第2話 「夢の中の決意」
―――ガタゴトと音を立てながら、天空の線路を駆けていく。
車窓から街の時計塔が見えた。時刻は8時半。
いつも通りなら、もう学校についている時間だ。
まぁこれもきっと夢だろうし、覚めたら早く支度をしないと・・・。
所謂「明晰夢」というやつ・・・だよね・・・?
そう思いながら頬を抓る。
「・・・痛っ・・・!」
「夢ではありませんよ。」
唐突に聞こえた声に、思わず声を上げて驚いてしまった。
「バルコさん・・・じゃあ私これからどこに
連れていかれるんですか!?」
「先ほど申し上げた通りです。エルミールさんには、
アムールの女王になって、政治を動かしていただきたいのです。」
私、地理得意だけど、そんな国聞いたことないし・・・。
「いつになったら返してもらえるんですか?
街には叔母さんが待ってるし、学校も・・・。」
必死に反論するが、バルコは尚も落ち着いた口調で語る。
「ご安心ください。貴女がこの列車に乗った瞬間、あの街。いや、
"あの世界"は、"空白の時間"を刻み始めましたから。」
空白の時間・・・?この人って、そっち系の人なの・・・?
「"空白の時間"って、いったい何なんですか?」
「"意味のない時間を過ごしている"とでも言いましょうか・・・。
貴女が乗車した数十分前から、あの世界では"貴女は元々居なかった"
ということになっています。貴女が元の世界に戻るとき、
貴女が乗車した午前8時5分からやり直されます。その時は、
他人の"貴女の記憶"も戻っていますよ。」
そんなおとぎ話みたいな話があり得るというのか・・・やはり夢?
神も仏も、霊も悪魔も、天国と地獄も信じたことがない「現実主義」の
私は、正直今置かれている状況を信じ込むことができなかった。
「あ、エルミールさん。そろそろ着きますよ。あの島がアムールです。」
バルコの知らせを聞き、車窓へと目をやる。
―――そこには、自然豊かな光景が広がっていた。それは思わず声が
漏れてしまうほどの絶景だった。
改めて考える。私がこの島の女王になる。私がこの島を動かす。
・・・あれ?
「あの、大事なことを言い忘れていたんですけど、私経済も法律も行政も
よくわからないんです。それでも私が女王になっていいんですか?」
すると、バルコは微笑んだ。
「大丈夫です。全ては島に着いたらお話ししますよ。」
あぁ、なら大丈夫か。というか私、なんでこんなに冷静なんだろう。
まぁ夢であれ現実であれ、逃げられる状況ではないだろう。
「やってやろう」
消極的な私は、決心した。
※登場人物※
主人公 [17/f] エルミール バルザック (Elmire Balzac)
謎の男 [?/m] バルコ ブオナロッティ(Balco Buonarroti)
エルミールの叔母 [47/f] アガット バルザック (Agathe Balzac)