出会い
(ん…?ここは…?)
「レオ、優勝おめでとう!」
(そうか!5年前の…)
どうやら、5年前の最強武神祭に優勝した時の記憶を見ているようだった。
とりあえず、レオは思い出を頼りに当時のイメージを思い出していった。
「ありがとな、カナ」
「んっ♡」
記憶の通りに頬にキスされてしまった。
「な…⁉︎」
「優勝したご褒美♡」
「お、おい……ッ⁉︎」
(なんだ⁉︎今背後からとてつもなく嫌な視線を感じたような…)
レオが後ろを振り向こうとした時、カナがいきなり押し倒してきた。
「いてっ!ちょっ!カナ!何やってんの⁉︎」
「何って、押し倒したんだよ〜?」
頬を紅潮させ、馬乗り状態となっているカナはレオに覆いかぶさるようにしなだれかかってきた。
「やっぱりキスだけじゃ、ご褒美として足りないよね…?」
「いやもう十分だから!ちょっ、これ以上はホントまずいって!みんな見てるし!」
「みんなって誰?誰もいないよ〜?」
「そんなワケ…⁉︎」
カナと共に周りを見渡すが、誰もいなかった。あれほどいた観客達も。
「何でだ…」
レオが現状に愕然としていると、カナがふと起き上がった。
「あーあー、もうおしまいかぁ…」
「おしまい…?」
すると、急にカナじゃない少女の声が聞こえた。
「レオ様?そろそろ起きて下さいっ!」
「は?起きる?」
その時、カナが右手で顔面を掴んだ。
「そぉれっ!」
左手で右手の中指を持ち上げ、その指を離した。
中指が額を強く打ちつける。
「いてぇっ‼︎」
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一瞬目の前が真っ暗になったかと思うと、すぐに視界が開けてきた。
目の前に馬乗りになって、レオの顔を掴んでいるメイドがいた。
「何だ、夢か…」
「なんですか⁉︎その残念そうな表情!」
「誰もそんな顔してないだろ。てかいつまで乗ってんだよ?」
「あ、すみません!レオ様があんまりにも起きないものですから、こうでもしないと…」
「分かってるよ。起こしてくれてありがとな、サラ」
「いっいえ!これもレオ様の専属メイドの務めですから!」
そう言って無邪気に微笑む彼女は、サラ・エルドという炎の国の国主に仕える侍女の一族だ。
オレンジ色の髪を二つに束ね、肩に垂らしている。
透き通った青空のような瞳にレオもついつい見入ってしまうことがある。
服を着るのを手伝ってもらいながら、さっきの夢について考える。
途中までは記憶とほぼ同じであった。そう、あの嫌な視線を感じるまでは…
(あれは何だったんだ?あれも記憶の通りに感じていたものなのか?くそ、あまり詳しく思い出せない。というか…)
ある意味問題はその後である。
(あんなことは無かったはずだ!いくら夢でもあれは流石にあいつに申し訳ない。なんて夢を見てたんだ、俺は…)
「レオ様、どうかしたんですか?顔が赤いですよ?熱があるんですか?」
「いっいや!なんでもねえよ!」
どうやら顔が少し赤らんでいたようで、サラが心配そうにレオの顔を覗き込んでいた。
「そういえば、もうすぐ2回目の武神祭がありますね!今回も決勝戦まで行ければ、もう王位は確実ですねっ!」
「そうか、あれからもう5年も経つのか…」
レオは感慨深そうに窓の外を眺める。
(今回も優勝出来るだろうか?何か嫌な予感がする…)
「ま、俺はあんまり王位には興味ないんだけどな。強いやつと戦えればそれでいいし」
「えー!何故ですか⁉︎」
「ま、特に理由はないけどなんとなくな」
「せっかくのチャンスなのに、もったいない…」
「もうこの話は終わり!さぁ、朝飯食いに行こうかね」
「行ってらっしゃいませ。私はベッドメイキング等を済ませてからそちらに向かいます」
「ん、よろしくなー」
そして、レオは朝食を食べるべく寝室のドアを開け放った。
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「腹…減った…」
こんなことなら昨日の村で食料を少し失敬しておくべきだったか?
