地上との別れ(二)
地下界にて。
「地下界王、各都市の長が見えました」
「入れろ。茶会を開くぞ」
「かしこまりました」
女が去ろうとしたが、地下界王が止める。
「待て、ジンギ」
「はい」
「サイゴの様子はどうだ」
ジンギが目を閉じる。
「現在地上に向かっております。あの五人を殺すつもりかと」
「そうか…。良い、長を呼べ」
ジンギが外に出た。
茶会が始まってからしばらくして。
「地下界王、どうされましたか?顔色が良くありません」
ジンギが心配して声をかける。
「だ…大丈夫だ。わしにはこの茶は合わないようだ、変えてくれ」
震える手でジンギに椀を渡そうとしたが、途中で
落ちた。
パリンッ!
「地下界王…?」
「どうか…されましたか?」
地下界王が呟いた。
「遂に…遂にやりおったかアイツは…。か、各都市の長に告ぐ、天上界と再び争え…!」
「地下界王、それは…!」
「恐れるな…!私は…死ぬ、天上界の者によって…!」
「は…ははっ!」
各都市の長が頭を下げる。その隠れた表情は困惑に満ちていた。
「ジン…ギ…。」
「はい」
「五人を殺せ…!」
「私が行くまででは無いかと」
「傲慢になるな…奴等は更に強くなった…天上界の者のせいで…!お前でも倒せるかは解らんぞ…!」
「では、十分に注意して命令を実行します。安らかにお眠りください」
「あ…、あ…………。」
「ちっ、地下界王!」
「地下界王!」
長が涙を流し亡骸にすがる。
ジンギが一人天上界に向かった。
主が死んで悲しくないわけではない。
では、何故戸惑いもせずその場を立ち去ったか。
彼女が従うのは自分の心ではない。
地下界王の命令のみ。
たとえ主が死のうとも。
212号室:猛・佑樹にて。
「大丈夫ですか!?」
医者が部屋に入ると二人の機械が音を発し、三人がもがき苦しみ、一人がうろたえていた。
「ああ、大丈夫じゃありませんよ!私以外皆どうにかなっちゃってるんです!皆しっかりしてください!」
「君は患者を、僕はこの三人を看る!」
「はい!」
一人看護師がフェニックス、クラーケンのベッドへと向かった。
「君、この三人の名前は解るかね」
医者が李伊奈に聞いた。
「名前は解りません!けど、ニックネームは馬の脱け殻と虎の肉と蛇の皮だったと思います!ああ、皆しっかり!」
「アンタが一番しっかりしなさい」
医者が呆れて言う。
すると、
「猛君と佑樹君の心拍数が通常通りになっています!回復しています!」
「なにィ!?死に際まで行って帰ってきたのか…?」
「う…あ…。」
「猛くん!」
三人も苦しみから逃れ始めた。
そして、五人とも起き上がる。クラーケンは火傷が全て治っていた。
「全員…起きた…。」
医者が驚きを隠せなかった。五人が何も言わず互いを見合う。
「僕達…生きてますね…。」
「ああ…。」
その時だった。
五人の頭の中にどんぶりうなぎの声が聞こえた。
『五人とも、良く聞け。どんぶりうなぎはサイゴ、地下界王と共に死んだ。そして、我が命はお前らの中に散らばっている。そのお陰でお前らは更に強くなった。だが、油断するな。地下界王が死んだせいで第二の極界戦争が起きるかもしれん。天上界に行け。そこで生きろ。そして、我が故郷天上界を…守ってくれ…!』
「どんぶりうなぎ…一体何が起こったんだ…?」
どんぶりうなぎの声は、もう聞こえなかった。
五人は病院を出た。フェニックスとクラーケンは安静にしろと医者に言われたが、無理矢理外に出た。
何が起こったか全く解らなかった。
どんぶりうなぎが死んだと言っていた。
それが信じられない。そのお陰でフェニックスとクラーケンは生きているのだが。
家に着いた。
「本当に…死んだんだな」
亡骸を見てペガサスが呟く。近くに、サイゴの亡骸もあった。
「天上界に行けって言われましたね…。」
四人が呆然とする中、バジリスクだけが違った。
「何か来ている!」
ドゴーン…。
それは家を全壊して来た。
「お久しぶりです」
「お前は二界道の受付の…!」
「本名、ジンギと言います」
そう、二界道のあの女は名をジンギと言う。
「地下界王の命より、あなた達を殺しに来ました」
「マジか…。」
ジンギが結界を描いた。
「これがあなた達のやり方でしょう?自分、仲間、敵以外は何も壊さない」
仲間、と言う所にフェニックスは冷や汗をかいた。
「始めますよ」
ジンギが構える。
五人もいつでも攻撃できるよう構えた。
すると。
パンッ!
ジンギが光沢のある球を作り出した。大きさはバスケットボールの半分ぐらいだ。
それをフェニックスに向かって投げる。
横に飛び退いた。
「さすがは天上界の血が混ざる身、神経は鋭いですね」
ジンギの言葉にフェニックスが疑問を抱く。
「なぁ、俺達とどんぶりうなぎに何があった?」
「何も聞いていないんですか…。…………。」
ジンギは説明した。五人が驚きを隠せない。
「そんなことが…!」
「私の見たところ今のあなた達のAIH値は18です」
「ノアと同じぐらいだ…!」
「一気に18にまで下げるって、どんぶりうなぎどれだけ強いんだ…?」
「まぁ、私は16です。接戦になるかもしれませんね」
すると、フェニックスがクラーケンにボソッと呟いた。
「18って事は、ノアみたいに波動が作れるかも知れねーぞ」
「波動?何の話ですか?」
「ああ、そっか、お前ら気絶してたんだっけ…。」
「取り敢えず、それが出来るかもしれないんですね?」
「ああ」
「なら、試しましょう。出来るに越したことはありません」
一対五。
だが、その結末はまだ解らない。




