ドリームキャッスル
「一つ、訊いていいか?」
ドリームキャッスルに向かう途中、勇也はレン太に話し掛けた。
『いいよ! 勇也様。何でも質問して』
気さくな口調でレン太は答える。
「どうして、入れ替わったりしてるんだ? もののけは、人間に棲みかを追われたんだろ。なのに、何で、人間に関わろうとしてる? 無視すればいいだろ。わざわざ、誘拐までする必要がどこにある?」
ピエロとレン太は人間の意思を尊重していると言った。しかし、実際、行方不明になった人数は、遥かにその数を上回っている。
『う~ん。……誘拐した覚えはないけど』
「何言ってるんだ!! 結構な数の行方不明者がいるだろ!?」
勇也の台詞に、レン太は肩を竦める。もののけなのに、やけに、人間らしい仕草だ。外見はウサギの着ぐるみだが。
『それに関しては、こっちは無実だね。裏野ドリームランドが閉園する前にいなくなった人は、勝手に来た人たちだからね。それ以外の半分は、これから分かると思うけど……。後の半分は、僕たちもののけは関与してないよ』
(誘拐に関しては無実っていう意味か)
レン太が言う勝手に来た人たちとは、閉園する切っ掛けとなった行方不明者たちのことだろう。レン太の言うことが正しければ、巽が請けた仕事の行方不明者の何人かは、もののけが関与していないことになる。
もののけでなかったら、何かの事件に巻き込まれたか、意図して、自分で姿を消したかの二つだ。
「あくまで、こいつらの話が真実ならだ」
前を歩いていた巽が、勇也の隣に移動すると、耳元で囁く。そして、強引に勇也の腕を掴むと、涼や華の側に連れて行く。
「お前、危機感無さ過ぎ。何、和んでるんだ」
「勇也君は愛されてるからね」
「だとしても、近付き過ぎです。もう少し、危機感を持って下さい。何、懐柔されてるんですか!」
やっと側に戻って来た勇也に、巽は頭を軽く小突く。涼はため息を付き、華は十歳近く上の大人を叱り付ける。三人とも、勇也のことを心から心配していた。
「ごめん」
勇也は三人に素直に頭を下げる。その様子を、レン太が後ろから黙って見詰めていた。
「一体、あいつどこに隠れやがった!!」
黒髪の男子学生が憤りを隠そうともせずに、怒鳴る。
ミラーハウスの係員が言った通り、ドリームキャッスルに中川は隠れていた。一瞬だが、中川の後ろ姿を見掛けた。間違いない。
「こっち側にはいなかった。マジ、どこにいんだよ!?」
茶髪の男子学生も憤っていた。
そんなに広いアトラクションじゃない。造りも至って単純だ。お城の中を歩く体験型アトラクション。といっても、道なりに進むだけだ。隠れるところも少ないはず。なのに、見付からない。
「会ったら、ただじゃおかねぇ!!」
「もしかしたら、従業員通路に逃げ込んだんじゃないか?」
「チッ! めんどくせーー」
館内で騒ぐ大学生たち。これだけ騒いでいても、係員が飛んで来ないことに不信感すら抱かない。
「ここ気持ち悪いところよね。あっちこっちに人形置いてるし」
肩まで髪を伸ばした女子学生が、ぶるっと体を震わせている。体感温度が低くなったのは気のせい。
「田舎の遊園地よね~~。人形なんて、田舎感丸出し~~」
そう語尾を伸ばしながら笑う、クルクルと髪を巻いた女子学生。
「一応、もののけが運営していることになってるんだから」
「もののけね~~。そんなのいるわけないのにね~~。だっさぁ~~」
女子学生二人がそんな話をしていた時だった。
ーーガタン!!
何かが倒れる音がした。
四人は音がした方向に走り出す。音がしたのは、やはり従業員通路のようだ。躊躇うことなく、四人は立入禁止の札を跨ぐ。奥に進むと、不自然に倒れた人形と空き缶が転がっていた。薄暗い通路の先には一台のエレベーターが動いていた。
エレベーターは下に向かって降りている途中だ。
「あいつ、下に逃げたな」
「だね~~。勿論、追いかけるよね」
「当たり前だろ」
「ねぇ。確か、ドリームキャッスルの地下に拷問部屋があるっていう噂あったよね」
「そんなの、宣伝に決まってるだろ」
「あったりして」
ケタケタと笑う四人の大学生たち。
黒髪の男子学生がボタンを押した。金属音と共にエレベーターが上がってくる。そして四人の前で、扉が静かに開いた。四人は笑いながら、エレベーターに乗り込んだ。
これから先、自分たちの身に何が起きるか知りもしないでーー。