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『丁度、人間が入って来ましたね。モニターをご覧下さい』



 ピエロがモニターを指差す。そこには、五人組の男女が映しだされている。やけに派手な容姿をしたグループだった。おそらく、大学生のグループだろう。彼らの楽しそうな声がモニター室に響く。どうやら、胆試しに来たようだ。



 モニターを操作しているのは、スタッフのロゴが入ったポロシャツを着たもののけたち。

 そう……勇也が抱いていた少年の体を、無理矢理連れて行った連中だ。



 勇也は苦々しく顔を歪める。モニターを凝視しながら、勇也はさっき交わしたレン太の言葉を思い出していた。









『この肉体はもう使えませんから、餌にするんです。アクアの主の。今夜はご馳走ですね』



 レン太の台詞に凍り付く勇也。声が出ない勇也に、尚もレン太は言う。



『勇也様も分かってると思うけど、今さっきまで入ってたのは、もののけだからね。これが、ミラーハウスの噂の真相かな。勇也様が気になってるのは、この肉体の持ち主の魂だよね。その魂なら、もうこの世にはいない。死んでしまったからね。……正確に言えば、肉体は生きていたけど、心は死んだ状態だった』



 さっきより砕けた話し方だ。でも、話の内容がショッキング過ぎて、勇也はレン太の話し方が変わったことに気付かない。



「……心が死んでいた」

 勇也は呟く。レン太は頷いた。



『そう、死んでいた。この人間の場合、原因は苛めかな。かなり酷い苛めを受けてたみたいだから。死にたいけど、自分では死ねない。心が疲弊して、死んでしまった人間。そういう人間を僕たちは使う。自殺補助っていうのかな。僕たちが必要なのは、器、肉体だけだからね。魂まではいらない。だからといって、無理矢理引き抜くことはしたくないしね。……でも、もののけを入れれるのは二回が限度なんだよね。異物だから、どうしても、拒否反応がでてしまうんだよね』



 レン太はそう言いながらしゃがみ込む。レン太は、少年が着ていたテーシャツを捲る。少年の腹には、紫の内出血のような痣が広がっていた。



(これが、レン太の言う。拒否反応か……)



「ーーそれで、もう使えなくなった肉体は廃棄か!!」

 吐き捨てるように、勇也は声を絞り出す。



『廃棄はしませんよ。勿体ない。ちゃんと再利用しますから、ご安心下さい』

 そう答えたのはレン太ではなく、迎えに来たピエロだった。



 ピエロの後ろには、真っ青な顔をした巽と、表情をなくした涼と華が立っていた。



 巽たちが、自分とレン太の会話をどこから聞いていたのか分からなかった。だが、勇也は止めることがどうしても出来なかった。



「アクアの主に喰わせることが、再利用か!!!!」



 勇也は沸き上がる怒りを、目の前にいるもののけたちにぶつけた。ミラーハウスに、その怒鳴り声が虚しく響く。



『だって、勇也様。勇也様が抱いているのは死体だよ』

 そう答えたのは、レン太だった。









 ーー五人組の大学生グループ。



 男二人が前を歩き、その後ろを女子二人がついて歩く。グループの一番後ろを、一人の若者がついてきていた。

 前四人は明るいが、一番後ろを歩く若者は明らかに様子が違った。暗い印象が画面越しでも見てとれる。無理矢理付き合わされたのだと、他人の勇也たちでも分かった。



 彼らが奥に進んだ時だ。



 モニターに変化があった。前を歩く四人の姿が、うっすらと赤色に染まって映っていたのだ。無理矢理付き合わされた若者は、緑色に染まって映っていた。



(この違いは何だ?)



『赤色のは、このアトラクションでは使えません。使えるのは、一番後ろを歩く、緑色の若者です。因みに、この場にはいませんが、何色にも染まっていない者は、もののけの魂を受け入れた肉体です』



 ピエロが見学している勇也たちに、詳しく説明する。



 つまり今から、あの大学生は、自分の人生を終えるのだ。



『一つ訂正しますが、私たちは無理矢理、事を及んではいません。あくまで、人である貴方たちに決定権があります。拒否すれば、我々は大人しく手を引きます』



 一番後ろを歩いていた大学生の姿が、忽然とモニターから消えた。すぐに別のモニターに、大学生が映しだされる。大学生一人だけではなかった。女性と一緒だ。



『裏野ドリームランドにお越し頂きありがとうございます、中川様。()()様から御案内で宜しかったですね』



 女性のセリフに、大学生は頷く。



()()? まさか!?)



 勇也はその名前に聞き覚えがあった。記憶を失って発見された内の一人。大学生だった。もしかして、彼らがいざなっているのか、この人喰い遊園地に。



『正確に言えば違いますよ、勇也様。確かに我々は可能性がある人物に声掛けはします。しかし、決めるのは彼らです。この遊園地に来ることも、肉体を差し出すのも』



 ピエロは答える。そうしているうちにも、モニター上では、着々と話が進んでいる。



『畏まりました。それでは、最終確認をさせて頂きます。その肉体を我々に提供して頂ける意思に、変わりはありませんか?』



 事務的だが、若者の意思を確認する女性。



「……約……約束は守ってくれるんだろうな!?」



 ーー約束?



『勿論です。ここは、裏野ドリームランド。もののけが運営する遊園地です。中川様のご希望は必ず叶えて差し上げます。勿論、特別観覧席をご用意させて頂きます。心行くまで、ご鑑賞下さいませ』



 にっこりとスタッフの女性は微笑む。



「…………分かった。お前たちにこの肉体をやる!! その代わり、俺の願いを叶えてくれ!!」

 若者は叫んだ。



『ありがとうございます。これで、商談成立です。念のために、この書類にサインをーー』



 女性が言い終わらないうちに、若者は差し出された種類を奪い取ると、躊躇ためらわずにサインした。





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