちは、勇也がざっと見た限り、性別、年齢、住所、行方不明になった年代、時期、全てがバラバラだった。若干、子供の数が多い気がするが。


 ただ、一点を除いては。


 全ての行方不明が最後に立ち寄った場所。それが、この事件の唯一の共通点ーー。


「URANOドリームランドか……」


 呟く声はとても小さい。言葉にするだけで、気持ちが沈みそうだ。また、勇也は溜め息を吐く。


 全ての行方不明者が最後に立ち寄った所は全て同じ。今は閉園された遊園地だった。


 勇也自身、この職に就いて日は浅い。だがそれでも、不思議な、嫌……不気味な異様な事件だと感じるには十分だった。だからといって、このまま資料を机の奥にしまうことが出来ないのが、悲しいところだ。クビが掛かってる。


 早速さっそく、勇也は自前のパソコンに電源を入れると、インターネットで調べてみることにした。このご時世、インターネットは最大の情報ツールだ。足で調べる前に、一通りネットで調べるのは常識となっていた。


〈URANOドリームランド〉と打ち込むだけで、ありとあらゆる情報が画面上に出てくる。


(マジか……)


 その情報量のあまりの多さに、勇也は唖然とする。


 その見出しの多くが、肝試しの類いのもの。都市伝説みたいなものだった。勇也は辟易へきへきしながも、それを一つ一つ丁寧に確認していく。そして、根気よく精査していった。


 分かったのは、URANOドリームランドは、十年前に廃園されたってこと。


 開園してから廃園するまでの三年間に、二十三名の行方不明者が出たこと。行方不明事件は計八回。異常な回数だ。


 そしてもっとも不思議なのは、行方不明者自身に共通点が見られないことだ。老若男女、あらゆる年代の世代が行方不明になっている。


 当然当時は大事件と騒がれ、大々的な捜査が行われたが、誰一人見付かることはなかった。


 そして今尚、遊園地の跡地で結構な数の人数が行方不明になっている。


 先日、テレビで放送された心霊特集は、この遊園地のことを〈人喰い遊園地〉と呼んでいた。確かにその通りだと、勇也は思った。


 とりあえず勇也は、裏野ドリームランドで起きた八回の行方不明事件について調べる事にした。そこが、根っこだからな。


 当時の新聞をネットで閲覧し、丁寧に裏付けをとる。確かに、行方不明になった人数も、行方不明者の特徴も、一般にネットで記載されていることに大きな違いはなかった。にしても、


「……よく調べてるな」


 この手の噂は、過大になっていくものだ。真実など、一割混じっていればいい方。なのに、この件については、ほぽ八割近く真実が書かれている。それも十年前の案件なのにだ。


 言い様がない違和感と不気味さが、勇也を襲う。


(これは、ただの失踪事件じゃない!!)


 直感的に、勇也はそう感じた。


 そう感じた瞬間だった。


 ゾワリと何かが勇也のうなじを撫でた。勇也は反射的に立ち上がり、背後を勢いよく振り返る。勢いがありすぎて、座っていた椅子が大きな音をたてて倒れた。その音が、勇也しかいない事務所に響く。


(気のせいか……)


 この時になって、勇也ははじめて自分が着ていたワイシャツが、冷や汗でグッショリと濡れていることに気付いた。





 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 裏野ドリームランドをURANOドリームランドに変更しました。

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