四人ノ語ライ
友達に怖くないと言われたホラー作品でございます。
それでも伏線を張るなどして、それなりには作り込んだつもりですので、是非読んで、感想などをいただければなぁ、と思います。
夏だからって怖い話とは安直すぎやしないかい?
え?
俺の番だって?
分かった分かった。
話すから、急かさないでくれ。
その前に確認させてくれ。この話を終えたらその上で肝試しも行くのかい?
やだなぁ……。
あんまり好きじゃないんだよ。そういうの。
怖いのが苦手な割には話を聞いてる間は平気そうだったって?
話を聞く分には良いんだよ。知っている話だったしね。
え? みんなちゃんとオリジナルだって?
知ってるよ。ちゃんと分かってる。
ああ、もう分かったよ。
ご託はこれくらいにして話すよ。
でも、後悔はしないでくれよ。取って置きを話すから。恐怖で腰抜かさないようにね。
いやいや、本気だから。笑わないでくれよ。
まあ良いか、笑っていられるのは今のうち。ってちょっとこの言い方はありふれてたかな?
では、話そうか。
そうだな。
あれは……3年前だ。
3年も前だけどはっきり覚えてる。
数人のグループで心霊スポットに行ったんだ。
あ、いや、その時の経験で肝試しが嫌になったんじゃないよ。
えっ、一緒に行った人との関係?
えーと……ああ、うん、友達だったよ。そう、友達だった。
暗い山の中に、これまた暗いトンネルがあるんだ。
ああ、よくある感じの心霊スポットだね。
でも、居たんだよ。本当に。
幽霊が。
あ、信じてないね? 自分でも幽霊見たってくせに他の人のは信じないんだ。
いや、別に謝らなくて良い。
車でそのトンネルに入ったんだ。俺は3列目の一番左に乗っていたね。
ずっと真っ直ぐなトンネルなんだけど、なかなか出口が見えないんだ。
そんなに長いトンネルじゃない筈だった。
俺達も最初こそ、怖がりながらいるせいで時間が長く感じてるだけだと言ってそこまで気にしてなかったんだけど、さすがにだんだんおかしく感じ始めてね、みんな不安を口にし始めたんだ。
「やっぱりこんなとこ来ちゃ駄目だったんだ」
「もう帰りたい」
「暗いよ」
「怖いよ」
「死にたくないよ」
「助けてよ」
てね。
みんな気が狂いそうになってた。
それこそ車内は阿鼻叫喚の地獄絵図と言っていい。
……いや、違うな。阿鼻叫喚の地獄絵図はもう少しあとだ。まだ、このときはまだ、みんな得体の知れない恐怖に震えていただけだ。
俺もみんなと同様、本当に怖くてね。それこそ今までに感じたこともないほどの恐怖だったと覚えているよ。
みんな引っ付くように身を寄せやってね、車内は狭くないはずなのにギチギチだったよ。
あんまりキツいもんだから、みんな声を震わせながらも隣のやつに文句を言うわけさ。
そのときは少し穏やかな雰囲気にはなっていたね。それでもほんの少しだけ、声を震わせながらひきつった笑顔でじゃれ合う感じだったけど。
俺も左の奴に文句を言ったりして気を紛れさせたものだよ。
ん? ああ気付いてるみたいだね。そう、俺のその行動は致命的だったわけだ。
俺の左側には誰も居ない筈なんだから。
見てみると、女性のようだった。
でものっぺりと、まるで顔がないかのようで、目も孔が開いてるように真っ暗でね、底知れぬ闇を孕んでいたよ。
鼻は無いように見えた。穴はもしかしたら在ったかも知れない。口は……大きく裂けていたね。でも、彼女は無表情だった。
何の感情も感じさせぬ顔をこっちに向けてじっと見てね、突然立ち上がったんだ。
本当に車内は地獄だったよ。
みんな大声で叫んでパニックになって、必死になってその女から距離を置こうとしてね。
もちろん俺も同じようにしたよ。
押し合い圧し合いしながら、みんな車の2列目に逃げ込んでね、女が一歩踏み出すと、みんなありもしない後ろに下がろうとするんだ。
ゆっくりと、彼女はこちらに歩を進める。
一歩……。
二歩……。
三歩……。
でも彼女が来れたのはそこまでだった。
車内が大きく揺れてね。
俺も最初何があったか分からなかった。
気付けばトンネルの中に血塗れで倒れていたんだ。たぶん運転していた奴が運転ミスをしたんだと思う。まああの状況だから仕方ないとも思うね。
でも、まだはっきりしない意識の中で違和感を覚えるんだ。妙に明るいなって。
あんなに暗かったのに何でかなって。
理由はすぐに分かったよ。
目の前で車が燃えていたんだ。
メラメラと。
明るかったけど、熱かった。
くしゃくしゃに潰れた車からは、赤黒い液体が大量に漏れていてね、他の人がどうなったかはすぐに分かったよ。
でも、そこで思い出すんだ。
さっきまで車にいた『あれ』を。
あいつはどうなったのか。
あの残骸の中に居てくれれば良い。
でも、居なかったら?
