斎藤里奈
逃げ出した里奈のスマホが鳴った。
里奈は震える手でスマホの画面をタップする。ラインのマークが出ていた。全身をガタガタと震えながらも、里奈はラインの画面を開いた。五人のグループラインに、エレベーターに残してきた女子学生からのラインが届いていた。
開けたくない。
開けたくないのに、自分の意思に反して指が勝手に動く。
押した瞬間、ライン上に写しだされていたのは、親友の血塗れの死体の写真だった。
「キャアーーーー!!!!」
里奈はスマホを投げ捨てる。派手な音をたてて、スマホは廊下を滑る。
その時だ。
電話が鳴った。
もしかしたら、松井や村山かもしれない。それに、このままでなかったら、あの人形たちに自分の居場所が知られるかも。そう考えた里奈は、震えながらも、慌てて投げ捨てたスマホを拾う。どこから掛かってきたのか確認しないまま、電話に出た。
「…………里奈……どうして、私を見捨てたの? 親友じゃなかったの?」
電話から聞こえてくるのは、とても苦しげな女性の声だ。その声は確かに親友のものだった。死んだはずの親友の声ーー。
「ヒッ!!」
里奈は反射的にスマホを壁に叩き付けた。液晶が壊れ、画面が暗くなる。静寂が訪れた。一切物音がしない中、聞こえてくるのは里奈の息遣いだけだった。
ガタガタと震えながら、体を縮込ませ、隅に隠れる里奈。
何が間違っていたの?
一体、自分が何をしたの?
どうして、こんな目にあってるの?
ここまで来ても、里奈は気付かない。
自分たちが、今まで何をしてきたのか。
その結果、自分たちが如何に恨まれていたのかをーー。
里奈の恐怖が最頂点に達した、まさにその時だった。
壊れたはずのスマホが突然鳴りだした。
もう悲鳴を発することも出来ないほど、精神的に追い込まれた里奈は、もはや、この場から逃げ出すことなど不可能だった。
それでも逃げ出したい。その思いだけが、里奈を支配する。
唯一出来たのは、体をスマホの反対側に逸らせるだけだった。
しばらく鳴り続ける電話。
その場に似つかわしくない、アイドルの新曲が響き渡る。
軽快な音楽が突然切れた。
「………………斉藤さん。次は君の番だよ」
操作していないのに、勝手にスピーカーになったスマホから流れてきたのは、親友の声ではなかった。やけに楽しそうな、男性の声。
そう……その声は…………
その声が誰なのか分かった瞬間、里奈は気付く。これは復讐なのだ、あの男のーー
「い……嫌っ!! 止めて……ごめんなさい…………許して…………ゆるーー」
震える声で、里奈は必死に命乞いをする。
スマホの横に、可愛いピンクのドレスを着たフランス人形が立っていたからだ。エレベーターの中にいたフランス人形ではなかった。
里奈はフランス人形から視線を外せない。
その人形の手には、アイスピックが握られている。
里奈はこの時気付いていなかった。人形は一体ではなかったことに。中には、可愛い動物のぬいぐるみもいる。皆その手には、アイスピックが握られていた。
人形たちは、ゆっくりと里奈に近付いて行った。