試衛館の五士
短編。試衛館の話
「近藤さん、この道場潰れるんじゃねーか…?」
「心配するな歳。この五人さえおれば試衛館が潰れることはない。なぁ、総司。」
「うーん、剣舞がいくら凄くてもお金がなきゃ駄目なんじゃないの?」
「私なら少しは工面できるが…」
「無理して出費しなくても、山南さん」
いつかきっと試衛館も有名になる。
そう願った五人の話。
試衛館の五士
「えいっ、や!」
「せいっ!」
バシンッ!
「ハハ、やっぱり土方さんには敵わないなぁ」
「馬鹿を言え。お前も本気出したら勝てるんだろォが」
「ダメダメ。僕じゃその本気が出ないんだよ」
「歳、総司。飯にしよう」
「近藤さん、山南と斎藤はどォした?」
「あの二人は道場に入る奴を募集しに行ったぞ」
「ったく、こんな道場誰も来ねぇって前から言ってんのによー」
「そう言わないでよ。斎藤さんも山南さんも頑張ってるんだから。土方さんだって大きな武士団作るの夢だったんじゃないの?」
「まぁな。近藤さんを長にして鬼の副長なんて呼ばれてぇな。」
「ああ、だから最近剣の試合するとき鬼の副長に向かって!とか言うんだね。土方さん妄想癖あるんだ」
「なっ、総司、俺そんな事言ってたのか?」
二人とも元気だなー、と近藤が茶をすすって見ていた。
「近藤さん、只今」
「おお、斎藤くん」
「やっぱダメっすよ。どこの家も剣舞にゃ興味ねぇって追っ払われちまう」
「それ見ろ近藤さん。やっぱこんなトコ誰も来ねぇって」
土方は諦め口調だ。
「近藤さん」
「山南くんも、どうだった?」
「ダメですね」
「む…。」
すると沖田がいつもの明るい顔で言う。
「ほらほら、山南さんも斎藤さんもご飯冷める前に食べなきゃ」
「総司はいつも楽観的だよな」
寝る部屋が同じの土方が話しかけた。
「まぁ、笑って過ごしてるからね」
「俺も見習いたいね。どうやったらこの道場生が五人でも明るいんだ」
「そりゃあ、五人の方が良いからだよ」
「あ?」
「新入りが来ると絶対近藤さんそっちにばかり目を向けてボクたちの相手しなくなるよ?そしたら練習も出来やしない」
「ふむ…。」
「まぁ、お金の問題はどうしようも無いけどね…。」
沖田が俯く。
「さすがの沖田総司も悲観するか」
「僕は孤児だからそこをどうしようも無いんだよ。親から金を借りられないからね。働こうにも特技と言やあ剣舞しかない」
「まァ、俺達は一に剣舞、二に剣舞だかンな」
沖田が疑問を抱く。
「ん?近藤さん一に気合、二に気合って言ってなかったっけ?」
「ばか野郎、そいつぁ、剣の話だろォが」
「あっはっは、どうもその辺は僕は疎い」
「良いじゃねぇか。お前は素が強いんだ」
次の日。
「斎藤、相手しろや」
「いいっすよ」
「珍しいなぁ、土方さんが斎藤さんの相手するなんて。いっつも左利きとはやりたかねぇ、って言ってたのに」
「ばか野郎、気分を切り替えるんだよ。いっつも近藤さんや総司としかやらんからな」
バシッ!
パンッ!
「二人とも威勢が良いねぇ」
「あ、山南さん」
「私は北辰一刀流をしていたからそーゆー気合が無いんだよ」
「北辰一刀流ってそんなんなの?」
「ああ。だから天然理心流とは肌が合わない」
「でも、土方さんは雑流だよ?」
「確か、薬売りながら色んな所に行ったんだっけ?」
「うん。全てを習ってごちゃごちゃになったのを終いには我流とか言い出しちゃって」
「そこが彼の器の大きさだ。私とは違う」
バシイッ!
「ぎゃっ、土方さん今脇に当てましたよね?」
「お前が左利きだからだ。」
「関係無いっすよ!」
「ばか野郎、本番じゃ脇も腹もカンケーねぇ!」
バシイッ!バンッ!
「あーあ、土方さん何で斎藤さんいじめるんだろーね」
「…………。」
ガラララ!
