二百年大修行 サンガー編(二)
指先の雷で空中に雷太鼓を描いていく。
それは見事に形を成していき、実像、つまり皮や木でできた太鼓になった。
「バチも書かなきゃな」
見事木で作られたバチが現れる。
「っし、祭りだァ!」
ドンドコドンドコドンドコドン!
おお神よ、ここに全国の気象予報士をクビにしそうな奴がいる。
「リズムを変化させたらどうなるんだ?」
ドッドッドドドッドドドドッドドッ!
…全ての人間に雇われている鼓膜もクビにしそうな気がする。
「いいぞいいぞ!マァツリだ祭りだァ!」
『緊急速報:警察が今日昼過ぎ異例の雷の原因を突き止めたと発表。』
テレビでアナウンサーが速報を口ずさんでいる。
『原因は、雷様だとのこと。』
それを発表した警察、そしてその発表を報道したテレビ局に祝福を贈りたい。
天上界の人間がここまで原始的とは誰も思わないだろう。
と、大部分の人が考えたはずである。
だが。
真実は発表通りだった。
江戸幕府より先に絵踏を実行したあなた方ならもうお分かりだろう。
そう、サンガーは最初に雷神を呼んで、その雷神はお出まししているのだ。
警察の捜査は雷様で打ち切り、サンガーには風は来ない。誰も雷様には逆らえないもんだから皆諦めてしまう。これが真の完全犯罪♪なんて思っていると、奴が来た。
「何してるンチ!サンガーのせいでこの町は大パニックンチ!」
「ちっ、ばれたか…。」
「当たり前だンチー!!」
「まァまァ、変な団地を作らずに落ち着け」
「くっ、自分の語尾のせいでボケられるなんてムカつくンチ…。」
「まぁ、落ち着け。いいか、これを俺が操れるようになれば凄いことだ。必要以上に人に迷惑はかけないし、相当強い。これを練習出来る場所って無いかな?」
「うーん、あるとすれば砂漠だンチ。森や山だと火事になる危険性があるし、町は論外だンチ。」
「じゃあさ、この辺にあるコンビニとかそーゆー日常生活に必要な物が揃ってて、交通の便がいい、過ごしやすい砂漠を紹介してよ」
「それは砂漠とは言わないンチ…。」
ひゅるりら〜。
からんころんと空き缶一つ転がっていない砂漠にて。
「何でこんなところで…。」
「わがまま言うなンチ」
「…………。」
「じゃ、頑張れンチ。帰るンチ。」
「…………。」
帰られた。
一人孤独に。
「ま、修行しやすいってこったな」
太鼓を作り出した。
因みに、作った太鼓は指をパチンと鳴らすだけで消えた。
「祭だァ!!」
ズドガガガガガガガガガガガガガガガ!
ドラミングがパワーアップしている。
だが、それだけでは意味が無い。
この技の全てをコントロール出来るようにならなくてはいけないのだ。
「その岩に落ちろ!」
ピシャーン!
「命中!次はあのサソリ!」
サソリはバレたか撤収だと言わんばかりに逃げ出すが、既に時遅しピシャリとやられてしまった。
「命中は完璧。次は強弱だな。哀愁を表すように弱くゆっくり!」
ここまで来ると太鼓かつ指揮者である。
「今度は身が裂けるような怒りを!」
ビッシャーン!
「衝撃にうちひしがれろ!」
ゴロゴロドーン…。
ズドドーン ビシャピシャピシャ ゴロゴロゴロ ズドピシャズドピシャピシャ ゴロゴロドーン
何の曲に合わせるかはご自由に(合う曲は中々無いだろう)。
ところで、雷様は雷を乱発しているがサンガーの前に姿を現していない。
警察が雷様と特定するくらいだからきっと現物を確認したのだろうが、サンガーには解らなかった。
「ふぅ…。この技も上達したな。そろそろ休憩するか。」
ゴロゴロドーン…。
やり終えたのにまだ雷が鳴っている。それなら別に自然現象で片付くが、済まなかった。
『なんじゃ、もう終わりか』
びくっ!
サンガーが驚く。
「だっ…誰だ!?」
『今まで散々使ったくせにその態度はなんだ』
「…雷神か?」
『その通り』
「用件は?」
『さっき言った』
「…え?」
なんじゃ、もう終わりか
「あ…ああ、終わりだ」
『なんじゃつまらん』
「んなこと言ったって休まなきゃいけないんだから」
『仕方無いか。ならば、素晴らしいドラミングを見せてもらったお礼にわしからも披露しよう』
「待てい」
ズドガガガガガがガガガガガガガガ!
「うっぎゃああああああああああ!」
ピシャッ、ゴロゴロ、ズドーン!
バンバンバンバン!
ギュインギュインギュインギュイン!
トゥ、トゥ、トゥトゥ、トゥルルル!
「おい、エレキとキーボード聞こえてるぞ!」
『わしのバンド仲間だ』
「バンド仲間さん止めて止めて!」
タッタッタッタタタッタタタ!
「ああ゛、タップダンス!」
プインプインプーーピュー!
「ああ、もォなんかよォ解らん音が聞こえてきたぞ!どうにかせんか雷神!」
『ゴッドバンドに逆らう気か』
「あんた達気候崩しといて神としてのプライドあるんかい!」
『お前に言われとォ無いわ』
ギュインギュイン!
トゥトゥトゥー!
『仲間も同意』
「なんか楽器で会話してるよこの人達!」
一時間後。
そこはもう砂漠ではなく異世界だった。
あるものは黒く焦げた物体ばかり。
唯一命を保っているのが…
「俺しかいねーじゃん!サソリも蛇も全滅だよ!」