まぁ、あまりそういうことはしたくないから、これでいいと言えばいいんだろうな。
「ここは、そろそろ炎の国辺りなのか?周り全部森だけど…」
ダメだ。空腹で頭がクラクラしてきた。
「もう…限界だ…」
僕はとうとう倒れてしまった。
なんとも情けない。
僕はこんなところで餓死するのか。
何というか悲しすぎる最期だな。
その時、近くの草むらが揺らめいた。
その中から1人の少女が出てきた。
空腹で力が入らないから体を動かせそうにない。
捕まえられて、奴隷商にでも売られたら一巻の終わりだ。
「部隊長!ここに……が…れて……す」
くそっ、意識が……
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食堂までのんびりと歩いていると、頭の中で声がした。
『んー…もう朝〜?まだ眠いよ〜』
(お、起きたのか。まだ食堂に向かってる途中だから、もう少し寝ててもいいぞ)
『は〜い。おやすみ〜』
眠そうな少女の声と頭の中で会話しながら、レオは食堂へと足を運ぶのだった。
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「う…ん…」
ここは…?
どうやら誰かに運び込まれたらしい。
周りを見渡すと、僕が今いるのは大所帯の寝室のようで、二段ベッドが部屋にズラリと均等に並んでいる。そのうちの一つのベッドに僕は寝かされていた。
その時、部屋のドアから誰かが入って来た。
「あ、起きた?体とか大丈夫?目立った外傷はなさそうだったから一応この部屋に運び込んだんだけど」
入って来たのはあの時最後に見た、僕を見つけて何か叫んでいた少女だった。
「君を見つけた時はホントびっくりしたよ〜!国の国境付近の巡回で草むらかき分けて進んでたら君が倒れていたんだからね!」
彼女は少し興奮気味にあの後の事を話してくれた。
倒れた僕を見つけた彼女は近くにいた、部隊長という人に来てもらい許可をもらった後、部隊の兵士達に手伝ってもらってこの兵士の寝室へと連れて来られたということらしい。
なんというか、本当彼女が盗賊とかじゃなくて良かった。
「でも、なんであんなところに倒れてたの?」
少女が不思議そうに僕の顔を覗き込む。
「それは…」
僕が答えようとしたその時、腹が盛大に鳴った。
「そっか!お腹が空いてたんだね!」
少女は原因が分かると、パァ!っと顔を輝かせて立ち上がった。
「一緒に来て!朝ご飯食べさせてあげる!」
「ありがとう。頼むよ」
願ってもない誘いに、空腹で死にそうだった僕は何のためらいもなくついて行くことにした。
ベッドの側に立て掛けてあった僕の愛刀達を背中に収め、部屋を後にした。
部屋を出てずんずん進む彼女に、僕は少しふらつきながら懸命について行った。
「ところで君は…」
「あ、私?私はルミナ!ここで兵士二等組として訓練してるの。兵士二等組っていうのは、まぁ兵士の階級で私はその1番下っ端。俗に言う雑兵ってやつかな」
彼女は振り向くと快活に答えてくれた。
朝日を浴びた鮮やかな栗色の髪がルミナを腰まで覆い、言葉に言い表せないような華やかさがある。
その白い肌には見惚れる男もたくさんいるのだろう。
薄闇色の瞳は見た人間を優しく闇へと堕としてくれそうだ。
ラフな服装のルミナは腰に一本のサーベルを吊っている。
容姿を見る限りではあまり雑兵には見えない。
服装はともかく、その美しさはかの有名なメセトライト帝国の現国主である少女達にも引けは取らないんじゃないかと思う。
実際に国主達を見たことは無いから、ハッキリとは断言出来ないが。
それでも僕が一瞬見入ってしまったことに変わりはなかった。
「僕はルキト。世界を旅してるんだ」
「へぇー!旅人さんなんだ〜!凄いねー!」
ルミナが尊敬の眼差しを向けてくる。
「そんなたいしたことはないよ。今は特に何か目的があるわけではないしね」
「そうなんだ〜。何か目的が見つかるといいね〜」
「そうだね。ところで、ここは一体どこなんだ?見たところ何処かの訓練場に思えるけど…」
「ここ?ここは炎の国の中心部にある城、オルトメア城だよ!」
「僕はそんな所の兵士の寝室で寝てたの?炎の国の民でもなければここの兵士でもないのに良かったのかな…?」