その時、近くで呻き声がしてね、ゾッとしたよ。
あいつが居るのかって。
でも違った。
一緒に来た内の一人でね、俺は嬉しかったよ。
生きている仲間が居た、てね。
結局、生きていたのは俺を合わせて四人だけだった。
みんな車外に飛ばされて倒れていたよ。
助かった四人、お互いに支え合いつつトンネルの出口を目指した。
もしかしたらあいつがまた追いかけてくるかも知れない。
そんな恐怖に怯えながら出口を探す。
そしたらね、一人が言うんだ。
何か、変な音がしないかって。
冗談は止してくれ、そう思ったし、実際言った。でも彼は真剣な顔で言うんだよ。少し静かにしてってね。
足だけは止めず、息を潜めるとね、
とっ……、とっ……、とっ……。
一定の拍を刻んで音が聞こえるんだ。しかも背後から。
誰だったかな。慎重に後ろを盗み見て、小さい声で悲鳴をあげるんだ。
「居る……っ!」
ってね。
俺も恐る恐る後ろをみると、確かに居た。あの女が。
今度は悲鳴すら出なかったよ。
そしたらみんなとった行動は同じでね、支え合って何とか歩いていたと言うのに一斉に走り出すんだ。もちろん俺も走ったよ。
まさか走れるとは思わなかったけど、人間、命の危険が迫れば身体の限界を超えられるとは本当かもしれないね。
とっ……。
とっ……。
とっ……。
とっ……。
音は同じリズムで追いかけてきていた。
みんながむしゃらに走って、遂に出口が見えたんだ。
助かった。
そう思ったね。
でも……。
『出サセナイ……』
すぐ後ろで声が聞こえたんだ。
みんなも同じみたいでね、後ろを振り向くんだ。
そしたら、彼女は歩きながら俺達のすぐ後ろに居たんだ。
距離は、1メートルも離れていなかったと思う。
彼女は歩いて、走る俺達に付いてきていた。
あと少しで出口なのに。
追い付かれる。
女が手を伸ばす。
四人の誰にも届く距離だった。
誰を掴む?
俺はやめてくれ!
必死に祈ったよ。
そしたらどうやら俺達の中に祈らなかった奴が居たようでね。
本当に罰当たりなやつさ。
―――俺は後ろに向けて押されたんだ。
『捕マエタ』
耳元で囁かれてね。
目の前には、笑顔の三人がトンネルの外へ逃れるのが見えたよ……。
おいおい、そんなに怯えなくても良いじゃないか。
そこは、「それじゃあ何で今ここに居るんだよ」とかツッコむところだろ?
まだ恐怖の本番はこれからなのに、先が思いやられるなぁ……。
おい、何で三人とも逃げようとしてるんだ?
て、そんな足が生まれたての小鹿みたいに震えてるようじゃ逃げられもしないか。
いや、でも歩けないと困るなぁ。
行くンだろう?
肝試シ。
本当ハ驚かサレる方が好キだけド。
付キ合っテヤるヨ。
死ぬマデ。
思イ出しタんだロウ?
あノ日の事。
俺ガ忘レサセてイタ、俺ガ死ンだ日ノ事。
痛カッタ。
トッテモ痛カッタ。
苦シカッタ。
憎カッタ。
殺シテヤル。
殺シテヤル。
殺シテヤル。
俺達友達ダロウッテ?
笑ワセルナ。
チャント言ッタダロウ?
―――友達ダッタッテ。