第二次極界戦争(四)
二界道、天上界扉にて。
あ、一つ言っておくが、天上界にあるのが地下界扉、地下界にあるのが天上界扉である。
「ここを開ければ…地下界…!」
「行くぞ!」
バタン!
自分達より強い敵が来るかもしれない。
覚悟していた。
「全員構えろ!どんな敵が来るか解らんぞ!」
「おうッ!」
もしかしたら、二界道での出来事を全て監視されており、突然地下界軍総出でお出迎えかもしれない。
全て、覚悟していた。
それなのに。
「な…何じゃこりゃ…?」
五人が見たのは、人々の笑顔だった。
幸せそうな、満面の笑顔だった。
悲しい、苦しい顔をしている人は誰もいなかった。
五人が見た中には、軍人の様な服を着た人もいたのだが、五人を見てもその笑顔は揺らがなかった。
油断ではない。
本当に、幸せそうにしているのだった。
「敵襲から身を守る…なんて雰囲気じゃねーな…」
「何なんでしょうね…この余裕は…」
すると、サラマンダーが思いついた案を口にした。
「彼らにさ、地下界王はどこにいますか?って聞いたら?」
「…そうするか?」
「賛成です」「賛成」「良いぜ」
そして、一番近くの男性に話しかけた。
代表、クラーケン。
「あの…」
「何だい」
「一つ聞きたい事が…」
「地下界王の居場所かい?」
「え゛」
「ははは、全部聞こえていたよ。君達が敵という事もね」
「じゃあ…どうして行動を取らないんですか?」
「地下界王を信じているからさ。彼は、我々に危険を与えない。彼は、我々を裏切らない」
「…!」
「全てが自由。それが地下界のポリシーだからね」
「全てが自由って…?」
「そのままの意味さ。何をしても良い。天上界、地上界では犯罪と見なされた事も、ここなら許される」
「だったら、被害者が出るのではないのですか?」
暴行、虐待は肉体的、精神的に誰かに被害を負わせる。
「体に傷がつけば治して消せば良い。嫌な事があったなら、記憶を消せば良い。何をしても誰も結果的には傷つかない」
「…!」
無法地帯にして最も幸せな場所に思えた。
だが、それならば二界道を守る兵士も笑っているはずだった。
「違う人も…いつも笑ってはいない人もいますよね?」
「ああ。地下界の人間は二種類。一つは、君が言った様に楽しい事ばかりではないが、殺されない限り永遠の命を持つ者。一つは、我々の様に毎日楽な日々だが、期限がある者」
そう言うと、彼は服の袖を捲り上げ、手首に刻まれた数字を見せた。
そこには、559と書いてあった。二秒に一度、数字が減る。
「この数字が0になった時、僕は魂の輪廻へと消える。」
「あと二十分も無い…!」
「ああ。だが、今まで充分に楽しんだ。未練は無いよ」
「…………。」
天上界軍の兵士が偵察に行ったきり帰ってこない。そんな話を聞いた事もあった。
理解できなくもない。
「地下界王はここから北へ200km辺りの所の宮殿にいるよ。目立つからすぐに解る」
「ありがとうございます」
すると、男性は言った。
「せっかくの客人なのに、こんな事を言っても…とは思うが、言っておくよ。君達に引き返す権限があるなら、引き返した方が良い」
「え…?」
「あの宮殿に無断で入れた人間は未だに二人だけだ。因みに、無断で入ろうとしたのは三万人くらい。だけど、その二人も伝説化してるから本当にいたかどうかは解らないんだ」
「…!」
「引き返す気は…無いのかい?」
「出来ません。仲間のために」
「そうか…残念だな…。」
「ありがとうございました」
クラーケンは、男性の元を去った。
「随分長く話していたが、どうだった?」
「地下界王は北に200kmの所にいます」
「解った。行こう」
ペガサスがクラーケン、バジリスクを、
サラマンダーがサンガーを持って空へと飛んだ。
「頼んだぞ、サラマンダー」
「…サンガー」
「何だ」
「ファーストクラス料金」
「まだ言うか」
すると、クラーケンが焦って言った。
「ま、待ってください」
「どうした、クラーケン?」
「あと十数分…待ってくれませんか」
「え…良いけど」
「ありがとうございます」
クラーケンと男性が話して十数分。
「何を待っているんだ、クラーケン?」
「多分もう少しで…」
クラーケンの眼は、話した男性を見ていた。
「もう少しで、時間です」
すると、男性が歩き始めた。
「どこに行くんでしょうかね…」
その男性が向かった先は、近くにあった役所だった。
「役所?クラーケン、アイツ何する気なんだ?」
「…………。」
そこからあの男性が出てくる事はなかった。