ペナルティとは
古来よりRPGと言う物はトライ&エラーを繰り返す事によって攻略されてきた。
あのボスは首の付け根が弱点だとか、噛み付きの後には大きな隙が出来る…などの情報は実際に対峙するか、対峙したプレイヤーからの情報でしか知る事は出来ない。
このVRMMORPG「sword&skill」も例外ではなく、草原に発生している一般的には雑魚モンスターと呼ばれる者たちの攻略法が揃いつつあった。
「スライムは全身の7〜8割を吹っ飛ばすと自然消滅するらしい」
「正確に核を破壊すれば一撃で倒す事も可能だとか」
「攻撃受けた時の痛みまじヤベェよな!まじヤベェ」
……周囲の冒険者が口々に話している内容に聞き耳を立てつつ俺は改めて、昼間のスライムからのアイテムログを見直していた。
「(…あれだけ苦労して倒したんだ。何か役立つ物があるかもしれない。)」
先程は目にも止めなかったような素材にもきっちりと目を通していく。
不穏な雰囲気が漂い始めたこのゲームにおいて、自分だけが知り得る情報は何より重要だ。
「(…スライムの核か。)」
俺はスライムの核にカーソルを合わせて説明文をポップアップさせてみた。
「スライムの核
品質良
レアリティC
スライムからごく稀に入手する事が出来る核。
価値はあまりないが、武器強化素材に用いる事でランダムで良い効果が付く事がある。」
……ごく稀に?
どうにもかなり運が良かったようだ。
これを使って武器を強化すれば少し戦闘が楽になるかもしれない。
「鍛冶屋に行ってみるか。」
確かここから南の方に5分程歩けば着いたはずだ。
「たかがスライムごときに苦戦しているようでは先が危ぶまれるからな。」
いずれは防具も強化するとして、武器の強化は最優先事項だ。
俺は鍛冶屋に向け、歩を進め出した。
--------------------
「あのゴブリン野郎次は絶対ぶっ飛ばしてやる!」
今しがた蘇生ポイントへの死に戻りを起こしたと見られる男性プレイヤーが叫び声を上げている。
「……今の俺じゃあゴブリンはおろか、スライムすらキツイってのに。」
もうゴブリンに挑み始めている者たちがいるとは。
プレイヤーの順応性と言うのも案外侮れないかもしれない。
「!!?!?……!!?」
先程の男性プレイヤーが声にならない叫びを上げ出した。
恐らくは先程の人型アバターが言っていた「それなりのペナルティ」と言う物がどのような物か身をもって体験したのだろう。
未だペナルティがどのような物か知らない俺はその男性プレイヤーに声を掛けてみた。
「なぁあんた。物凄い叫び声を上げてたが、大丈夫か?」
「………………あぁ。ペナルティがあまりにもひどくてな。」
大概のRPGにおける死に戻りのペナルティと言ったものは経験値やアイテムを少量ロストしたり、一定時間HPゲージの回復に制限を受けるなどの比較的軽い物だ。
もちろん、高レベルのプレイヤーほど死に戻り時に失う経験値量は増えるし、レアアイテムをロストしたりすれば目も当てられないが。
「…………どんな物だったんだ?」
「……レベル…そして取得したあらゆるスキルが消滅しちまった。幸いアイテム類は無事なようだが今のステータスじゃあ装備も出来ねぇ。」
んな!?なんだと?
…つまりは負ければアイテム類を除いて初期キャラに戻されるって事じゃないか。
今はまだ始まったばかりだから良いようなものの、これがゲームの終盤なんかで起きてみろ…モチベーションを保つ事が出来ず、攻略は頓挫するかもしれない。
「………つまり、戦闘で負ける訳にはいかないという事か。安全マージンをかなり取らなければならないな。」
「……あぁ。あんたも気をつけろよ。」
男は先程までの威勢のいい様子から一気に気落ちした様子で去っていった。
戦闘において負けにくくするには防具、レベルアップ等によるHPゲージの上昇。
そして補助スキルによるステータスアップなどがあるが、どれもすぐに手に入るようなものではない。
やはり手元にあるスライムの核を使う事による戦力増強が先だろう。
幸い男の情報ではアイテム類はロストしていなかったとの事だ。
強敵に挑んでは負けてを繰り返すのは今のうちかもしれない。
…そんな事を考えつつ歩いている内に鍛冶屋へと辿り着いた。
店のNPCが威勢のいい声を上げている。
「らっしゃい!強化かい?修理かい?」
「強化だ。こいつは使えるか?」
俺はアイテム欄からスライムの核を実体化させると剣とともに差し出した。
「こいつで強化する事自体は可能だが、まずは修理してからじゃねえと無理だな。費用は合わせて2800ソルだが手持ちは大丈夫か?」
……かなり高いな。
