火の覇者、火鳥フェニックス
プロローグ。五人の覇者の誕生
彼の名前は猛。13歳。淡々と進む日々に嫌気がさし、毎日がカラフルな少年マンガの主人公に憧れている。現実に有り得ない事を知っているから尚更憧れる。
彼は今大通りを一人で歩いていた。因みに今は夜。雨も降っており、傘をさしていた。父親を迎えに行っているのだ。この雨は夕方から突如降りだしたもので、父は職場に傘を持っていっていなかったのだ。
「あれ…何だろ?」
猛が見つけたのは男だった。拳銃らしきものを持っている。そう解っているのだが、「何だろ」と言わざるを得なかった。その銃口は、
「俺を狙ってる?」
ダァン、ダァーン。
「…ッ…。」
「目が覚めたか」
「生きてた?うあ、ダメだ、視界が真っ白だよ、あ、でもなんか見えるぞ?」
死に際から復活したにしては元気な口調で猛は喋り出した。
「あれ…鰻?」
白の中に猛が見つけた物は…鰻だった。どんぶりの中に入った鰻。
「目が覚めたか」
誰かがさっきと同じ言葉を発する。
「あなたは…?どこに?」
「ここにいる。お前が見ているもの」
「見てるものって…鰻?」
「本名、どんぶりうなぎ」
「ここ…天国?」
鰻が喋ったのをその目で確認してしまった猛は、そう認識した。
「惜しい」
「じゃあどこ」
「天上界」
「天国だね」
「違う」
否定された猛は己の持てる知能を駆使して天国と天上界を区別した。
「俺に何があったの?」
「殺された」
「知ってる」
「なら話が早い」
猛は割と冷静な方だった。人生に悲観なタイプだったので、もう何とでもなれと思っているのだ。
「君は地球でもう一度やり直す」
「嫌だ」
「猛としてではない」
「なら構わん」
「火の覇者、火鳥フェニックスとしてだ」
「意味解らん」
「君はもう四人の覇者とモンスターから地球を守る。残りの四人は水、草、雷、土の覇者。」
「何も理解してないけど、とりあえず地球にモンスターなんていない。」
「今から出る。君達覇者の力に魅せられて」
「じゃあどうして覇者を作る」
「この星、面白くない」
「同感だ」
「だから面白くする」
この理由で猛は地球に戻ることを決意した。
「まず、君は『火炎の翼』を出し入れすることができる。念じてみろ」
フェニックスが念じると、背中から炎の翼がはえた。
「無論飛ぶこともできる」
バッサバッサとやると飛ぶことができた。翼を動かすのは手を動かすようなものだった。
「技も四つある。技は君次第でいくらでも増える。フレア、メガフレア、ギガフレア、テラフレアだ」
「っし、フレア!」
真っ白な世界に紅い炎が現れた。
「す、すげえ…!」
調子に乗ったフェニックスは、
「テラフレア!」
「待て!」
白が消え、全てが赤に変わった。フェニックスが覚えているのはそこまでだった。
「いいか、テラフレアを使うのは結界の中だけだ。結界を教える」
目が覚めると、目の前にいい感じにこんがり焼けたどんぶりうなぎがいた。
「フレアを右手に集め、地面に向かって円を描け。そして、それに内接するよう星を描け」
言われた通りにする。すると、地面に描いた通りの模様が浮かんできた。
「それが守りの結界だ。その中なら何でもしていいぞ。だが、あまりやり過ぎると結界の外にまで影響が出るぞ」
結界を作れば何でも守れるって訳じゃないらしい。結界は念じるとすぐ消えた。
「次に奥義の結界を教える。先程のように円を描き、中に漢字で『火』と描け」
言われた通りにした。そして、また浮かんできた。
「奥義は覇者が二人以上集まってできるものだ。通常技とは違い、体力の消耗が大きいから気を付けろ。まあ、今度仲間が集まってから使ってみればいい」
「なあ…さっきから念じれば何でもできるんだが、どうしてだ?」
「覇者なんだから」
上手い具合にはぐらかされた。
「さあ、地球に行ってこい。飛んでな。出口はそこ」
「ありがとう、どんぶりうなぎ。頑張るよ。」
「あ、最後に一つ。お前、地球に行ったら笑えよ」
「分かった」
フェニックスは地球に降りた。すぅーっと息を吸って、にっこりと笑った。
フェニックスが降り立った所は、都会の高層ビルの屋上だった。そこは見慣れた場所…猛が死んだ場所の近く。警察が何人もいた。翼をしまうと、真後ろにモンスターがいるのに気づいた。
「…挨拶ぐらいしろよ」
そう言うとフェニックスは結界を張った。
「馬鹿め、俺は水を扱うモンスター。火の覇者と言えど勝てるわけがない。」
モンスターが嘲笑う。
「あーん…ナメてんのかテメエ…。水は蒸発させんのが常識だろうが!ギガフレアァ!」
「ケッ、何が常識だァ?ぶっ潰してやるよ、ギガウェーブッ!」
結界の中で赤と青が舞う。フェニックスは押されているのに気づいた。
「チッ、クソがァ!テラフレア!」
「ぬ…ぬあああああああああああああ!!」
「ハァ…ハァ…、蒸発したか…。」
フェニックス初戦は勝利となった。その時だった。
ガァァアァン…。
「ら、雷鳴?」
桁外れのものだった。
「雷の覇者か?」
フェニックスは疲れも気にせず飛び立った。