孤独な少女
短編。リーナの話
天上界の人々は万年生きる。これは本当である。だが、たった一人そうではない少女がいた。その名は、リーナ。
孤独な少女
猛が産まれて一年ぐらい経った頃。
「キング・ジャイアント」
「おお、どんぶりうなぎ」
「めでたいな、子供が生まれて」
「それがな、厄介な娘なんじゃ…。」
「燃やし声!?」
「AIH値2.1。わしの妻もその産声を聞いて死んだ」
キング・ジャイアントが悲しみを声に浮かべる。
「確かに…厄介なのが生まれたな…。我々さえ見たことの無い力だからな…。して、その娘は今どこに?」
「Q市に唯一防音効果のあるホテルがあった。」
「良く見つけたな」
「まあな…。」
「キング・ジャイアント、その娘をどうするつもりだ?歴史上の彼女らと同じように地上に下ろすか?」
「いや…初めて出来た我が娘、この天上界で育ててはいけないか王に掛け合ってみるつもりだ」
王室にて。
「ほう、そなたの娘の力が!」
「はい、どうかこの天上界で育てとうございます」
「ふむ…そう言えば、そなたとどんぶりうなぎには千年前に起きた極界戦争の礼をしてなかったな!我々天上界の民はそなたらに命を救われたも同然。その娘を天上界に置くことを許そう」
「ありがとうございます。」
キング・ジャイアントが帰ろうとすると、
「待て」
「いかがされました、天上界王」
「燃やし声と言うことは、そなたも娘に会えんのだろう」
「…はい」
「その娘に飯を与えるのは誰だ」
「刑務所にでも行き、死刑囚をお借りしようかと」
「娘に食を与えるのが死刑囚か」
「…はい」
「そこまでして、地上には下ろしたくないか」
「地上が嫌いではありません。ただ、娘は小野小町やクレオパトラのように、死を運ぶ者として歴史に名を残させたく無いのです」
「そうか…。」
天上界とて、全ての場所が平和なわけではない。
とある暗黒街にて。
「キング・ジャイアントの娘が『燃やし声』らしいぞ」
「なんだと、我々天上界の人々を脅かす存在になるぞ」
彼らは天上界の過激派。千年前の極界戦争でも地下界と戦うことを提唱した人々だ。
「しかも、キング・ジャイアントは地上に下ろす気が無いらしい」
「キング・ジャイアントも、民より娘を取るとは落ちぶれたな…。」
「キング・ジャイアントとその娘を殺してしまおう。」
「やめろ、キング・ジャイアントには千年前の恩があるのだぞ」
「しかし、娘だけ殺すことは出来ないだろう。誰も近付かないよう、セキュリティは固いはずだ」
「毒をばらまこう」
「娘が保護されているのはQ市のあのホテルだ。」
「医師不足のか?」
「ああ。お前、医師の免許持ってただろう」
「持っている」
一人の男が答える。
「だが、毒でも食べさせれば、すぐに俺がやったとバレる」
「だから、すぐには効かない毒を使うんだ」
「そんなもの、あるのか?」
「ある。成長を早める薬だ」
「効果は」
「寿命が地上界の人間程度になる」
「使ってみるか…?」
「ああ。」
病院の朝礼にて。
「今日は、リーナに予防接種の注射をする。だが、異例なことに、医者がまだ決まってない。誰か、やっても良いと言う人はいるか」
全員が顔を俯かせる。当然だ、何故なら一歩間違えば死ぬのだから。
「俺がやりましょう」
立候補したのは先日の男だった。
「本当か!?」
「はい」
「では、頼んだぞ。」
まず、リーナを麻酔で眠らせた。
そして、注射をする。
無論、中には予防接種などではなく、成長を早める薬が入っていた。
終わると、男は部屋から出ていった。
暗黒街にて。
「おい、燃やし声について新しい情報が入ったぞ」
「何だ?」
「その力は、喋らずとも自分の血を少しずつ蒸発させていっているらしい。それを考慮した寿命は、十五年と無い」
「ならばあの薬を使う必要は無かったのではないか?」
「まあ、使おうと使うまいと生きる年数は変わらん。それに、早く物心ついてもらえばキング・ジャイアントの娘も自分は喋らない方が良いと解ってくれるだろう」
約一年後。