「大変じゃ!歳、総司、ついてこい!」
「何だよ近藤さん」
「いいから早く!」
三人は外に出ると、
「近藤さん、斎藤さんと山南さん置いてきちゃって良いの?」
「わし達三人の方が良いのだ、これは」
「何するんだよ?」
「いつも米を貰っている陣さんの所で暴力団が暴れているらしい。」
「何だって?」
三人は走り出した。
「確かにこりゃあ俺達がやった方が良いなぁ…。」
「うん、陣さん面識あるの僕達だけだもんね」
マル陣印の米屋の前に来た。
「やけに…静かだな…。」
「歳、中に入ろう。総司、外を見といてくれ」
「解った」
二人が中に入る。
「陣さん!」
「ぐ…。」
「しっかりしろ!」
中に血まみれの男がいる。
「歳ちゃん…勇ちゃん…金物全部取られちまったよ…。」
「歳、薬はどうした!?」
「ここにあるぞ!」
「もう…ダメだ…」
「諦めんな、陣さん!」
「それよか、裏の倉庫にあるモノを全部持ってっとくれ…奴ら金物以外は興味なかったみてぇで食い物は残してやがる…。」
「陣さん!しっかりしてくれよ!」
「…………。」
死んだ。
「陣さん…。」
土方が泣いている。
「歳……米を…取りに行こう」
「ああ。それが陣さんの『頼み』だかンな。総司!」
「どうしたの?」
「裏の蔵に行くぞ」
「土方さん、目ェ腫れてるね。もしかして泣いてた?」
「…………。」
「自称鬼の副長も泣くんだね」
クスッと沖田が笑った。
「…うるせぇ」
「ダメだよ土方さん。人を見送るときには笑ってなきゃ。仏頂面してたら陣さん浮かばれないよ」
「さっさと米運ぶぞ。近藤さんが陣さんに手ェ合わせてる間にな」
「はいはい」
「オメーは悲しかねぇのか?」
「僕は悲しくないよ。近藤さんと土方さんがいりゃあ安心ってもんだ」
「ふーん…。」
運び終わる頃に近藤さんが来た。
「ありゃ、近藤さん土方さんよりも泣いてたね」
「まァ、俺より陣さんとの付き合い長いかンな」
「二人とも、陣さんを殺った奴等が解ったぞ…………。」
「マジか、あそこかよ!」
「僕達三人じゃあ手に負えないね。斎藤さんと山南さんも連れてこなきゃ」
「総司。連れてきてくれるか?」
「お安いご用」
五人はあるビルの前にいた。
「洋風の建物は慣れねぇなあ…。」
「なんたって僕達人付き合いと言やア陣さんぐらいだからね」
「では、乗り込むぞ。やり方は五人とも解っているな?」
「ええ。近藤さん、土方さんが先陣突っ込んで後ろから私と斎藤くんで残り物。沖田くんは締めですね」
「歳、行くぞ!」
「おう」
中に入る。
「テメエら誰だ!」
「わしは近藤勇。こいつは土方歳三」
「試衛館か?ウチに何の用だ」
「陣さんのお返しに来た」
土方が笑って答える。
そして、
「うわぁっ!」
ザシュッ!
「突き進むぞ、近藤さん」
「ああ」
数分後、外で待つ三人に笛の音が届いた。
「斎藤くん、合図が出たみたいだ」
「ああ」
「気を付けてね、二人とも」
「総司くんも」
山南、斎藤が中に入った。
ザッ、ザッ。
「あれ、お仲間?」
「外はテメエ一人か?」
沖田のいる入口に十数人の男が現れた。
「うん、僕も中に入る予定だったけどそうはいかないみたいだね」
剣を取り出す。
すると、一人が、
「剣かよ?見栄張らずに銃でも持てばどうだ?」
「フフ、それじゃ士道不覚悟で土方さんに斬られちゃうよ」
剣を構える。
相手が銃を取り出す。
「悪く思うなよ、俺達はお前らと違って士道なんてねぇんだ…」
「山南さん、あの人達俺達に手柄分けようなんてこれっぽっちも思ってないぜ」
「良いじゃないか、楽で」
ダァーン!
ギャァァァァ!
「おや、銃声と悲鳴が聞こえたね」
「ありゃあ、外だな。総司に敵が出くわしたんだろう」
「どうする、手助けに行くかい?」
「…いや、総司だから大丈夫だろう」
ピーーッ!
