地上との別れ(四)
ペガサスはツルギと取っ組み合いながらも、何故か笑っていた。
「何故あなたは笑っているのですか?」
「いやぁ、初めて姉さん以外の女の子と手を繋いだなと思って」
「はい!?」
「いや、俺様今まで誰とも付き合ったこと無くてさ…。でも、君と手を繋いで運命を感じた」
「こんな時に煩悩ですか?それに、私はあなたと手を繋いでいるのではなく取っ組み合っているのです」
「欲望とかそんなんじゃない。」
「あなたの言動には明らかに性欲が混じっていますが」
「信じてくれ。本当に運命を感じたんだ。どこの世界の人だろうと関係ない。結婚しよう。それがきっと運命なんだ」
「この状況で私が刃を出せばあなたは即死ですよ?」
ツルギにとっては脅し文句なのだが、ペガサスは愛の試練と勘違いしたらしい。
「構わない。俺様の君への愛は腕を切られても変わらないんだ」
ペガサスの、ツルギを握っている手が少し緩くなる。
同時に、ツルギの心も緩くなった。
この人は、まさか本気で言っているのか?
地下界に来てから千年経った。そこではずっと地下界王の側近としていたため、恋愛とはかけ離れていた。
天上界にいた頃も、女戦士として期待が高まり、それはいつしかあの子は戦闘一筋だから恋愛なんてしない、と言う噂になった。
初めてだった。
人にプロポーズされた。
本当かどうか解らないのに、心がペガサスを傷付けるのを拒む。
首を横に振る。私はこの数年地下界王の命令のみで動いてきた。
そのために感情も何もかも捨てたはずだ。今更何故恋愛感情など抱く必要がある。
「ツルギ、今何歳なんだ?」
「…二千二百歳」
「大体地上の人の何歳ぐらい?」
「二十六」
「俺様の二歳下だな。なぁ、女の子が争いに参加しちゃいけない。戦争は男の修羅場だ。ツルギ、もう君は戦わなくて良いんだ、君が危ないときには俺様が守って見せる…!力を捨てて、俺様と生きよう!」
皆…自分を戦士として見てきた。
初めてだった。
自分を普通の女性として見てくれる。
この人は、今までの人とは違う。
「…解りました」
手を放した。
見つめ合う。
「ツルギ…!」
「ペガサス…さん…!」
「君への思いは絶対だ…。だけど、ごめん今は…」
ペガサスはツルギにキスをした。ツルギもそれを拒まない。
だが。
ペガサスの口から紫色の液体が流れ込む。
「ペガサス…?」
「君への思いは絶対だ…。だけど、ごめん今は仲間を助けるためにここにいてくれ…。」
ツルギは気絶した。
「すぐ、迎えに来るよ…。」
「さて、どうしましょうか…。楽しみたいので技は使いたくありませんね…。」
落ちながらタマは考えた。分化前のジンギもそうだったが、戦いは楽しまなくてはならない。だが、避ける方法は無かった。
「もう、技をくらってみるという選択肢もありますね…。」
タマは相手の力量を量るのを兼ねて、技をくらう事にした。
サンガーの腕の中に落ちる。そして、高圧電流が…
流れない。
「…え?」
「綺麗だ…!」
サンガーが見つめる。タマもまた見つめる。
「今なんと」
「綺麗だ…!」
「あなたは馬鹿ですか?」
「一目惚れだよ…。さっき君を見たときに感じたんだ。今まで俺が見てきた女性の中で最もき…」
ドゴーン…。
「何やってんだよ、サンガー!まだわしのロックハーデン残ってたのにーって、…守ってる?」
「あなた、敵を庇っているのが解っていますか?」
タマが困惑の表情を浮かべる。
「解っている。だが、君には仲間になって欲しい。君を傷つけたくない」
「サンガーさん…!」
「君の事が好きだ…!」
ペガサス&ツルギ並の恋愛が繰り広げられるかと思いきや、
「残念ですが、私は誰かと言うとフェニックスさんが好みです」
「え゛?アイツまだ十三歳だよ?」
「私はショタコン(正太郎コンプレックス:かなり年下の男性を好む性癖)ですので」
「…………。」
サンガーが絶句する。
「フェニックス君、間接的に告白されてますよ」
「参ったな…。俺はリーナが好きなんだけど…。」
「あーあ、変な三角関係だなー。いや、四角形か」
「ペガサス!倒したのか?」
「倒したっつーか…一応気絶させてるけど。ま、プロポーズはしといたぜ」
「はい!?」
「俺様、ツルギと付き合うから」
「…………。」
「今は非常事態だから気絶させてるだけ」
ペガサスの目線がサンガー、タマに向けられる。
サンガーは白目を向いており、タマはじーっ、っとフェニックスを見つめている。
「お似合いだとは思うけどな」
バジリスクが呟く。
タマがサンガーに話しかけた。
「ただ、今の発言で戦う気が失せました。もう戦いません」
「マジ?」
「はい」
二人が四人の元に戻る。
「タマはもう戦わないんだとよ」
ペガサスが呆れて言う。
「ツルギもそうだけどさ、お前ら精神攻撃弱すぎるよ?」
タマが答えた。
「そうですね…ずっと感情を押し殺してきたからこそ弱いのかもしれませんね…。ペガサスさん、ツルギを」
「ああ、はいはい」
ペガサスがツルギの元に向かう。肩を揺らすとツルギが起きた。
「よう」
「ペガサスさん…!」
「それでは、私達は地下界に帰ります」
「カガミの亡骸は持っていかなくて良いのか?」
バジリスクが聞いた。
「…大丈夫です」
「なぁ、俺様とは一緒にいられないのか?」
「無理ですね」
「何故?毒飲ませたから?」
「いいえ。私達はサイゴと違って普通の地下界の人間です。」
そう言うとツルギは右手首を見せた。そこには数字が羅列してある。
「だから、いつかはこの魂は輪廻します。それはあなた達が死ぬのより先です。楽しい思い出は作りたくありません」
ツルギが悲しそうに言う。
だが。
『そんな心配は要りませんよ、ツルギ、タマ!』
「か…カガミ?」
『この命、あなた達に捧げます。私の分まで生きてください』
ツルギ、タマの右手首から数字が消える。
「ありがとう、カガミ!」
タマが礼を言う。
一息ついて、ペガサスが言った。
「俺様達と一緒に来てくれるか?」
「はい!」
「え、タマも来んの?」
フェニックスが困惑する。
「勿論です。ツルギ一人行かせるわけにはいきません。それに…」
「それに…?」
フェニックスが心配そうに聞く。
「いつかあなたが私に心変わりするまで待ちますよ」
タマはニッコリと笑った。
「…………。リーナ…。」
フェニックスが遠くを見つめてぼやいた。




