二百年大修行 ペガサス編(一)
一組の男女が街を歩いている。
美男、美女で二十代のカップルの様に見える。
服装、持ち物を見ると冒険スタイルなので旅行や登山好きのカップルだ、と思う人が多いだろう。
残念ながら、
大正解である。
フェイント?いやいや、正解することが残念なのだから仕方がない。
何故なら、この街の既婚者と未婚者の割合は3:7。地上界の言葉を用いるなら「非リア充」が街にゴロゴロいるという事だ。
そんな人達が二人を見ればどう思うか。
殺したくなる。
だが、ここは人間、理性を持った生き物の代表として耐えている。
だが、堪忍袋の尾が切れた。
街の中でキスし始めたのだ。
眼を閉じ、熱い一時。残念だが、その熱は人々の理性を燃やし尽くし、灰にした。
「調子乗んナァァァァァァァ!」
「キャッ」
「大丈夫だツルギ。俺様が守る」
「ペガサスさん…」
「マンティスシーザー!」
こちらも人間、斬り殺す気はない。
予想通り野次馬達は怖じけついて帰っていった。
「あ…さーせん…。」
「ああ、帰って頭冷やしな」
言っておくが、彼らが頭に血を昇らせた要因を作ったのである。
「ペガサスさん、この街は確か強豪が集う酒場があったはずです。向かいましょう。」
「解った」
清潔な酒場だった。
店も、客も、飲食物も…。
だが、裏の勝手口を抜けるとそこは悪い意味で別世界だった。
酔っ払った人達、死体、金、違法な薬…。
だが、ここに強豪がいるのだ。
二人とも引き返したかったが、
捕まった。
目覚めたのは薄暗い部屋。
「起きたか」
二人が目を慣らすと自分達の環境が理解できた。
手と足は縛られて床に寝ている。二人とも下着だけ。
身ぐるみ剥がされて数人の男が漁っている。リーダーらしき男が話しかけてきた。
「男の方はホスト、女の方は風俗嬢。これで決まりだから大人しくしてろよ。そうすりゃ命ぐらいはある」
「やなこった」
ペガサスが唾を吐き捨てる。
「んだと!テメエ殺すぞ?いや、女を殺してやろうか?」
「やれるもんならやってみなさいよ」
ツルギも鼻で笑う。
「畜生が、メガフレア!」
男が炎を繰り出す。
が、ペガサスがフーッと息を吐くと消えた。
「なっ…!」
「もう一丁」
フーッ。
全員飛んでいった。突き破れた壁から光が漏れる。
「マンティスシーザー!」
縄を切った。
ペガサスが服を着て出る準備をする。
「あれ?」
「どうしたツルギ?」
「私のズボンが…。」
「…別にそのままでも良いんじゃない?男にはウケ…」
べしっ!
「女性のからかい方を間違っています!こんな格好で出歩いたらまた捕まって風俗嬢が何たらとか言われるのは目に見えているでしょう!?」
「じゃあ…どうする?」
「探します」
一時間後。
「無いね」
「…………。」
「俺のズボ…」
「それなら下半身下着一枚で歩きます」
「そこまで?」
「そこまでです」
「じゃあ、俺が買ってくるよ。ウエスト・ヒップは?」
「え…!」
ツルギが赤面する。
「教えてくれなきゃ買えないんだけど」
「誰にも言わないでくださいよ…。」
ツルギが耳元で呟く。敵は外に放り出されて二人だけなのだが。
「ふんふん、ついでにバストは?」
「…言うと思いますか?Tシャツはちゃんとありますからね」
「チッ。まぁ、買ってくるよ」
「お願いします」
ペガサスが部屋から出るとツルギはハッとした。
「ペガサスさん、お弁当代しか持ってなかった…!」
アパレル店にて。
「いらっしゃいませー」
「女性用のズボンを探しています」
「サイズは?」
「ウエスト☆★、ヒップ○×で」
「なら、この辺です。プレゼントですか?」
「いえ、パシリです」
「…………。」
「これでーって、やべ、俺金殆ど持ってねーよ…。」
「それなら、このワゴンに入っているものがお勧めです」
「え、安っ!」
「誰にも買われなかった服ですので」
「…………。ああ、これなら買える。サイズもピッタシだし」
「では、レジまでどうぞ」
ツルギは部屋の片隅に丸くなっていた。
誰にも見られていないとはいえ、やはり恥ずかしい。
「早く来てくれませんかね…」
ガタン!
部屋のドアが開いた。
「ペガサスさ…」
「おお、これがアイツの言っていた女か。確かに良い値段で売れそうだ」
咄嗟の事に、ツルギは何も解らなかった。
「エレクトローダー!」
バチバチバチッ!
ツルギは倒れた。
「ペガ…サ…スさん…!」




