第4話 「手に汗握る犬耳」
―――うわ、本当に私の部屋だ・・・何一つ変わったところがない・・・。
大臣のお爺さんの案内は一通り済み、今日は一先ず城や街の散策をしていろとの事らしい。
・・・にしても、本当に広いなこの城・・・。
街に出てみようと思い、大理石の階段を下りると、フロアの壁に
自分の身長よりも遥かに大きな絵画が置かれていた。
漫画やアニメなどで見たことがあるような、初代国王らしき人の絵画。
初代国王も人間なんだ。"人間から逃げてきた動物"の国なのに、
よく付き従ってきたな・・・。
どこかで見覚えのあるような顔だと思ったが、思い違いであろう。
さほど気にはしなかった。
そして再び門の方へ歩きだす。すると、
「王妃!お待ちください!」
と、メイドさんに呼び止められた。
「申し遅れまして大変恐縮なのですが、まだ王妃のことは市民は存じていません。なので今日だけはこちらを付けて頂けるでしょうか・・・。」
と言って差し出されたのは・・・犬耳のカチューシャにベルト型のしっぽ。マスク型の鼻と口。いずれも随分とリアルに作られていた。
まぁ、動物の国だし、仕方ないよね。こんなの趣味じゃないけど。
「ありがとうございます!」と一言お礼を言い、再び城に背を向ける。
すると、
「王妃様!お待ちください。」
と、今度は大臣に呼び止められた。え、お爺さん走ってきたの!?
「申し遅れまして大変恐縮なのですが、こちらをお渡ししておりませんでした。この国の通貨、"ユール"です。」
手に取った一枚の紙幣には、"10000EUR"と書かれていた。あ、さっきの
絵画の人も描かれてる。
また一言お礼を言い、今度こそはと大きめに一歩を踏み出す。
宮廷の正門へと一直線に進む参道。脇には、様々な露店が立ち並んでいた。
軽食から洋服。ジュエリーの屋台も出ていた。
ふと、一本の木の陰から猫が出てきた。すると、その猫はひょっと
二本足で立ちあがり、軽くジャンプすると、
一瞬にして"人型"へと姿を変えた。
「うわっ!?」と思わず声が漏れたが、周りも賑やかなので注目されずにすんだ。よかった・・・。
この国の動物たちは元の姿と人型を使い分けているらしい。
今自分が置かれている状況を客観視してみる。
私、ここにいて本当に大丈夫だよね・・・?浮いてないよね?
急に不安が押し寄せてきた。まぁばれてものちには王妃になるわけだし、
大丈夫・・・だよね?
え、大丈夫だよね!?