「大丈夫だよ!ちゃんと部隊長に許可はとってあるから!ほら、着いたよ!」
気づくと目の前に大きな両扉が現れていた。
「この扉の先の部屋は、この城の食堂!と〜っても大きいから多分ルキトの分の食事くらい頼めば作ってくれるよ!」
「なんか悪いな…」
「そんなの気にしなくていいの!食堂のおばちゃん達も優しい人ばっかりだし。さ、入ろう!」
ルミナは両扉を盛大に開け放った。
美味そうな匂いが鼻を突いた。
あぁ〜、腹減った…
中はルミナの言うとおり、とてつもなく広かった。
詰め込めば人が千人くらいは入れるんじゃなかろうか。
直径30メートルはありそうな巨大な長テーブルが縦に8列並べられており、兵士達が三々五々に食事をとっていた。
入り口の扉から見て右側に長いカウンターがあり、その奥で給仕のおばさん達が朝食を次々作っては、並んで待っている兵士たちにカウンター越しに配っている。
「朝はみんな決まったメニューなんだけど、夜は幾つかのメニューから好きなのが選べるんだよ〜!」
行列の最後列に並ぶルミナが嬉しそうに話してくれる。
「そうなんだ。ちなみに今日の朝食のメニューは何なの?」
「うーんと、トースト2枚にサラダ、スクランブルエッグとベーコン2枚ってところかな?」
キョロキョロと辺りを見渡して情報収集をするルミナ。
「そっか。美味しそうだね」
「私もお腹すいたよ〜」
なんて会話をしていると、順番が回ってきた。
「はい!どうぞ!おや?見かけない顔だねぇ」
給仕のおばさんがルミナの後ろに並んでいた僕の顔を見て首を傾げた。
てかここにいる全員の顔覚えてるのか?
この食堂だけでもざっと見て500人はいるぞ。
給仕のおばさんの恐るべき記憶力…
「あのね!新人さんってわけじゃないんだけど、国境付近の森で空腹で倒れてたんだ!だから彼の分も朝食あげてね!」
ルミナが快活に説明するが、こっちとしては事情が事情なので恥ずかしいったらありゃしない。
「ちょっ!ルミナ⁉︎声が大きいって!」
「あ、ごめんごめん」
苦笑いしながら謝ってくる。
わけを聞いたおばさんがくすくす笑いながら、僕の分の食事のトレーを渡してくれる。
「面白い子だねぇ!ほれ!兄ちゃんにはスクランブルエッグ、ちょいとサービスしといたよ!いっぱい食べな!」
「ありがとうございます」
僕としてはモゴモゴとお礼を言わざるを得ない。
そしてトレーを受け取ると、横にずれて飲み物を選んだ。
「飲み物はミルクかコーヒーかオレンジジュースだよ。どれにする?」
「じゃあコーヒーをお願い」
「はーい!」
ルミナもコーヒーに決めたようで、2人分のカップにコーヒーを注ぐ。
「はい!」
「ありがとう」
「席探しに行かなきゃね」
「そうだね、行こうか」
テーブルを見て回ると、丁度2人分の席が空いていたのでそこに座った。
「いただきまーす!」
「いただきます」
2人で仲良く食事前の挨拶。
しばらくは黙々と食べ続けた。
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「やっと着いたー。腹減ったぜ全く」
1人呟くと、レオは目の前の両扉をゆっくりと開けた。
「レオ様だ!」
「レオ様、おはようございます!」
「国主様!今日も元気なこって、何よりです!」
食堂にいた兵士達が次々に朝の挨拶をしてくる。
「お前ら飯中に声を張り上げんじゃねえよ。
汚ぇじゃんか」
レオは苦笑すると、配膳の列に並ぶ。
すると並んでいた兵士たちが。
「レオ様!どうぞお先に!」
「どうぞどうぞ!前にお進み下さい!」
皆一様に順番を譲って来た。
さっきの挨拶も然り、この光景も日常茶飯事である。
こんな時、レオはいつも決まってこう応える。
「ダメだ。確かに俺は国主だけど、お前らの並んでいた順番を割ってまで朝飯食おうとはおもわねえ。そこはお前達がずっと並んでいた場所だ。わざわざ俺に譲る必要ねえんだよ」
「有り難きお言葉です!」
「ではお言葉に甘えて、並ばせていただきます!」
結果、変わらず皆元の並んでいた位置に戻る。
レオとしてはこれでいいと思っている。
ハッキリ言ってそこまで自分勝手に振る舞うつもりはない。
