第二話 救助
今日は綺麗な満月だった。
この世界の月は自分の記憶にある月よりも紅くて大きい気がするが、まあ大体相違ない。
ただ、自分が『月竜』だからか分からないが、月を見ると安心する。
リトヴァもそうらしい。
ということで、人気が無い静かなところでのんびり月見としゃれ込んでいた。
「昔のリトヴァみたいに『我』って言ってみてよ」
「死んでも嫌だ」
「俺達死ねないからね」
トークテーマは『一人称』だ。
ヘルミのところを去ってからは普段の自分に戻り、『私』に戻っていたのだが今はまた『俺』になっている。
リトヴァが話し方や振る舞いが女性的な『自分の体』と接することに葛藤していたからだ。
我慢していたようなのだが、様子がおかしいので問い詰めたら『気持ち悪い……辛い……』と呟いたので緩和してやることにしたのだ。
代わりにリトヴァには『私』と言って貰っている。
俺様女子も素敵なのだが、『私』と言うことを恥じらっている姿が可愛かったからだ。
今はだいぶ慣れてしまったのでそれも拝めなくなってきているのが残念だ。
「人の気配がするな」
「うん? ……お、ほんとだ。こんな森の中で? しかも小さい子?」
姿は見えないが恐らく小学校高学年くらいの子供だ。
そんな小さな子がこんな森にいたら危ないじゃないか。
あ、でも、追いかけている大人がいるな。
「大丈夫かな?」
「少し様子をみようか」
竜の目で遠くから小さな子の様子を覗いてみる。
やはり十歳前後の子供、女の子だ。
そして様子は……。
「……大丈夫じゃないね」
「あんな幼い子が全身に傷をつくって……痛々しい」
リトヴァが悲惨なその様子を見て顔を顰めている。
女の子はぼろぼろ、傷だらけの満身創痍で必死に走っていた。
表情は明らかに怯えており、何かから逃げているように見える。
ということは。
「追いかけている奴が悪党か」
よし、ぶっ飛ばしてやろう。
月に代わってお仕置きだ。
悪党の所に移動しようとしたその時、少女が凄い勢いで木に激突した。
「うわっ、あれ相当痛いぞ。リトヴァ、ちょっと行ってくる!」
あのまま放っておくわけにはいかない。
急いで少女のところに飛んで、倒れる身体を捕まえた。
身近で見ると、少女の身体は一層痛々しく見えた。
草や枝で切ったのか細かい傷が全身に見られるし、所々手当てしたほうがいい様な出血もある。
それに最近出来たものではない傷や痣も全身に見られるし、何より少女の身体は痩せ細っていた。
腕を掴んだが、あまりの細さに心が痛くなる。
清潔にしていないのか、酸っぱい様な悪臭もする。
酷い状況に涙が出そうだ。
身体を支えようと改めて腕を掴んだが、少女は怯えて暴れだした。
「あああああああああああああああ!!!!」
その鬼気迫る様子も痛々しい。
よっぽど精神的に追い詰められていたのだろう。
出来るだけ安心出来るように、穏やかに話して接した。
「落ち着いて、大丈夫だから。ね、君を傷つけたりしないから」
「う、あ?」
落ち着くように背中を擦ってやると落ち着き、目の焦点も合ってきた。
「あ……」
「ごめん、怖がらせた? こんな森にいるけど不審者じゃないからね? 安心して」
そう言うと安心したのか表情が崩れ、少女の目に涙が溢れてきた。
「あ、ああ、あああ……!」
「怖い思いをしたんだね。よしよし、おね、じゃなくてお兄さんがいるからもう大丈夫だよ」
……ああ、もう後ろの奴絶対ぶん殴る。
改めて天罰を下すと決意していると、ちょうど腐った大人が来やがった。
俺を見て驚き目を見開いたが、少女の姿を見つけると悪寒がするような汚い笑みを浮かべて呟いた。
「見つけた」
その瞬間、少女の表情が固まったのが分かった。
明らかに怯えている。
