ミラーハウス
『まず、皆様を御案内させて頂くのが、このミラーハウスです!』
『ミラーハウスに到着!! 一杯、鏡があるんだよ~~』
決めポーズをする、ピエロとウサギのレン太。彼らの陽気な案内で、四人はミラーハウスの前までやって来た。
ーーもののけによる、裏野ドリームランド園内ツアー。
それが、ピエロとレン太がいう特別なプログラムだった。
(まさか、もののけに園内案内される日が来るなんて思わなかった)
人生ってつくづく不思議だと、勇也は思う。
もののけのピエロとウサギのレン太の申し出を聞いた時、正直、四人全員、慎んで辞退したかった。「結構です」「間に合ってます」と。
閉園時間まで、広場で時間を潰す。何もしない。誰とも接触しない。
それが尤も理想的だった。少なくとも、他の人とは違い、四人はここに遊びに来たのではない。強く結ばれた勇也の〈縁〉を、解きに来たのだ。なのに今、四人は思いっきり、彼らと関わっている。
(尚更、彼らとの〈縁〉を強く結んでるんじゃないか?)
一抹の不安が、勇也の頭を過る。でも、この選択が間違いだとは思わない。
「彼らのテリトリーに入った以上、逆らうことは得策じゃない」
涼は厳しい顔をして告げた。
逆らえばーー
最悪、死か。
それとも、このまま閉じ込められるか。
ブレミアムチケットを持っていたとしても、無事帰って来れるという保証はない。帰って来れた者がブレミアムチケットを持っていただけで、配付された分=戻ってきた人数とは限らない。正直、その可能性はかなり低いと、勇也たちは考えていた。
だとしたら……涼の言うことは、最良の選択だと勇也は思った。確かにその通りだ。無事に帰ることが最優先なのだ。可能性がある方を選択する。という訳で、ここはピエロとレン太の提案に乗ることにした。
ピエロとウサギのレン太が、まず最初に案内したのは、〈ミラーハウス〉だった。
そう……
ーーあの、〈ミラーハウス〉だ。
噂が囁かれていた、あのアトラクションの一つ。出て来たら、別人のようになっていたらしい。
そのアトラクションに案内された。
噂の真実がどうであれ、引きつる笑顔を浮かべながら、勇也はどうしても、入るのを躊躇ってしまう。当然だ。それが、普通の神経だ。そんな所に、誰が好き好んで足を踏み入れようと思う。
勇也と巽は立ち尽くす。涼も華も立ち止まった。そんな四人の前を、親子連れが通り過ぎて行った。
「あの親子連れも……?」
『はい。もののけですよ』
呟く勇也の声に、ピエロは答える。
一見、人にしか見えなかった。ただ、人にしては儚げな感じがした。消えてなくなりそうな、泡のような感じがした。勇也は親子の後ろ姿を見送る。
ピエロとレン太は、そんな勇也の様子を観察していた。隠そうともしていない。涼と華、そして巽は、厳しい目でピエロとレン太を睨み付ける。勇也は気付いていない。
『大丈夫だよ!! 勇也様。勇也様たちは別人になったりしないよ』
ウサギのレン太は、勇也の不安を少しでも軽くするために、妙に明るい口調で言った。
(本当か……?)
勇也は疑問に思う。口に出すことは、到底出来ないが。その時、ふと、勇也はレン太の言葉に引っ掛かりを感じた。
(たちはーー今、そう言わなかったか!?)
ーーは。
その一文字が示す意味。
(自分たちはならない。なら、俺たち以外は?)
他の人が別人になる可能性がないのなら、そんな言い方は始めからしない。『勇也たち』と断定せずに、『誰も』と表現するだろう。
(だとしたら、やはりあの噂は……)
『さぁ、皆様。さっそく、中に入りましょう!』
ピエロは立ち止まったままの勇也たちに、中に入るよう笑顔で促す。その笑顔が勇也を凍らせる。心から怖いと感じた。
ピエロとレン太は気付いている。
勇也が気付いていることに。