●卵の秘密
●卵の秘密
久しぶりに友人の渡河と会う事になった。
美味しい夕食を食べるから来ないかと言う。
ついでに田舎から友人が来ていて、会わせるというのだ。
まさか、そんな事言って、占いの相談じゃないだろうな?
と言うと、今日は正真正銘、ただ食事会だと渡河。
出かけようと、玄関に向うと、
猫のミミもお見送りにやってきた。
そうだ、今日は東京まで行くから、
その間に、ミミが餓死しないように、食事を大盛りにしてから家を出た。
私が自動車事故で万が一死んでも、
ミミは他の人が見つけるまでの3日位は生き延びるかもしれない。
私が遠出する時は、いつもそんな心配をして出かける様にしている。
東京に着き、渡河に電話すると、
赤坂のホテルに居ると言う。
そこでホテルに行くと、ロビーで友人とやらを紹介された。
見ると、渡河もその友人も、上から靴までビシッとスーツと革靴で決めている。
「マジか!」
普段着のわたしゃ、まるで浮浪者だ。
電話前もっていってくれりゃあ、私ももう少しマシな格好をしたのだが、
もう手遅れである。
今日も美味しいラーメンか、何かだと思っていた。
せめて、電話で会食の場所がホテルニューオータニだと言ってくれれば、
と思いつつも、エレベーターに付き人の如く乗り込んだ。
ホテルニューオータニと言えば、赤坂で一番の高級ホテルである。
勿論、こんな場所に泊まった事も無ければ、食事をした事も無い。
多分、友人のおごりなのだろう。
渡河が、こんな高い所、払うはずが無いからだ。
そして、渡河が食事か映画に呼んでくれる時は、
彼がおごってくれるのが通例となっていた。
私達はレストランのある階で降りると、
さっそく高そうな店に入り、景色が見える窓際に座った。
私も最後に、席に座りつつ、
「この高級そうな身なりの男は、どんな奴なのか」と観察した。
高級そうな時計、スーツ、靴。
「官僚だろうか。」
すると、渡河が彼を紹介してくれた。
「こちら、友人で占い師のかや。」
「彼は、友原さん」
そして、その後の言葉が意外だった。
「農家やってる人。」
「えっ、農業?」
「そう。」
しかも、聞くと年商は2億円だという。
「そんなに儲かるんかい。」(渡河)
「何をお作りなんですか。」(知らない間に敬語になっている私)
「主に、レタスとキャベツを作っています。」
「レタスか~い!」(心の叫び)
どうやら、渡河は話の話題に詰まらない様に、
私を呼んだ様だったが、意外と友原さんは話好きで、
私が色々話す必要は無かった。
しかも、彼の話は意外と面白かったのである。
彼は普通の農家に生まれ、
小さい時から、ニワトリを育て、稲作を手伝い、
農業に密接した人生を歩んできた。
しかし、彼の家は一向に裕福には成らなかったという。
周りのある家は、どんどん大きくなるのに、彼の内はいつまでたってもそのまま。
高校になるまで、ずっとそれが不思議だった。
それがやがて、オレが大人になったら、
儲かる農業をやろうと決心させたという。
そんなある時、
友人の一人が、実家が養鶏をやっていて、
すごく儲かっているから、お前と一緒にやらないかという話になった。
スーパーに行っても、卵はいつもみんなが買う商品である。
今の家庭には必需品だ。
これで儲かれば、一生安定した仕事となる。
彼はすぐに、一緒にやる事を承諾した。
そこでまずは、ノウハウを学ぶ為に、
実家の養鶏場で1ヵ月手伝う事になった。
しかし、彼はそこで貴重な体験をしたという。
そしてそこで、卵の秘密を知ってしまった彼は、養鶏の夢を捨てたというのだ。
彼はどんな秘密を知ってしまったのだろうか。
まず、養鶏場の朝は早かったという。
朝鶏舎を回って、卵を集めるだけだと思っていたら、
まずは、ニワトリのチェックだという。
病気のニワトリはいないか、死んでいるニワトリはいないか。
エサを余り食べないニワトリはいないか。
糞の具合や色はどうか。
異常の有無の確認が第一だという。
それと同時に、エサや水をあげる機械が故障したりしていないかの確認。
それから卵の回収になるのですが、
それでも、ただ回収するだけでなく、なるべくニワトリが汚したりしない様に、
早く回収する必要があり、また回収した卵は、
奇形のものがないか、傷が無いかどうかも見なくてはなりません。
意外に大変だったといいます。
ただ、雨の日も出来ますし、儲かるなら、苦にならないと思いました。
当初は、卵をトラックで運んだり収入になる場面に近い部分を体験したそうだが、
やがて、養鶏場の暗部にも接する様になったという。
それは、雛の養育現場を勉強し始めた時からだった。
まず、彼が気になったのは、
今まで農家の為に沢山卵を産んでくれたニワトリのその後だったという。
あれだけ今まで頑張ってくれたメスも、卵を産めなくなると、
その農家によって違うだろうが、そこの家では、
直ぐに契約しているペットフッドの業者に回されていたのである。
なんと最終的に、ウチのミミが食べていたのか。(心の声)
また、彼をもっと悲しませたのは、
新しく卵を産む雛を育てる過程である。
当然、卵を産むメスの雛と、卵を産まないオスの雛が生れる。
どちらも、可愛い。
でも、メスとオスを判断し終えると、
オスの雛をどんどん、大きなビニール袋に放りこんでいくのである。
大きなビニール袋は、どんどんどんどん、次から次へと、
オスの雛が放り込まれ、やがて、下の方の雛が息が出来なくなり死に、
水もエサもやらないで、封をするので、やがて全部死ぬという。
それは肥料になるという。
また、卵を産めるぐらいになると、
ギュウギュウ詰め鶏舎に押し込めるので、
メス同士が近すぎて、クチバシでお互いを傷つけ無い様に、
クチバシの先端を、機械で切り落とすのだ。
多分、ニワトリにしたら、痛いだろうがもちろん麻酔など無い。
それらの行為は、彼が幼い頃に飼っていた数十匹のニワトリの世話とは、
ほど遠い行為だったので、ショックだったという。
君原さんは、養鶏場を辞めた。
そして、野菜一本で行こうと決めたのだという。
現在、ドイツ政府では、
卵の段階で何とかオスかメスかの性別判断が出来る様にして、
なんとか、2017年頃までにと、
オスの雛の無駄殺しを失くす研究に資金を出している。
最後に、
ある旅行者が言った言葉を思い出したので、付け加えておきます。
彼女は、去年、
幸せの国と呼ばれる、ブータン王国に行ったという。
だいぶ近代化されたブータンだったというが、
1ヵ所だけ、
「ああ、ここが幸せに国の原点なのかなぁ」
と思った場所があったという。
私が、「どんな所ですか。」と聞くと、
そこは、西ブータンにある1つの小さな古ぼけた寺院だという。
「古ぼけた寺院? どして?」
彼女も、始めは寺院に沢山のニワトリが居るので、
卵でも売っているのかと思っていたという。
そして、エサをあげているお坊さんに、
「美味しい卵、とれますか?」と片言で聞いてみた。
すると、
「卵は産みません。」と言われた。
そのお坊さんいわく、
「ここに居るのは、全部雄鶏なんですよ。」
「近くの農家の住民が、
役に立たなくなった雄鶏も殺さないで、ここに置いていくんです。」
「そんな子たちを、
私がエサをあげて、一生面倒見てあげるんです。」
END