大丈夫だと微笑みかけたが、もう私のことは視界に入っていないようで呼吸さえも止めてしまっているような状態だ。
「すいませんねえ、その子はうちの施設の子でね。素行が悪く脱走して探していたんですよ。保護してくださってありがとうございます」
濁った金髪の気持ち悪い中年男だった。
少女は痩せ細っているというのにこのキモ中年は小太りというか、ぼってりと腹が出ているメタボ体型で殺意が沸いた。
というかだ。
こいつの着ている服が気になる。
見覚えがあるぞ……。
とりあえず上で見守り体制をとっているリトヴァに確認を取る。
『ねえ、もしかしてこのおっさん、月竜教徒じゃねえ?』
『服装からいうと、恐らくそうだろう』
『だよなあ、ヘルミの所に着ていた蛇おばさんといい、禄なのがいねえなあ』
『身内の恥』ではないが、自分が少なからず関わっているところの不始末である。
きちっと落とし前はつけさせてもらわなければなるまい。
メタボクソ中年が少女に話し掛ける。
すると少女の顔が絶望に染まった。
そして少女は大人しく男に従い、去って行った。
最後に俺の目を見て微笑んでいた。
感謝の意を表しているような優しい眼差しだった。
とても、儚い笑顔だった。
胸が締め付けられる思いがする。
まだ何もしていない、助けてあげられていないのに……。
ごめんね、でも絶対助けてあげるから。
大人しくついていったのは、何か逃げ出せない理由があるに違いない。
『弟』の話をしていたから、人質に取られているのだろうか。
降りてきたリトヴァと話し合う。
「生かす価値が無い」
と、嫁が仰せであります。
同意ですが、何気に殺気が出まくりで森がざわつき始めたので落ち着いて欲しい。
相当頭にきていたらしい。
案外子供好きだったのだろうか。
「まあ、ぶっ殺すにしてもあの子の事情が分からないまま動いちゃって弟さんに何かあったら大変だからさ。ちょっと落ち着いてやろうよ」
「今すぐにでも叩き切ってやりたいところだが、珍しく君のいう通りかもしれないな。仕方ない、もう少し生かしてやろう」
「ん? なんか小さい棘がチクッと刺さったぞ? ああ、綺麗な花には棘があるものね、仕方ないよね。はあ今日も嫁が通常運転で美しいわ」
「……馬鹿なことを言ってないで、行くぞ」
「そのつれない態度もハートにズキューンとくるね! あ、待って、置いて行かないで! ……ってもういないしな!!」
待ってと言ったのに、聞こえているはずなのになあ。
本当に置いていかれた。
気配を追い慌てて追いかけた。
※※※
「本当にリトヴァったら、慌てんぼうさん……ってこれは……どういう状況」
「ああ、すまない。子供の方を頼む」
急いで追いかけた先で見たものは、麗しの嫁の美しいおみ足に頭を踏まれたメタボ中年親父と、その脇でぽかんと口を開けて座り込んでいる少女でした。
良く分からないが少女を頼むと言われたので、少女の様子を見に行く。
「大丈夫? 怪我とか……あー、いっぱいあるな。ちょっと、じっとしてい「てね」
痛々しい傷を魔法で治す。
ついでに体や服も汚れも落とし、綺麗な状態に戻した。
というかだ。
泥や傷で汚れていてぱっと見は分からなかったが、綺麗になって分かった。
顔に出来たばかりの殴られたような痣がある。
……これがリトヴァがキレた原因なんだろう。
侮蔑を込めた視線をクソ中年に向けた。
リトヴァに踏まれているクソ中年の顔はかなりキツイお仕置きを食らったようで、変形するくらいボコボコになっていた。
ご愁傷様です。
「殴られる痛みが分かったか。大人に殴られた子供が味わった恐怖に比べれば生温いものだがな。想像してみろ、自分よりも遥かに背丈も力もある強者にいたぶられる恐怖を。この出来の悪い飾りの頭を全稼動させて考えみろ」
「ぐぉっ」
