第二次極界戦争(五)
気分を切り替えて、フェニックス。
え、本編の方では覇者を書くんじゃないかって?
知った事ではない。
別行動を取った彼らが悪いのだ。
作者に非はない。
「いってぇな…。二百年ぶりに尻餅ついたんじゃないか?」
女装を解いて、フェニックスは起き上がった。
「ここはどこだ」
周りを見渡す。
黒い壁、床の部屋だった。
松明だけが灯りだ。
天井は見えない。考えれば何故かは解るだろう。
「どこなんだ…」
「それは知らなくても良い事だ」
どこからか声が聞こえた。
「誰だッ!」
「つい最近会った事があるのだが…解らぬか?」
「俺に記憶力とはあって無いような物だ。それで責めるとは卑怯な奴め」
「…………。」
「どこにいるんだ、出てこい」
すると、闇の中から一人の男が現れた。
「お、お前は…!」
「フフフ…」
「お、お前は…!」
「フフフ…」
「お、お前は…!」
「いい加減にしろ」
「すまんすまん。で、誰だ?」
「解らないの?」
「解るかよ」
「…………。」
絶句。
「で、誰だ?」
「地下界王」
「はァ?誰だそいつ」
「目の前にいるのに『そいつ』とは…」
「え、お前の事だったの!?」
「どういう思考回路しとんだお前…」
「で、俺をこんな所に連れてきて、何の用だよ」
地下界王は間を開けて言った。
「お前とな、賭けをしようと思う」
「それはどーゆー『かけ』だ。駆けか、架けか?」
「まぁ、『かけ』にも掛けや懸けがあるからな。私が言ったのはギャンブルの方の賭けだ」
「それはどーゆー『ぎゃんぶる』だ」
「逆に聞くが、『ぎゃんぶる』という言葉はいくつあるんだ」
「今は俺が質問してるんだ」
「変な所だけ理屈つけるな」
地下界王、突っ込みの才がある。
「アハハ、こりゃ愉快だな」
「愉快じゃない」
「で、どのような賭けだ?ポーカーか?ブラックジャックか?」
「トランプは使わん」
「麻雀か」
「ボードゲームじゃない」
「競馬だな」
「戦うんだよ馬鹿」
「ああ、そっか。で、何を賭けるんだ?」
「お前が勝てば、この世に存在する全ての火体系の技を与えよう。私が勝てばお前の持つ力、技、魔術を剥ぎ取る」
「…そんな事出来んのか?」
「闇の魔術は日々進化する。可能だ」
「危険な賭けだな…勝ち負けの判定は?生死か?」
「いや、相手が気絶するまでだ」
「…何故生死を賭けない」
地下界王は微笑した。これから告げられる事は、フェニックスに衝撃を走らせた。
「賭けられない理由があるのだよ。今はまだ、地下界王の後継者はいない。そんな今、私が死ねば地下界は消える。そうすれば、何が起きると思う?」
「…解らない」
「死者は浮かび上がらない。魂が輪廻へと戻る事は無く、新生児の誕生はある日を境に無くなる」
「そうすれば…この世の人間がいつかいなくなる…!」
「だから、私は死んではいけないのだ。この世の未来のために生死は賭けてはいけない」
サラッと地下界王は言ったが、かなり重要な事だ。この重要さが理解出来ない人は、出来るまで読み返して欲しい。
だが、フェニックスには苦悩があった。
「地下界王…お前を殺せなければ地上界は元に戻らない…」
「その通りだ。だが、さすがのお前も、『町の風景』と『人間の存続』、どちらが大切かぐらいは解るだろう?」
「ぐ…」
「他に何か言いたい事は無いか?」
「お前は…地下界の王だ。だが、主役でない俺の元に現れた。何でだ?」
地下界王は下を向いて笑っていたが、フェニックスには見えなかった。
そして、地下界王は嘘をついた。
「お前に勝つ自信があるからさ」
嘘…ではある。
勝つ自信はあったのだが、それはこの質問に対する答えではないのだ。
だが、フェニックスは信じた。
「地下界王、本当に俺を倒せるかな。取り敢えず、戦おう」
「ああ」
「勝つためだ、マックスで行くぜ。
滅世禁炎之舞!」
黒い世界は赤のみの世界となった。
フェニックスは異変を感じた。
「地下界王…。何故攻撃しない?何故技を出さない?」
「知らなかったか?私は技は使わない」
「マジで」
フェニックスは、勝てると思った。
闇の魔術しか相手は使わないのだ。
地下界王は、闇の魔術は日々進化している、と言っていたが、さすがに神の力に敵うはずがない。
だが、フェニックスの思惑は外れた。
「どうだ、地下界王!技を使えな…へぶっ!」
地下界王がいきなり殴ってきたのだった。
「な…!」
「フェニックス。私は技を使わないと言った。だが、それは闇の魔術だけを使う、という意味ではない」
地下界王はフェニックスを睨んで言った。
「私が使うのは、己の拳だ」
ガチな男、現る。