初期金額が3000ソルでスライムを倒す事によって12ソル手に入れている為、今の手持ちは3012ソルだ。
背に腹は代えられないか。
「…分かった。2800ソル払おう。」
俺は2800ソルを実体化させるとNPCに差し出した。
「確かに。ちっと待ってな!」
NPCは店の奥に剣とスライムの核を持って引っ込んでいった。
誰かと話しているようでまた威勢のいい声が聞こえてくる。
「姐さん!強化依頼ですぜ!」
「う……い…よ………が!!」
話し相手の声は喧騒に紛れてよく聞こえないがどうやら怒っているようだ。
……やがて頭の上にコブを作ったNPCが剣とともに涙目で戻ってきた。
「お、おぎゃぐざんお待だぜじまじだ。ごぢらになりまず。」
「あ、あぁ。」
俺はNPCから剣を受け取るとそそくさとその場を後にした。
--------------------
「さて、どんな能力が付いたのやら。」
「タクティカルブレード
片手用直剣
品質優
スロット残り1
ATK+38
SPD+3
スライムキラー
鍛冶師リールによる逸品。
この剣を持つ頃には初心者と呼ばれなくなるだろう。
スライムの核を合成した事によりスライムキラーの能力が付加されている。」
……色々と変わっているな。
まず、武器そのものの名称が変わっている。
元々はショートブレードと呼ばれているものでATKも12くらいだったはずだ。
品質も可が優に変わっているし、スライムキラーの能力も付加されている。
スライムキラーの効果ってどんな物なんだ?
スライムキラーの部分はさらに展開する事が出来るようで詳しい説明文がポップアップされた。
「スライムキラー
スライムに対する攻撃値を戦闘中3倍にする。ただし、一部適応されない種類も存在する。
さらにスライムの核を破壊せずに戦闘を終了させた場合、そのスライムから得られる可能性のあるスライムの核を確定でドロップする。」
………滅茶苦茶強いじゃねえか!
リールって何もんだよ!?
それに限定的な条件があるとはいえ、スライムの核を確定でドロップさせるだと!?
これはかなりの優位性を得られるかもしれない。
当分はスライム狩りに勤しむか。
武器の確認を済ませた俺は宿屋を探して歩き始めた。
看板娘であろう女の子が呼び込みをしている姿がちらほらと目に入る。
「そこの冒険者さん!うちのお宿はどうですか?一泊200ソルで夕飯と朝食の2食付きです。とても美味しいって評判なんですよー。」
…200ソルか。明日稼がないとこりゃ破産だな。
「分かった。一泊させてもらうよ。」
「やた。一名様ごあんないー!」
若干舌ったらずな印象を受けるが明るくて可愛い子だ。
カウンターで鍵を受け取ると俺は食堂へと向かった。
他のプレイヤー達と思われる人でなかなかの盛況ぶりを醸している。
「らっしゃい!何を食うんだ?」
……ここまで来たところで俺は初めてメニュー表を目にした。
そこにはでっかく、それはもうでっかく日替わりと書かれていて右下に小さな字で他のメニューが書かれている。
「じゃあ、らー「あぁん?」…日替わりで。」
「日替わり一丁!」
間も無く受け取った日替わり定食を持って空いている席を探す。
偶然窓際の席が空いていた為、そこを確保した。
色とりどりの料理を口に運んでいく。
美味い…が何か違うのだ。
見た目は和食っぽいのに味は完全に洋風である。
「…目を閉じて食った方が美味いんじゃねえか?これ。」
そんなこんなで食べ進めていると一人の男性プレイヤーに声を掛けられた。
「よぉ、さっきの兄ちゃんじゃねえか。席が空いてなくてな。悪いんだが相席しても構わねえか?」
先程打倒ゴブリンを叫んでいたあの男だ。
「あぁ、構わないよ。代わりに色々話を聞かせてはくれないか。」
食事をしながら俺はこの男テリーに色々と情報を教えてもらった。
草原の中ほどに遺跡のような物があり上の層へ続いているように見える事。
その遺跡には未だ結界か何かが張られているようで立ち入る事が出来ない事。
遺跡の周辺にはゴブリンなどの比較的攻撃性の高いモンスター達が居ること…などだ。
「…なるほどな。何かフラグを立てなければそもそも立ち入ることすら出来ないのか。」
「あぁ、どうもそうらしい。きっと草原なんかでは手に入らないアイテムを持った敵もわんさかいるんだろうぜ。」
…明日に備えて早めに寝るか。
食事を終えた俺たちはそれぞれ別れた後に自分の部屋へと向かった。
「……さすがに今日は疲れたな。だがそれ相応の情報も得られた。明日はスライムを狩って核を集めるとするか。」
ベッドに横たわった俺をすぐに睡魔が襲う。
次第に意識は微睡んでいった。
なかなか文章を考えるというのは難しいものですね。
口調も話の長さも安定しないし…
なるべく努力して参ります。