わあ……。
地面にめり込むんじゃないかというぐらい、ヒールでぐりぐり踏まれている。
こんな時に何ですが、スリットから見える太ももが色っぽくて素晴らしいですよ。
なんて脱線している場合ではなかった。
『子供を傷つける大人』というのは、いや、弱者を甚振るということがリトヴァの地雷のようだ。
抑えてはいるが、激しく怒っているのが分かる。
そういえば人だった頃、ユリウスだったころは騎士団長だったから正義感が強いのかもしれない。
傷が治って自分の身体を不思議そうに確認していた少女だったが、リトヴァの断罪プレイ……じゃなくて、キツイお仕置きを見て顔が引き攣っている。
「大丈夫だよ。あの美人なお姉さんはちょっとサディスティックなことをしてるけど、あれは良いサディスティックなんだよ」
「おい! 意味の分からないことを子供に吹き込むな!」
聞こえていたようで叱られた。
「あ」
少女を見ると、リトヴァの大きな声に驚いたようで目を見開いていた。
少し怯えているように見える
「ちょっと、怖がらせるなよ」
「あ、ああ、悪い」
そう良いながらも頭から足を離してはいないところが素敵だ。
「飾りの頭が働かないようだな。だったら体験してこい」
「ふあぁ!? あ、あ、あああああ!!!」
そして更に追い打ちだ。
リトヴァが幻覚を見せて追い込んでいる。
わあぁ、どんなこと見せられているんだろう。
嫌だな、凄く怖いな。
……あれ、前の『リトヴァ』の十八番だったよな。
「お、お仕置きは一先ずそこまでにして、この子の話を聞こうよ」
声を掛けるとお怒りモードが解けたのか、きょとんとこちらを見た。
可愛い。
でも、どうしたのだろう。
直後に急にどんよりとし始めた。
「え、何?」
「……『リトヴァ』と、同じことをしてしまった」
うん、今俺も同じことを考えていました。
思わず苦笑してしまう。
「まあ、面白がってしているわけではないから」
フォローをしたが、ショックを受けているようである。
遠い目をしている。
「そのおっさんはとりあえず放置して、こっちに来て」
「ああ」
汚いものを踏んだと地面にヒールをこすり付けて汚れを落とした後、少女の話を聞くべくこちらの方に来た……のだが。
「ひっ!」
少女がリトヴァに怯えて俺の後ろに隠れた。
とっても怯えていますね、俺のことは大丈夫みたいだけど。
「「……」」
俺とリトヴァの間に隙間風が吹いた。
あ、これは物凄く傷ついているぞ。
でもこんな衝撃的な光景を見せられた後じゃ仕方ないかもしれない。
「……何故だ……俺は昔からあまり子供に好かれない」
「そうなのか? 意外だな」
男女問わず憧れられていそうなんものだが。
でもリトヴァって、生真面目で堅いところがあるから子供とは相性悪いのかもしれない。
きっと本人は子供が好きなのだろうけど、想いは届かないんだな。可哀想に。
「強いし迫力あるけど、優しいお姉さんだから。怖がらないであげて? さっきは、君が傷つけられていたから怒っていたんだ。俺達は君の力になりたいんだ。話を聞かせてくれないかな」
少し振り返り、背中にいる少女に話しかけた。
少女は俺の目を見ながら迷っていた。
迷いを払拭するため、小さな手を両手で包んでゆっくり話しかけた。
「君を助けたいんだ。頼ってみてよ。これでも俺達、ものすごおおおく強いから大人が何人いても負けないよ」
「……本当? 本当に、助けてくれるの」
「うん、約束する」
リトヴァと目を合わせ、少女に誓うように力強く頷いた。
少女の瞳に涙が浮かぶ。
信頼してくれたようで、彼女の身に起こったことを一生懸命話してくれた。
彼女から聞いた話は、胸糞が悪くなるものだった。
彼女は、田舎の村で暮らしていたそうなのだが、ある日を境に村の人たちが謎の死病で次々に死亡。
