火の覇者、火竜サラマンダー
サラマンダーは、他の四人とは違い気絶はしなかった。
吸収されただけだったからだ。
「ここは…洞窟?」
周りを見て言う。
光が入ってこず、真っ暗だったので、自身の炎を頼りに周りを見た。
「僕は…火の呪い神に吸収された…。つまり、ここは火の呪い神の中なのか?」
洞窟を進む。
いつまで経っても出口が現れる気配はない。もう数百メートルは進んだはずだった。
他の四人がいた場所とは違い、終わりというものがなかった。
「縦に進んで何も無いなら…横をぶち壊してみよう」
岩壁を見る。
「大龍火炎!」
ドグォーン…。
轟音は鳴ったが、砂埃が立った程度で穴が空かない。
「この岩壁…頑丈すぎる…!」
もう一度、
「大龍火炎!」
としてみるが、壁はビクともしなかった。
「何で出来ているんだ…」
「あまりこの洞窟で騒ぐな」
「誰だ!」
横を見ると、火の呪い神がいた。
「火の呪い神…!」
「もう少し大人しくしていろ」
「…嫌だね」
すると、火の呪い神はニヤリと笑った。
「騒がなくなるか、騒げなくなるか」
「僕は何と言われようと騒ぐ」
「ならば、騒げなくする。滅世禁炎之舞!」
「うわっ!」
サラマンダーが横に飛び退く。
赤い線は洞窟を飛んでいった。
「ほぅ…瞬発力はフェニックス以上にあるんじゃないか?」
「フェニックス君に鍛えて貰ったんだ。滅世禁炎之舞でね」
「なるほど…確かに奴も滅世禁炎之舞を使えるが、それは私のものに比べ威力、速度、コントロール全てが劣っている。私の相手にはならんな」
すると、サラマンダーが言った。
「そのフェニックス君は今どうしてる」
「寝返った地下界王と我々を封印しようと頑張っているが」
「地下界王が…。封印とはなんだ?」
「殺さずに相手を黙らせる技だ。優しい友だな、きっとお前達のために封印しようとしているのだろう?」
「そうか…」
火の呪い神が続ける。
「だが、今のお前に他人を心配する暇はない。私がお前を殺すからな」
「くっ…!」
「滅世禁炎之舞!」
サラマンダーは自らの力、飛竜を使って逃げ続けた。
火の呪い神が滅世禁炎之舞を十回ぐらい撃った頃だ。
「全く当たらないね。フェニックス君の滅世禁炎之舞の方が凄いんじゃないの?」
「何を言う…」
火の呪い神が洞窟の天井付近に浮いているサラマンダーを見つめる。
そして、笑った。
「…?何で笑っている?」
「そうか…最初からそうすれば良かったのか…」
「…?」
火の呪い神はサラマンダーの方に手を向けると、
「滅世禁炎之舞!」
と唱えた。
それは、サラマンダーへ向かったが、サラマンダーが下に降りたため天井に激突した。
「また当たらなかったね」
「ククク…」
「さっきから何故笑っている?僕はお前の技を避けたぞ?」
「バカめ…私の狙いはお前ではない…」
「え?」
火の呪い神が天井を指差す。
サラマンダーも天井を見る。
「まさか…!」
「私の狙いは…」
滅世禁炎之舞が激突した天井は、今にも崩れそう…いや、崩れた。
サラマンダーの頭上から岩石が降ってくる。
「何!?」
サラマンダーが急いで前に飛び退くが、少し遅かった。
サラマンダーの下半身は、岩石の下敷きとなった。
「ぐ…!」
「私の狙いは、お前を埋めることだ」
「やられた…!」
サラマンダーだろうが何だろうが動けない者に技を当てるのは非常に簡単だ。
火の呪い神は余裕の笑みを浮かべ、サラマンダーを殺す準備を始めた。
「滅世…」
「やめろ…」
「…禁炎之舞!」
ダグォーゥン…。
火の呪い神の目の前は、轟音を立てて爆発した。
「さて、外に戻るか。何も出来ないとはいえ、奴等二人を長時間放っておく訳には…」
「待てよ」
「…?」
「待てっつってんだろ」
明らかにサラマンダーの声だった。
「まさか…生きているというのか?」
「こんなん生きてる内に入んねぇよ…下半身は不随、上半身も少しでも動かしたら大火傷のせいで激痛が走る…」
「…………。」
「マトモに動いてんのは下向いてた目、鼻、口だけ。指一本動かすのにどんだけ労力いるんだよ…」
火の呪い神がサラマンダーの方を向く。
血だらけ、大火傷。
確かに生きている者の姿とは思えない。
だが、サラマンダーは生きている。
「どうやったらここまでされても生きていられるんだ…どこからそんな力が湧いてくるんだ…?」
すると、サラマンダーは左の手のひらを火の呪い神に見せた。
そこには、傷で模様が描かれていた。
「これは…結界!?」
「正解」
「お前…五禁の威力を弱めるために左手に傷で結界を作ったのか!?」
「正解」
「なんて奴だ…!」
「残念だけど火の呪い神…驚くのはそれだけじゃないぜ…」