全世界戦争(五)
「総力奥義!」
『主は…』
「あれ?」
サラマンダーが異変に気づいた。
「いつもの声が途切れた…」
何かあったのかと周りを見渡す。
「こんな時にブランデーの酔いが…!」
「全く、こんな時に…」
サラマンダーがクラーケンに注意する。
「芋焼酎が喉まで戻ってきている…!」
「おいおい…」
「ウォッカとワインを数ボトル分戻しそう…」
「あんなにはしゃぐから…」
「ぐぶうぇええごぶぉおおぎゅるる」
「既に吐いてるし」
サラマンダー以外、死亡。
ドスーン…。
キング・ジャイアントの拳がサラマンダーの前に落ちる。
「こっちはノンストップかよ…僕一人でやるのか…」
ドスーン…。
「大龍火炎!」
キング・ジャイアントに炎がぶち当たる。
だが、びくともしていないようだ。
「ぐっ、やっぱり僕一人じゃ限度があるか…あ、そうだ」
サラマンダーが何かを思い付いたらしい。
「確かウコンが…あった」
サラマンダー流、ウコン茶完成。
クラーケン、ペガサス、バジリスク復活。
「まだ足りねぇ…酔い醒めねぇ…」
「サンガー…」
「仕方無いだろ、あの人ウォッカ七杯とワイン三瓶はやったんだから」
「吐いたわしよりも酔っているとは…」
「アンタ吐いたから酔い醒めたんでしょうが」
「とにかく、クラーケン君、やってしまいなさい」
「はいはい、パワーモア!」
サンガー、復活。
「仕切り直して、行くぞ!」
「総力奥義!」
『主は…ぐぶぅうごぶぇえ…』
「どこの誰が酔ってるんだよ」
『げぼ…主は、火の覇者』
「出でよ火竜!」
キング・ジャイアントに匹敵する大きさの竜が現れた。
ここから先は、血と快音のお祭りである。
グジャッ!ボキボキ…ブジュ。ザンッ!ベチャ。
「いやぁ…凄い事になってるね…」
R15にかかっていない事を祈るばかりだ。
多分かかっていないが。
「…………。」
クラーケンが、迷いを感じさせる顔でキング・ジャイアントと火竜の戦いを見ていた。
すると、ペガサスがクラーケンに言った。
「考えてる事、当ててやろうか」
「え…?」
「自分に知り合いを殺す覚悟はあるのか…って、考えてるんだろ?」
「…………。」
「男だ…キチッとするとこはキチッとしろよ」
クラーケンの背中を叩いた。
「…………。」
火竜が、キング・ジャイアントの両足を噛みちぎって、床に倒した。
地下界王が少し驚く。
その様子からは、まだ敵がいる事が伺える。
五人が、動けないキング・ジャイアントに近づいた。
「覚悟はついたか…クラーケン…?」
ペガサスが聞いた。
クラーケンが答える。
「あっても無くても…殺らなきゃ自分が死んでしまう。僕はやりますよ」
フン、と鼻で笑ったペガサスの顔は、悲しみで埋められていた。
「すみません…キング・ジャイアントさん…」
「大龍火炎!」
「アイスキャノン!」
「フォレスト!」
「ギガサンダー!」
「岩石弓矢!」
始終一言も喋らなかったキング・ジャイアントだが、最後に見せた顔には、後悔と懐古が浮かんでいた。
「昔の事を…思い出してたんだろうな…」
その亡骸を見て、ペガサスは言った。
クラーケンは、巨体の前に突っ伏した。
だが、悲しさも懐かしさも長くは続かなかった。
「お前ら、まだ終わってはおらんぞ」
「地下界王…!」
次に現れたのは、サラマンダー除く四人が良く知る女だった。
「アンタは…ノア…!」
「お久しぶりです、四人とも。フェニックスさんがいないようですが。同年代の少年はいるようですね」
ノアがサラマンダーを見た。
「ノア…」
サンガーが呟く。
それを聞いて、ノアが言った。
「そういえば、二百年前…フェニックスさんに私に戦って勝ってやると宣言されましたね。あなた達が代わりに達成してはいかがですか?」
「勿論、そのつもりだ」
サンガーがノアを睨み付けた。
「かかってきなさい」
「サンガーさん、奥義やるよ」
「いや…サラマンダー、コイツは素早いから奥義は使うべきじゃない。技で攻めるぜ」
「…解った」
微笑を浮かべるノアを、五人が囲んだ。
「いつでも…どうぞ」