近藤が二回目の笛を鳴らす。これで沖田が入ってくるはずだ。
「六階建ての四階が終わったって事はあと二階だな、歳」
「んなこたァ言われなくても解ってる。それよか、取り逃がしは無いか?」
「大丈夫だろう。わしと歳が組めば鼠一匹生かして帰さん。それに、取り逃がしても山南くんと斎藤くん、総司全員の目から逃れるなんて絶対に出来ない。それより、今日の歳はいつもと違って全滅させようとしている。悪いこった無いが、どういう風の吹き回しだ?やはり陣さんか?」
「大きく言やあ陣さんだな。あれ以来俺は暴力団を一番の敵として見ているんだ」
土方が微笑する。
床に倒れていた男の手が動いたので、土方は斬った。
「悪人に限って生命力はあるんだよなァ」
「ハハハ、今のわし達も悪人と言って過言ではないぞ」
「もっともだ。これじゃ指名手配されちまう。ま、山南がどうにかしてくれるだろうがよ」
そう言いながら二人は五階へと階段を上る。
「ふぅ、笛はとっくに鳴ってんのにとんだ足止めをくらった。急いでいかなきゃ」
沖田が死体の山を跨ぐ。
「やっぱり銃よりも剣だね」
斎藤と山南は二階から三階に階段を上っていた。
「山南さん、ここなんかあるぜ…?」
「おや、隠し扉だね。中二階といった所かな?案外大物が隠れているかもしれないよ。」
「よっしゃ、近藤さん土方さんにギャフンと言わせてやるか!」
バン!
「ひっ!」
中には髭を生やした男がいた。
「誰だァ、アンタ…?」
「わっ、わしは生活協力会社の社長で囚われておったのだ…!」
「身分を確認させてもらえますか?」
山南が丁寧に聞く。
「これを…」
名刺には、その男の顔と言ったことが載っていた。
「よし、お逃げなさい。あ、それから下にも一人いますからそいつが剣を抜く前にその名刺を見せないと殺されますよ」
「あ、ありがとう…。」
男は下に下りていった。
「チッ、手柄取れなかったなー」
「人質を返しただけでも十分手柄だよ」
沖田が上に上がろうとすると足音がする。
髭面の男が現れた。
剣に手をかけると…
「待って!わしはこういう者で…」
「何だ。さっさと逃げなよ」
下りていった。
「つまらないな、中に入ってからろくに斬ってない」
近藤土方は遂に最上階に来た。
そこには一人の男しかいなかった。
「あんたがここのお偉いさんか?」
土方が聞く。
「…そうだ。どうか見逃してくれんか?」
怯えている。
「それは出来ませんな」
近藤が捨てた。
「お命頂戴!」
二人が一斉に駆けていく。
男が死を覚悟した…
が。
ザッ。
「斬れない…!」
「血油で使い物にならなくなったか…!」
男が血の出ている両腹を抑えて駆けていった。
「待て!」
土方が叫ぶ。
「まぁ、下には斎藤くん山南くんがおる。おめおめとは逃がさんよ」
近藤がなだめた。
「上から誰か来るぜ?」
「誰だろうね」
血を出した男が下りてきた。
「どけどけ!」
「ありゃあ、二人のつけた傷だろうな」
「だね」
剣が舞った。
その後、道場にて。
「今回は皆頑張ったな!」
「でも酷いっすよ、近藤さん土方さんは。俺ァ殆ど斬れませんでしたよ」
「ばか野郎!大物斬ったんだろうが!」
「そうだよ斎藤さん。僕なんか銃もロクに使えない下っぱしか斬れなかったよ」
「む…。」
「そういうこった、斎藤。じゃ、山南、後片付けは頼んだぞ」
「解りましたよ、土方さん。『後片付け』でしょ。」
すると、沖田がため息をついた。
「あーあ、指名手配されるのも嫌だけどさ、こーゆー有名になるチャンスを逃すのって惜しいよね…。」
近藤が締めくくった。
「この五人がおれば良い。無名でもいいんじゃ。」
「ほぅ、珍しいな、近藤さんがそんな事言うなんて。」
その裏には、陣さんの持っていた米が全部手に入った、という背景がある。
試衛館の五士、終了。