友達も両親も死んで、残ったのは彼女と弟、そして他の村人二人の計四人だけ。
生き残った四人を知らない連中が迎えに来て、施設に連行したらしい。
皆別々の部屋に閉じ込められ、連れていかれてからは会っていないそうだ。
それからは医者のような人に身体を検査されたり、薬だという何かを飲まされたり、世話係だという奴らに手荒く扱われる日々を過ごしたそうだ。
ちなみにこのメタボ中年も世話係の一人だとか。
彼女はなんとか耐えることは出来ていたが弟が気がかりだった。
抜け出そうとしては失敗を繰り返したある日、とうとう部屋を出ることに成功した。
すぐに駆け込んだ弟の部屋で目にしたのは――。
『いやあああああああ!!』
その姿を見て絶叫した。
弟の肌は黒くなっていた。
目は瞬きをすることなく見開き、眼球が飛び出そうなほど剥き出している。
干からびたような口は大きく開いたまま。
手は不自然に上がり開いたまま硬直していて、まるで死体のような……生きているのか死んでいるのか分からない状態だった。
黒く染まった腕からは管が通され、そこから血が抜かれているのが見えたらしい。
あまりにも痛々しい、いや、恐ろしい弟の状態に彼女は発狂しそうになったそうだが、そんな彼女を労るように黒い手が動いた。
弟が彼女の腕を弱々しくつかみ、微笑んだ。
そして『ここから逃げて』と言ったらしい。
自分では弟を助けることが出来ないと悟り、助けを呼ぶために逃げていたところだったそうだ。
「リトヴァ、どう思う?」
俺は『とりあえずぶん殴りたい』と思っただけで頭が回らなかった。
「連れていかれたところは恐らく、月竜教の呪寮院だろうな」
「呪寮院?」
「ああ、呪われた者を収容する施設だ。呪いには伝染するものもあるし、他者に危害を加え出すものもある。だから人里離れたところに建てられているんだ。表向きは呪の治療をするためのものだが、実際は呪いの研究所施設だな」
呪いというと、以前の私のイメージでは聖水を飲んだり教会に行けば治るような軽い印象があるが、この世界では違うようだ。
この世界では呪いはかけるのも解くのも非常に難しい。
何故かというと、呪いには『死を帯びた魔力』というのが不可欠だからである。
死を帯びた魔力といのは死に瀕した、あるいは死んだ生物から発生する魔力のことだ。
この魔力を使わなければならないため、ごく一部にしかいない『体外から魔力を集め使用できる者』しか呪いは使えないのだ。
呪いを使用するためのアイテムもあるが、それもごく僅かで貴重だ。
「呪いの研究を進めるため、非人道的な行いも黙認されている節がある。この子が助けを呼んでも聞き流されていたかもしれない。出会ったのが我々で良かった」
「そうだね」
あのまま連れ戻され、いたぶられる日々が続いていたかと思うと胸がつまる。
「絶対なんとかしてあげるからね」
少女の頭を撫でると、嬉しそうに微笑んだ。
このままこの子が笑っていられるようにしなきゃ。
※※※
早速彼女の弟を救出するべく施設に向かった。
「ここか」
施設は森の奥深く、木々に埋もれるように立っていた。
建物は木製。
横に長い昔の長屋の様だが、窓も出入り口もなく異様だ。
少女には施設の中には入らず、近くで待って貰うことにした。
一人残すのは心配だが、結界を張って安全を確保したし問題ないだろう。
連れて行くことも考えたが、施設の中はあまり彼女に見せたくないようなものがありそうだし、我々も動きやすい。
少女の名前はフローラ、弟の名前はフランというそうだ。
歳はフローラが十四歳、フランは十二歳。
思ったより年上だったが、あまり栄養を取れなかったせいで小柄なのかもしれない。
これからはいっぱい食べられるようにするからね!
