表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人喰い遊園地  作者: 井藤 美樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

人形

 


 エレベーター内に設置されている鏡の下に、日本人形とフランス人形が仲良く座っていた。



 だが四人は、そこに人形が座っていることに気付かない。彼らの頭の中には、逃げ出した中川に対して、制裁という名のリンチを加えることで一杯だった。



 エレベーターは地下二階で止まる。



 音をたてずに扉が開いた。



 その瞬間ーー。



 塩素系の匂いと鉄分の強烈な匂いが、四人を襲った。四人は悪臭に顔を歪める。



 ここに来て、四人は言い様のない恐怖を感じた。

 それは、生物としての本能からくる恐怖だった。彼らの脳裏にある噂が頭を過る。



 ドリームキャッスルのどこかに、隠された部屋があるという噂だ。その部屋は、拷問部屋だという。

 遊園地の園長が自分の趣味のために作った、特別な部屋。

 そして夜な夜な、園長は園を訪れた客を誘拐し、拷問にかけるという。嘗て、この遊園地で姿を消した二十三人は、園長の餌食になった犠牲者。

 拷問を楽しんだ後の亡骸は、硫酸で溶かしたという。



 女子学生の一人が冗談半分に話題にした時、宣伝だと一蹴した噂。



「…………あれって、噂だよね?」



 さっき、一階で、噂を口にした女子学生が、小さな声で呟きながら、一歩鏡の方へと後ずさった時だった。

 突然、女子学生の足の力が抜けた。体重を支えきれなくなり、その場に倒れ込む。



「「なっ!?」」

「キャ!!」



 いきなり仲間の一人が倒れ込んだことに驚き、三人は短い悲鳴を上げる。後ろを振り返り、倒れた女子学生を見下ろした。



 その瞬間ーー



 男子学生の二人が声にならない悲鳴を上げ、弾かれたようにエレベーターから飛び出る。語尾を伸ばして喋っていた女子学生は、腰を抜かしながらも、腕の力でエレベーターの外へと出ようと必死でもがく。



「……里奈……里奈、どうかしたの……? 松井君も村山君も…………」

 訳が分からない女子学生は、友人の名前を呼ぶ。



「「「足……足……足…………」」」

 指差しながら同じ言葉を何回も繰り返す、友人たち。



 一瞬何が起きているのか、理解出来ない。痛みもなかった。熱くなっただけだ。そして突然、体重を支えきれなくなった。

 友人たちに促されるように、女子学生は両腕を床に付き、上半身を僅かに起こして後ろを向く。



 薄暗いエレベーター内は、四隅に明かりが届いていない。真っ暗だった。それでも、自分の尻近くまで、真っ赤な水溜まりが広がっているのは、はっきりと見えた。水溜まりの中に、自分の足があった。



 そう……



 両足のアキレス腱を鋭利な刃物でスパッと切り裂かれた、自分の足が……



「キャアーーーーーー!!!!!!」



 女子学生は弾かれたように、甲高い悲鳴を上げた。必死で、友人たちの元へ行こうと足掻く。



 その時だ。



 何か金属を引き摺るような音がした。真っ暗な四隅の一角から、何かが近付いて来る。始めは、足先が見えた。



 小さな赤い靴。

 そして、白い足袋と草履。



 徐々に姿を現す小さな影。



 影はやがて、完全に姿を現す。



 それは人形だった。

 フランス人形と日本人形。



 二体の人形は、仲良く一本ののこぎりを持っていた。刃の両側が持ち手になっている鋸。その銀色の鋸の刃から、赤い滴がボタボタと数滴落ちた。



 松井、村山、そして里奈は悲鳴を上げ、エレベーターから慌てて離れる。



「待って!!」



 仲間の願いを無視して、薄暗い廊下を駆け出す三人。



「待って!!!! 置いてかないでーーーー!!!!!!」



 自分を置いて逃げ出す仲間たちの背中に向かって、女子学生は必死で嘆願する。



 誰も、その声に振り返らない。その声は虚しく響くだけだった。女子学生はもう一度、最後の望みを掛けようとした。だが、それは出来なかった。



 倒れている女子学生の喉元に回った二体の人形が、鋸の刃を喉元に当てていたからだ。



 フランス人形は思いっきり、刃を自分の方に引く。今度は、日本人形が自分の方に引く。鈍い音が地下室に響いた。



 鮮血がエレベーター内全体に勢いよく飛び散る。



 ピクピクと痙攣していた肉体が、完全に動かなくなった。

 その脇に佇む人形たち。その一体の手には、女子学生のスマホが握られていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