第二話 『私』
古い友人から一本の電話、それは私の気分を最高に害するものだった。
明日は週に一度の休みだというのに、浮かれていた気分が台無しだ。
「お前ら全員禿げてしまえ」
呪詛を吐きながら、お気に入りのラメカバーに入れたスマホを布団の上に投げた。
彼女が伝えてきた内容。
それは、中学・高校と仲が良かった連れのうちの一人が結婚した、というものだった。
普通にいけば『おめでとう』だ。
疎遠になっていたとはいえ、そういう相手がいることを聞いていなかったことに寂しさは覚えたけれど祝福したいと思った。
だが――。
結婚した相手が微妙だった。
それは、私が中学生時代付き合っていた元彼だった。
今思えば『ままごと』のようだったかもしれないが、『初恋』で『初めての彼氏』で……甘酸っぱい青春の記憶。
私の中では、そっと仕舞って置きたい宝物だった。
彼とは同級生だったのだが、高校が別になることで別れを切り出され……初恋は終わった。
さっきの話では、友達と元彼が付き合い始めたのは私と別れた直後だと言っていた。
彼は違う高校に進んだけれど、私と友達は同じ高校だった。
あれ、おかしくないか?
高校が別で『離れるから別れる』と私は振られたのに、私の友達とは付き合ってるじゃん。
要は『友達に乗り換えるために私と別れたかった』、そういうことらしい。
そして私の周りにいる他の友人達は、そのことを知っていたということか。
知らなかったのは私だけ。
嫌な思いをするだろうから言わなかった、と言っていた。
気遣ってくれていることは分かる。
でも胸糞が悪い。
思ってしまう、それって『友達』といえるのだろうか、と。
こそこそ皆に隠し通されるくらいなら、ちゃんと話してくれた方が良かった。
そりゃあ不快ではあるけど、結局私は振られてそれを受け入れて終わっているのだからとやかく言う権利はないのだ。
言いにくいのは分かるが、友達皆に騙されていたようで悲しかった。
電話をくれた友人は『私達ももう大人、二十五歳だから時効だよね』なんて言っていた。
『はあ?』
怒りを隠さず、そう声を発してしまったが仕方がないと思う。
『時効とか、お前が決めることではない』と言いたかった。
今聞かされた私には、『時効』なんて過去のことではなく、タイムリーでホットな話題だ。
大体本人達からは何も聞かされていない。
ああ、くそ……嫌な気分だ……折角の、折角の土曜日の夜が!
最近は週に一度しか休みがないんだぞ!
貴重な自由時間なんだぞ!
なのにこんな気分にしやがって、台無しだ!
……呑もう。
これは呑むしかない!
呑んでこの鬱陶しい心の靄を吹き飛ばすのだ!
宴じゃ!
酒じゃ!
烏賊じゃ!
「お前らみんな、メタボになってしまえっー!」
溢れる涙を拭うこともせず、垂れ流しながらひたすら呑んだ。
ご飯も食べず、ひたすら腹に酒を溜め込んだ。
焼酎、芋だ。
今日は芋しか呑まない。
心に決めた。
烏賊、酒、烏賊、酒をエンドレスに繰り返して浴びるように呑んだ。
一升瓶の封をいくつか開けた。
いくつ開けた?
家に買い溜めていたものが、全部無くなった。
あれ、芋じゃないのもあったなあ。
ちゃんぽんは良くない、でも……まあいいか。
芋でも米でも麦でもなんでもいいし、もう水か酒かも分からない。
明日は間違い無く、というか夜が明けて日が昇り始めていたので『今日』は二日酔い間違いない。
いざとなったら明日は仕事を休んでやろうと思いながら、夢の世界に旅立った。