空舞う炎(九)
「おい、どんぶりうなぎ!この二界道の番人は誰だ!」
「地下界精鋭部隊」
「また奴等か…」
二界道は、中にいる番人が全員死ねば消滅する。
つまり、二界道を消すには番人を殺されなければならない。
「だが、フェニックス。今のお前じゃ奴等は倒せんぞ」
「…何故だ」
「サイゴも、俺同様不死身だからだ」
勝ち目0だ。
不死身なんて言われたら戦意喪失する。
「…………。」
「どうした、フェニックス。顔に諦めが出ているぞ」
どんぶりうなぎが嘲笑う。
「もう無理だ…」
フェニックスがそう、呟いた。
その時だった。
ズゥーン…。
空から何かが落ちてきた。
土埃が舞う。
「誰だ!」
どんぶりうなぎが叫ぶ。
予知していなかったようだ。
現れたのは、燃えている男だった。
変な意味で捉えないでほしい。
マジで燃えているのだ。
その男はくるりと周りを見渡すと、最後にフェニックスを見た。
「誰だお前?味方か?敵か?」
フェニックスが聞く。
すると、どんぶりうなぎが、
「こいつは俺の仲間じゃねぇ…。」
と言った。
即ち、フェニックス達の仲間である。
「ぅお…救世主来たか…?」
フェニックスが微笑する。
確かに、この最悪な状況で現れた味方だ、良い仕事してくれるかもしれない。
すると、その男がフェニックスに対して、
「お前がフェニックスか?」
と言った。
「え…ああ、そうだけど」
「そうか…お前が…。」
その後、そこにいた全員が驚いた。
男の眼が赤く光り出したのだ。
「なっ…!」
その赤い眼は依然としてフェニックスを見つめている。
十数秒が経った。
「もう、良いだろう」
そして、男は帰った。
「え゛」
フェニックスが驚いて言う。
「アイツ…結局何したの?」
「さぁ、フェニックス殿を十数秒見つめていましたが…」
「何もしなかったな」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
…救世主では無かったらしい。
だが、呆れている暇はなかった。
扉が開いたのだ。
「どんぶりうなぎさん、やりましたよ」
中から出てきた男はそう言った。
だが、出てきたのは一人では無かった。
「十人…十一人…十二人…………。これ、精鋭部隊のサイゴ以外全員来たんじゃねぇか!?」
フェニックスが驚いて言う。
どんぶりうなぎが全員に言った。
「二界道、ご苦労だった。次は、コイツらを処分しろ」
全員が三人に向かってくる。
「どうする?」
「どうします?」
「どうする?」
囲まれた。
すると、フェニックスの体が疼いた。
「え、マジかよ…」
「どうした、フェニックス」
「喜べよ、二人とも。さっきの奴はやっぱり救世主だったぜ」
「え、何言ってんの?あ、おい、フェニックス!」
フェニックスは謎の言葉を吐いて、火炎の翼を出し、空に上がった。
「逃がすかよ!」
数名も飛び立つ。
「何する気だ、フェニックス…。」
どんぶりうなぎが空を見つめる。
フェニックスが、遥か上空から下を見て大声で叫んだ。
「敵も味方も聞け!俺はさっきの男に新しい技を与えられたぞ!良く見ていろ!」
だが、魔術で倒せなかったどんぶりうなぎを、たかが技で倒せるとは誰も思わない。
だが、味方の二人はそれを信じるしかなかった。
「うらああああ!」
敵がフェニックスに近づいてくる。
だが、フェニックスは落ち着いて目を閉じ、こう言った。
「我が翼に宿りし炎、この空に舞え!
滅世禁炎之舞!」
ああ、「空舞う炎(五)」の最後で作者が言った事を覚えているだろうか。
だが、いつかきっとタイトルらしくなるだろう。
マジでなりました。
我が翼に宿りし炎、この空に舞え!だなんて♪
「話に水を差すな、作者」
どんぶりどじょうに叱られた。
いや、この凄い状況、叱られた程度で見逃すわけにはいかない。
フェニックスの火炎の翼が、どんどん大きくなっていっている。
縦にも横にも広がっている。
下を向いた状態で翼が縦にも横にも広がっているのだから、青空を赤が侵食しているように見える。
そして、視界にある青空を埋め尽くした。
この世が一変した。
空は赤く揺らめく雲で覆われ、
度々落ちてくる火の粉はまさに火の雨。
物という物が赤く光り、
触れば指が溶けるほどの熱気を帯びた。
そして、文字通り炎が舞い始めたのだ。
空で火が形を作っている。
それは鳳凰だった。
赤のはずだった炎は七色に変わり、美しく大きな鳥が現れたのだ。
しかも、一匹ではない。
数匹の鳳凰が空で舞い始めた。
そして、フェニックスを攻撃しようとしていた奴等に火を吹き、燃やし尽くした。
敵も味方も恐怖しか感じなかった。
これは技などではない。
魔術でもない。
人知を越えた、神の力だ。
名前からして解るだろう。
滅世禁炎之舞。
世を滅ぼす、禁じられた炎の舞い。
魔法をお題にした小説では、たまに「禁呪」や「禁術」という言葉が出てくるが、これが値する。
「どんぶりどじょう殿…」
「どうした、ジーム」
「これはちょっと、ヤバくないですか…?」
「ちょっとどころじゃない。最悪だ。下手すりゃ地球が燃え尽きる。今この世にいる人間は地獄を見ている」
史上最悪の力。
だが、コントロール出来るなら史上最強の力になる。
「に、逃げろ!」
精鋭部隊の男の掛け声で全員が二界道の中に入った。
だが、それに続いて炎の竜巻も入っていく。
数秒後、扉から物凄いスピードでマグマが溢れだした。
どんぶりうなぎ、どんぶりどじょう、ジームが跳んでビルの屋上に避難する。
「フェニックス!一旦止めろ!」
どんぶりどじょうが言うと、空に青空が戻り、フェニックスが降りてきた。
「なんか俺、越えちゃいけない一線を越えた気がするんだけど」
三人が頷く。
「なぁ、客観的に見てたお前ら三人に聞くけどさ、俺は何してた?」
「い、意識がないのか!?」
ヤバイ。
意識がない=何でもしかねない。
「あのですね…………。」
ジームが説明した。
「マジで!?そんな事があったの!?」
フェニックスが驚愕する。
「あの男、何でそんな技を俺に…」
「とにかく、あの技は封印しろ」
どんぶりどじょうが忠告する。
だが、皆さんは誰か一人お忘れじゃなかろうか。
「死ねぇ!」
「ゲッ、兄さんが攻撃してきやがった!」
「滅世禁炎之舞!」
「さっき封印しろと言っただろー!」
どんぶりどじょうよりも炎の方が早かった。
キンッ。
ズドーン…。
何かが、起こった。