ここにいるのはちゃんとした意思を持つ人間だ。
彼の国で扱われているような奴隷ではない。
なら彼らの意思を尊重すべきであると考えている。
レオとしてはいざという時に自分を立ててくれればそれでいいのだ。
そんなことを考えているうちに、順番が来て朝食のトレーを受け取る。
「おばちゃんたち、おはよ〜!いつもありがとな!」
「「「「「国主様!おはようございます!!」」」」」
カウンターの奥から給仕のおばさん達が声を揃えて挨拶してくる。
「国主様。少し量を増やしときましたから、いっぱい食べてもっと強くなって下さいよ!」
「有難くいただくよ」
トレーを受け取ると横にずれ、おばさんの言葉に応えるためにもと、飲むと身長が伸びると言われているミルクをコップいっぱいに注ぐ。
そして、席を探しにテーブルをうろつくのだった。
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誰かが食堂に入って来たので、誰だろうと思い振り向くと、そこには赤髪の青年がいた。歳は17くらいだろうか。
身長は僕より拳一つ分くらい高いくらいだった。
赤髪の青年が食堂に入って来た瞬間、周りの兵士たちは我先にと言わんばかりに朝の挨拶を叫んだ。
「な、なんだッ⁉︎」
「あれはね、この炎の国の国主であり、このオルトメア城の城主でもある、レオ・エスティーア様だよ!レオ様ー!おはようございますー!」
ルミナまでスプーンを振り回し挨拶をするこの有様だ。
だが、今の説明でさっきの状況は理解出来た。
そのレオという人は兵士たちに挨拶を返すと、朝食をとりに列に並んだ。
するとまた異様な光景を見かけた。
レオが並んだ途端、前にいた兵士たちが次々に道を譲っていた。
それだけ人望があるんだろうな。
だからこそ皆あの人にあそこまでのことが出来るんだ。
だが、赤髪の国主はそれを止めさせ、元の列に直させた。
兵士たちの親切をあえて受けないところがまたすごい。
ただ人望があるだけではなく、人柄もいいんだろうな。
そこまで見てから、僕は自分の朝食を食べることに専念し直した。
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レオは朝食を食べ終わると、またいつものように兵士たちを誘うことにした。
席を立ち食堂全体に聞こえるように叫ぶ。
「おーい!誰か今日の朝の訓練に付き合ってくれよ!」
だが、さっきあれほどレオに熱烈だった兵士達も今度は皆しんと静まり返っていた。
どの兵士たちも揃って残念そうな顔をする。
レオの相手をするのが嫌なわけではない。
ただ、自分の実力があまりにもレオに届かないのだ。
皆それを悟っているため、残念そうな表情になるのである。
自分の実力がもっと高ければ。
今そう思っている兵士たちは少なくないだろう。
するとそこへ、立ち上がるものがいた。
「僕でよければ、お相手しますけど」
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「ちょっとルキト!?いくら君でもレオ様の相手になるわけがないじゃない!」
小声で忠告してくるルミナに、僕はニヤリと笑った。
「朝食も食べ終わって、これからどうするかの当ても無かったところだし。食後の運動にはちょうどいいや」
「ルキト、絶対吐くよ…」
「大丈夫だよ」
僕は自分で言うのもなんだけど、かなり強いと自負してる。
正直勝てるとは言い切れないが、惨敗することはまずないだろう。
「お前、名前は?」
そうこうしているうちに、レオさんが話しかけてきた。
あくまでレオさんだ。
別に僕はこの国の民じゃないしね。
「ルキト。ルキト・ハーヴェイン」
「そうか。ルキト、武器を持って中庭に来てくれ。そこで相手をしてもらう」
「分かりました」
それだけ言うと、レオさんは食堂から立ち去った。
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(面白いやつもいたもんだ。俺に勝つ気でいやがる。こりゃあ久々に楽しめそうだな)
ルキトを待つため、中庭に向かうレオであった。
やっと出て来ました主人公。