第5話~友愛編~ 「アイスクリームが溶ける日に。」
彼女は街の中心から少し外れたところにある大広場に来ていた。
丸型の大広場は背の高い住宅街に大きな穴をあけたかのような印象で、
某大海賊アニメの海賊王の処刑台がある広場を連想させる。
広場には色とりどりの屋台が立ち並び、服や食べ物はもちろん、
骨董品や、雑貨も売られていた。
そして驚く点はなんといってもこの人の多さだ。
人ごみをかき分けながら広場の奥深くへと来てしまった。
もう方位すらわからない状況だ。
・・・まずい。城に帰れなかったらどうしよう・・・。
とりあえず、屋台の人に聞いてみるしか・・・。
辺りを見渡し、一見感じのよさそうなアイスクリーム売りのおばさんに
近づいていく。
「いらっしゃい!あらあんた、見かけない子だねぇ、どこの子?」
・・・一瞬で見抜かれた。もしやここの人は全員顔見知りなのか?
「えっと、私この街は初めてで、いろいろお聞きしたいのですが・・・。」
私が問うと、おばさんは快く承諾してくれた。
話を聞いていくうちに、この国の5つの街の事。部族の事など、
いろいろ話してくれた。話を聞いている間にアイスが溶けて
地面に落ち、一抹の絶望に襲われたのはまた別の話だ。
最後に、ふと質問をしてみる。
「あの、バルコって人は知っていますか?」
私をここに連れてきた人物の名前を尋ねると、おばさんは驚いたような
表情で言った。
「あんた、そりゃあうちの街じゃ有名なお金持ちだよ!ただその
お金の出所がみんな知らなくて、世間からの目は冷たいがね・・・。」
何しろ働いてないんだからね。とおばさんは言う。
あの人、本当に謎の人だ・・・。
おばさんに改めてお礼を言い、最後にもう一つアイスを買って
屋台から離れていく・・・あれ?
「・・・道聞くの・・・忘れた。」
なんてこった。何のために話しかけたんだ・・・。
困惑していると、ちょうど後ろから女の子に声を掛けられた。
「お姉さん!もしかして迷子?」
はっとなって振り向くと、中学生くらいの背の低い女の子が立っていた。
というか、天使だ!天使が舞い降りた!
「そうなの。私、訳あってこの街初めてで・・・。」
すると、女の子は笑顔で言った。
「じゃあ、案内するよ!私シャンシャ族のロラ、ここの中学生だよ!
よろしくね!」
シャンシャ族。先ほどのおばさんの話によると、
元の動物が犬科や猫科であった人が集まった部族だそうだ。
私がよろしくと返事をすると、こっちこっち!と私の手をひいて
早歩きでぐいぐいと引っ張った。
無邪気なロラに、思わず笑みが漏れる。
しばらく歩いたところで、ロラが歩みを止める。
「ここは広場が上から見渡せるんだよぉ~!」
彼女の言う通り、ここは広場に通じる坂。登り坂なので
振り向くと広場が一望できる。
「この広場のマーケットは色で売るものが分かれてて、あっちの
赤いテントが食べ物、緑が服、青が―――」
ロラの話も耳に入れながら、ふと考える。
・・・この子、初対面の人なのにすごい会話力だけど・・・。
どうしてこんな若い子が一人でいるんだろう。