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人鬼

 


 モニターに映っているのは、化粧が崩れ、涙とよだれを垂らしながら、白目をむいてピクピクと体を痙攣している女子学生の姿だった。股の間には水溜まりが出来ている。

 つい、三十分前の容姿からは想像出来ない有り様だ。



『実際に、解体なんてするわけなかろう。あ奴らに見せたのは幻覚じゃ。それも思いっきり濃いやつをな。幻覚の中での死は、精神崩壊をまねくじゃろうな』



 そう勇也に話し掛けてきたのは、人形を抱いた十歳ぐらいの美少女だった。



 少女自体が人形のようだと思う程、可愛らしい容姿をした少女は、やけに似つかわしくない、大人びた、いや、古い話し方をする。

 そして、見た目と相反した存在感に、勇也は少女が人間でないことを感じとった。



 少女は何が可笑しいのか、コロコロと笑い出す。



『そんなに、我の話し方は古臭いか』

レイさん、何勝手に出てきてるんですか!?』



 レン太が十歳ぐらいの少女に向かって、敬語で話し掛けている。ピエロも麗に向かって一礼した。



『固いこと言うな、レン。主の許可はきちんと貰っておるわ』



(レン? それが、ウサギの名前か。そんなことよりも、こんな小さな子が、レン太やピエロより上?)



『当然じゃ、我はこ奴らより強いからな』

 また、コロコロと麗と呼ばれた少女は笑う。



(思ってたこと、口に出していたか?)



 勇也は戸惑う。そんな勇也を見て、麗は一層、可笑しそうに笑う。



『勇也。もっと近くに来い。我にその顔を見せよ』



 少女の姿をした、もののけにそう言われて、素直に近寄れるほど危機感がないわけじゃない。といって、正面から断ることに二の足を踏む。今自分がいる立場を考えると当然だった。

 そんな勇也の姿を、麗は楽しそうに見ている。



 考えあぐねている勇也を挟むように、涼と華が立つ。その隙に、巽が勇也の腕を掴むと、自分の方へと引き寄せた。



「人鬼、勇也君を喰らうつもりか?」

 涼と華が、少女を睨み付ける。



(ジンキ?)



『ほぉ~。我を一目で人鬼と見破るとは、さすが、退魔師というところか。じゃがの、我はお前たちに用はない。下がっておれ』



 モニター室が一瞬ざわつく。



(タイマシって、あの退魔師か? 探偵じゃないのか? もののけ相手の)



「そう言われて、素直に下がることは出来ないね」



 平然と答えているようだが、その内面は、かなり緊張していることに勇也は気付いていた。涼だけじゃない。華も緊張している。それだけ、目の前にいる少女が厄介だということか。



『その勇気は誉めてやろう。じゃが、邪魔だ。座っておれ』



 そう少女が言った瞬間、涼と華が崩れるように膝を折り、床に膝をつく。その額には脂汗が浮き出ていた。



『麗さん、戯れはそこまでに。私たちは、勇也様一行をご案内するよう命を受けております。その命を途中で放り出せと』



 ピエロの声に、若干の苛立ちが含まれているのを、麗は気付いていた。麗にとって、子犬がじゃれつくようなものだ。



『……仕方ないのぉ。今回は道化の顔をたてるとしよう。それで、知っておるか、勇也。血の匂いというものはな、いくら綺麗に掃除しても染み込むものなのだ。それが、人工物である、鉄やコンクリートだったとしてもな』



 ピエロに言われ、渋々折れる麗。軽くため息をつくと、話を戻した。ピエロの肩から力が抜ける。



『ここは夢の国。そこに、血の匂いは無粋じゃからの』



((夢の国だから流さない。だとしたら、他で流すのか))



 口に出さす、勇也と巽は突っ込む。



 麗がニヤリと笑った。

 鋭い牙が二本、口元から覗く。



 ーー肯定。



 間違いなく、今回は口に出していない。だが、麗はタイミングよく微笑む。それも、背筋がゾッとするような笑みでだ。勇也と巽は確信する。

 麗は人の考えを読む能力があると。



 そして、目の前にいる少女は人を喰らう、もののけだと。

 それは、確信に近いものだった。



 静まるモニター室。

 いつの間にか、女子学生を映し出していたモニターが、男子学生に切り替わっていた。










 室内は薄暗い。目が段々慣れてきた。

 今は使われていないフロアーなのか、物置き状態だった。あちこちに小道具が置かれていた。



 エレベーターから脱出した松井と村山は、物音をたてないように注意しながら、非常階段を探していた。



「そっちにあったか?」

「いや、こっちも空振りだ」



 松井はチッと舌打ちする。



 二人は理解していた。

 それは、本能からかどうかは分からないが。

 時間をかければかけるほど、自分たちの身が危ないのだと。



 だからこそ、二人は里奈を囮とした。いや、生け贄か。



 それを何も考えず、何も思わず、平然とやってのけるのが、松井、村山という男たちだった。





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