フランの気配はすぐに分かった。
風前の灯のような気配で、非常に危険な状態であることが分かる。
急いでリトヴァと彼の元に向かった。
「これは……」
竜というのは便利なもので、入り口がなくても気配が分かれば一瞬で目的地に到着出来る。
すぐに目に映った彼の状態を見て唖然とした。
フローラが悲鳴を上げたというのが納得出来る。
「……」
リトヴァも言葉を失っている。
彼女が言っていた様子の通りではあるが、実際に目にすると聞いていたより衝撃的だった。
禍々しいと言えばいいのか、恐怖を感じてしまうような、目にするのが辛くなる状態だ。
「こんな小さな子が……可哀想に」
涙が出てきそうだ。
こんな悲惨な状態でありながらもお姉ちゃんを思いやり、『助けて』よりも『逃げて』と言ったこの子の優しさが今は辛い。
「もう大丈夫だ」
「よく頑張ったね」
リトヴァは頭を撫でながら、俺は手を握りながら彼に声をかけた。
剥き出された目が少し揺れたがまだ戸惑っているように見える。
でも天井を見たままで目は動いていない。
もしかすると目は見えていないのかもしれない。
それに今は喋ることも辛そうだ。
説明は後でいい、急いで彼を治療しよう。
「この呪いは……これはどうなっているんだ?」
場所が呪寮院なので、予想はしていたがやはり彼は呪いにかかっていた。
まずは呪いを解こうと思ったのだが……。
「どういう呪いだ?」
「リトヴァでも分からない?」
「ああ。分からないというより『知らない』。私が知らないということは、今まで存在していなかったということだ」
呪いは色んな『種類』『効果』があるが、どの呪いも共通して言えることは、イメージでいうと身体に張り付いているような感じに視える。
呪いを解く『解呪』はそれを剥がすような感覚でやればいいのだが、この子の呪いは様子が違った。
張り付いているというより、『混ざっている』と表現した方がいいような状態だ。
「これ、解けそう? 俺はさっぱり分からないんだけど」
「やってみよう」
そう言うとリトヴァはフランの身体に手をあて、解呪を始めた。
俺は知らない、『ユリウス』の知識にもない解呪だ。
『リトヴァの知識』にあったものだろうか。
今は手を握って励ます以外何も出来ない自分が悔しいが、黙って見守る。
少しすると飛び出していた目玉が元に戻り始めた。
干からびていたような唇も厚みを少し取り戻し、自然と開いていた口が閉じていった。
「凄い! 回復している!」
「……いや、まだだ」
「え?」
順調……かと思ったのだが、幾つもの魔法陣を展開していたリトヴァの手が止まった。
「……今すぐ全てを解くというのは難しそうだ。先に体力だけでも回復させよう」
顔を顰め、悔しそうに呟いた。
見た目の痛々しさは和らいだが、『回復した』といえる程ではないようだ。
「分かった。とりあえず今出来るだけのことをやろう」
解呪を諦め、体力回復に集中することにした。
こちらは俺でも出来る。
手を握ったまま回復を始めると変化はすぐに現れた。
黒い肌は治らないが、硬直していた身体がほぐれ始めた。
「あ、ぁ……」
彼が声を発した。
上手く話せないようだが、瞳に生気が戻り始めているのが分かる。
「心配しないで。助けにきたよ。お姉ちゃんも無事だから」
優しい子のようだから、お姉ちゃんのことが気になっているはずだ。
安心させるために伝えると、微かに頬が動き、微笑んだ気がした。
そして、ゆっくりと彼の目は閉じて――。
「リトヴァ!?」
「安心しろ、眠ろうとしているだけだ」
「良かった……」
今まで目も閉じなかったし、苦痛や苦悩で眠ることも出来なかっただろう。
ゆっくり休んで欲しい。
それにしてもだ。
「この呪いは何なのだろう。この場所で一体何をしているんだろう」
「碌なことではないのは確かだが、今はこの子を安全なところに連れて行こう。それに……まだいるな」
「そうだね」
フランと同じように、呪いにかかっている人の気配を感じる。
彼らも救ってあげたい。
この施設と連中をどうするかは置いておいて、彼らを救出することを優先しよう。




