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五人の覇者  作者: コウモリ
過去の回想
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過去の回想 クラーケン編

 フェニックスが地図を見出して約五時間。三ページを見た。この調子でいくと千二百ページ余りあるこの地図を全て見るには三ヶ月(不眠不休)かかるのだが、未だ二つの世界を繋ぐ扉など見つかっていない。しかも、見つけたとしても、それは天上界側での扉であって、地上のどこにあるかなどを調べるには更にインターネットを駆使しなければならない。そして、フェニックスがそんな地獄から一時的な休憩に入ろうとしたときだった。


 「誰も…いない」


 四人がいないのだ。五時間前には手を合わせ各自色んな事を祈っていた四人が。


「俺がこんな頑張ってんのに…。ちょっと探すか」


 まず、ソファにペガサスが寝ていた。


「何してんの」

「ペガサス、引きこもりモード」

「あっそ」


 次に、部屋のベッドでサンガーが寝ていた。


「何寝てんだよ」

「俺、休日いつもこうだった」

「へぇ」


 三人目、バジリスクが部屋の隅で体操座り。


「あなたも引きこもりかな?」

「当たり」

「ふーん」


 最後、クラーケンがお風呂場でナイフ片手に左手の手首を。


「クラーケンは自殺?」

「はい」

「…………。」

「…………。」

「ざっけんな!俺が地図を血眼で見てるときに引きこもりなんかになりやがって!」

「落ち着いてください!力の無い我々には引きこもるしか…」

「お前は引きこもりを越えてるよ!あー、ったくやってらんねぇ。気晴らしに買い出し行ってくるから」

「フェニックス君、技がないのに人に見つかったりしたら…!」

「ぶぁーか、俺には究極奥義、紅子さんがあるんだよ!」






 と言うわけで。紅子さんは夕食の買い出しに行っている。そして、そのまま平和に帰るつもりだった。だが。


「あら、フェニ…子さん」


 クラーケンの母に会った。


「こんにちは、おばさん。上手く紅子さんらしくしましたね」

「ホ…オホホ…。」

「おばさんも買い出しに?」

「ええ。いつもは爺に行かせるんだけど、今日は気分的に自分で行きたくて。」

「そうですか。では、さようなら。」

「あ、そうだ。ついでに息子の様子でも見ようかしら」

「え゛」

「ほら、インタビューで言ってたわよね。『世界を面白くする』って。きっと今日も友達と面白いことしてるんじゃなくて?」

「面白いものと言っても、息子さんの死体ぐらいしかないと思いますが…。」

「え、何?」

「いえ、何も」

「では、先に行ってるわね。」

「あっ、ちょま、おばさん!」






「佑樹ィィィィィィィィィィィィ!!」


 数分後、この世に熟年女性の悲鳴が轟いたことは言うまでもない。






「佑樹、大丈夫?止血はしといたけど…。」

「すみません、母上…。」

「何があったの?」

「力が使えなくなったんです。もうただの凡人に用はない…。」


 そう言うと、クラーケンはナイフを手に取り…


「ひいぃいっ!やめてちょうだい、佑樹!」

「おい、クラーケン、自殺はやめんか」


 女装を解いたフェニックスが地図を眺めながら注意する。


「…はい」

「ったく、クラーケンは力を無くした途端にネガティブになったな…。」

「フェニックスさん、息子は前そうでしたのよ」

「え?どういうことですか?」

「お話をする前に、他の三人は?」

「気にせんで下さい、単なる引きこもりです」

「…………。」






「佑樹が起こした『あの事件』は名簿を燃やすだけでは終わりませんでした。あの後、自らの身も暖炉に投げました。そして、死んだのですが、こうやって今生きているわけですね。佑樹が自殺した理由は結婚の事が主ですが、他にもいくつかありました。紹介しましょう。」

「母上、ちょっと待ってください…」

「いえ、これから共に暮らす人に隠す理由はありません。」

「…………。」

「結婚の次に大きかった理由は…そうですね、人生が勝ち組だったことでしょうか。変な意味には捉えないで下さいよ。佑樹は小学校から私立に通わされて、大人になると我が夫の経営する大会社に勤めさせられました。しかも、平社員ではなく、最初から重役にね。それが重荷だったのでしょう…。」

「クラーケン、お前…。」

「母上、僕はそんなこともう気にしていませんよ…。」

「いえ、あなたは気にしているわ。だから凡人に戻った今、また自殺なんかしたんでしょう?」

「…。僕には今超人として以外の生き甲斐が無いんですよ…。だから…」


 ガスッ!


「フ、フェニックス君?」

「クラーケン、てめぇ、クズみたいなこと言ってんじゃねーよ…。」

「フェニックス君、僕には本当に…」

「俺は目の前で好きな奴が死ぬのを見たんだよ!!」


 フェニックスが大声を出す。


「俺に新しい技を授けたから!そんなことしなきゃあ、少しだけ長く生きられたのに!愛する人が目の前で死ぬ悲しみが解るか?自分のせいで死んじまった悲しみが解るか!?」

「フェニックス君…。」

「テメエが死んで一番悲しむのはテメエの母さんと爺なんだよ!あ!?勝ち組なら人に迷惑かけてんじゃねーよ!生き甲斐だァ?はっ!んなもんねぇ奴この世に大量にいるよ!テメエより数倍絶望背負って生きてる奴大量にいるよ!そいつらに面白い世界与えんのが俺ら覇者だろ!?その覇者が暗くなってどーすんだよ!」

「フェニックス君…。」

「すまねぇ、キレイ事なんか言って」

「いや、僕が礼を言わなければいけませんね…。フェニックス君。君のお陰で目が覚めました。」

「クラーケン、ウェーブ試してみろや」

「え?あ、ウェーブ!」


 クラーケンはフェニックスのお陰で暗い過去を乗り越えた。そして、明るい覇者として生きると決めた。そのクラーケンから今、ウェーブが…!!






「…出ねぇな」

「…出ませんね」

「チェッ、過去を乗り越えたから技取り戻せるかと思ったんだけどな…。」

「フェニックス君、僕に説教したのは試すため…ですか?僕を過去から救うんじゃなくて?」

「たりめーだろ。誰が慈善事業の説教なんかするかよ」

「いい…友達を持ったわね、佑樹…。」

「はい…。」

「まあ、俺は地図で扉探すのが先決か」






 天上界にて。


「フェニックスの奴、本当に試すだけのためやったのか?クラーケンのためのようにも見えたが」

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