キング・ジャイアントはリーナがいる部屋のカメラで取れた映像を見ていた。一度機械を通しても燃やし声の効果は継続するため、キング・ジャイアントは後にも先にも娘の声を聞くことはなかった。リーナはハイハイをしていた。
「キング・ジャイアント、遊びに来たぞ」
「…………。」
「辛気臭いな、娘の力の事はもうどうしようもない。力を与えたり消したりすることは不可能だからな。お前もそうやってカメラ越しに見ておるではないか」
「…早すぎる」
「え?」
「成長が早すぎる」
「いや、成長も何もまだあの娘が産まれて一年ぐらい。何も変化はないはずだぞ」
「リーナは今、ハイハイしている。飲むミルクの量も六十歳並だ」
「なんと…!」
「明らかに成長が早い。これは燃やし声の代償なのだろうか?」
「そんな話は聞いたことがない。何か体に異常があるのではないか?」
「調べてもらうか…。」
キング・ジャイアントは医者を呼んだ。
数週間後、医者が結果を言った。
「リーナは、地上界の人々と同じスピードで成長しています」
「それは、燃やし声の代償なのですか?」
「いえ、何者かが薬物を投与した結果だと思います」
「元に戻すことは」
「残念ながら不可能です。薬物は身体中に浸透しています。成長を遅らせる薬はまだ開発されていませんし…。」
「キング・ジャイアント…。」
「燃やし声による寿命と地上界の人間の寿命、どちらが短い」
「燃やし声の方です。」
「燃やし声のせいで死ぬのは、娘が何歳の時か」
「十歳から十五歳。それは地上界の人間の年齢であって、容姿は天上界の九百歳ぐらいです」
「まだ、子供だな…。」
さらに八年後。
キング・ジャイアントは部下を一人呼んだ。
「お呼びですか」
「そなたに、一つ仕事を与えたい。我が娘も知識がついてきた。リーナが退屈しないよう、天上界、地上界から本を集めたいと思う。そなたは地上界に行ってくれ」
「解りました。」
「それと、この事をどんぶりうなぎに言ったのだが、奴は一つ注文をしてきた。それもお前に託す。地上界のある場所に桜と猛と言う姉弟がある。そこに行って来いとのことだ。わしの命令とどんぶりうなぎの命令を同じ家でやっても構わんぞ」
「時間を短縮するためには、そな姉弟の家で本を取ってこいと」
「そういうことだ」
女性は桜と猛の家にいた。姉弟両方が出掛けていたため、堂々と部屋に入った。だが、
「ただいま、猛。あれ、いないのー?あっ…。」
姉の桜が帰ってきた。女性は困惑した。桜は就活で夜遅くまで帰らないはずだったからだ。記憶を探る。
(今日は就活は休み休み。たまには休憩しなくちゃね)
女性は舌打ちした。外れの日だった。
「あ…あなた誰?」
桜が声を絞り出す。女性はいたって冷静に、
「いくつか本を頂戴に来ました」
そう言って一冊の本を手にとる。
「あ…駄目よ、それは!猛が一番好きな本よ!?」
すると、女性は桜の肩に手を乗せると、
「私の事は忘れて。あなたは今日も就活。」
記憶を操作したのだ。だが、
「あなたが何も持たずに帰るまではどこにも行かないわよ」
桜には効かなかった。これが女性の力の弱点。「怒り」や「悲しみ」などマイナスの感情を含む記憶を操作できないのだ。
桜にとって、この女性も就活も嫌な思い出らしい。すると、
「猛はあなたの弟ではない」
人間関係を操作するためには、次の関係も作らなくてはならない。
「猛はあなたの…。」
女性は迷った。何にすれば良いのか。
「…パパ。猛はあなたのパパ。」
「パパが…二人?」
「もう一人の方は、お爺ちゃん」
「パパと…お爺ちゃん…。」
「さあ、遊びに行ってきなさい。いつも帰る時間まで。」
桜は外出した。女性は、本を数冊取ると、天上界に帰った。
「ただいま戻りました」
「ご苦労であった。本をここへ」
女性が本を数冊持ってくる。キング・ジャイアントは男を呼ぶと、
「これをリーナに。」
「解りました」
トントン。
「…………。」
「お父様からの贈り物です」
男は段ボール箱を置いた。
男は、外に出た。
男が出ると、リーナは箱を開いた。
沢山の本。一番上にあったのは、
ラストオブヒーローズ。
孤独な少女、終了。




