シード枠との試合
いろいろ忙しくて書き終わるのが遅くなりましたm(_ _)m
視線を交じり合わせる二人。
そこに割って入ったのは、あの初老の審判だった。
「そろそろ次の試合を始めたいのですが、御二方よろしいかな?」
その言葉に二人は我に帰る。
「あ…ああ!頼むよ」
「すまん」
返事が返って来た所で、初老は声高々に告げた。
「これより第2回戦を始めたいと思います!右側の武台にレオ・エスティーア様対ゴルメンタート・ディッセンアレン様の試合を、左側にオーヴェン・ディアスティーロスト様対アレスティン・モルボントラ様の試合を行います」
4人がそれぞれの武台へと足を運ぶ。
「それでは、始めてください!」
試合の火蓋が切って落とされた。
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ゴルメンタート・ディッセンアレンはその大きな身体を持ちながら、実戦では攻撃を仕掛けることはほとんどない。
何故なら、戦闘方法がほぼ全て防御からの反撃に限られるからである。
土の国では、彼に徹底的な防御方法と反撃方法を叩き込むことで、自分には攻撃など必要ないという信条を植え付けた。
以前彼の国で盗賊が大暴れし、ゴルメンタートは部隊を率いて討伐に行った。
約100人の盗賊を前に彼は自軍に向けてこう言い放ったという。
「お前達は一切手を出すな。俺が手傷を負った時、奴らに向けて全軍突撃だ」
副官や部隊の者が彼を止めたが、次の一言で皆一様に説得をやめた。
「お前達を傷つけたくない。攻撃を受ける役など俺1人で十分だ」
とても若き少年の言葉とは思えなかった。
それほど言葉に重みがあったのだ。
それから先は凄まじいものだった。
前からやってくる盗賊達の剣撃を大剣で受け、弾き、斬り返す。
それも一切自分から攻撃せず。
その後、盗賊達は壊滅。
数名が逃げ切ったが、戦意は完全に喪失していた。
戦場での彼を見た者は、その時の彼をこう呼んだ。
【絶対不可侵防壁】と…
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レオは双剣を構えつつ、どういう風に戦うか作戦を立てていた。
(ゴルは攻撃をしてこない分、反撃でしかダメージを与えてこない。絶対防御にどう挑むべきかな…)
戦術としては2つの候補があった。
絶対防御を圧倒的に上回る攻撃力で突破するか、手数で絶対防御にスキを作りそこを狙って攻撃を仕掛けるか。
レオの答えは決まっていた。
(もちろん手数でスキを突く!高い攻撃力の無い今の俺にとってゴルに勝てる唯一の策はそれだけだ)
作戦の大まかな方針が決まった所で、レオは仕掛けることにした。
「じゃ、本気で行くよ?」
「来い」
ゴルメンタートも大剣を中段に構える。
「【炎舞剣技 壱の章 火花 加速】」
すると、レオは双剣の柄で両方のこめかみを殴った。
そうすることにより脳内の一定以上の速度を出そうとすると働く安全マージンが外れ、一時的に限界以上の速度を出すことが出来る。
【神速舞姫】と呼ばれたリリィの奥義には及ばないが、それでもその一歩手前程のスピードは出せる。
レオはゴルメンタートに一瞬で肉薄した。
ゴルメンタートが驚愕の表情を見せるが、焦りはない。
やはりこの程度の速度の攻撃くらいなら防御出来るという余裕があるのだろう。
(その余裕、消し飛ばしてやるよ!)
レオが右手の剣を大剣に向けて叩きつける。
ゴルメンタートがそれを大剣【サンディア・ライズストリーム】で確実に受け止める。
左手の剣をもゴルメンタートへ向けて放つ。
2撃目をも軽々と受け止めるゴルメンタートはやはり余裕があるように見えた。
レオはそこから一瞬で半回転すると、叩きつけた左の剣はそのままに右の剣をゴルメンタートの背中へ放った。
回転時の爆発的な瞬発力を剣に乗せて。
だが、ゴルメンタートの反応も速かった。
受けていた左の剣を斬り払い、一瞬で右の剣を正面に受け止めた。
だが、そこで終わりではなかった。
ゴルメンタートは受け止めた右の剣をすり抜け、レオに斬りつけて来たのだ。
横払いの攻撃をレオは一瞬でバックジャンプし、躱した。
ゴルメンタートの頭上を飛び、背中を捉えた所へ着地と同時に斬りかかる。
しかし、ゴルメンタートは振り返ろうとはせず、背中越しに【サンディア・ライズストリーム】で防御する。
「そんなものか?」
「言ってくれるね…」
レオは猛攻撃を開始した。
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「…そんな……」
王座の前でレオの試合を観ていたリリィは愕然とした。
自分の試合の時と今のレオの動きがあまりにも違い過ぎたからだ。
見たところ、何らかの技を使っているようだが、それにしても自分の時とは剣技のレベルが圧倒的に上がっていた。
「…あれで本気を出してなかったというの…?」
リリィはてっきりあの時のレオは本気だと思っていた。
でも、それは完全に間違いだった。
「お〜!レオすご〜い!やるじゃ〜ん!」
隣で騒いでいるカナはことの重大さが分かっていないようだが、リリィの試合の時は彼女もアレスティンと試合をしていたので、分かっていなくても仕方がなかった。
「…あなたはまだまだ遠い……」
そう言って両手でキュッと胸元を握りしめるリリィには、レオが見えなかった。
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(スキを突くとか考えてたけど、スキなさ過ぎでしょ!どんだけ守り抜くのこの人!)
レオは頭の中で少しパニックに陥っていた。
どれほど素早い攻撃をしても、ゴルメンタートは受け流し、斬り返す。
はっきり言ってスキなど微塵も見られなかった。
慌てていたレオは大剣への攻撃の狙いを少しズラしてしまった。
(しまった!)
右の剣はあっさり弾かれてしまう。
「悪いが場外をもらうぞ」
ゴルメンタートは流れるような動きで大剣を左肩に担ぎ上げる。
「奥義【横振大破壊】」
そのまま渾身の力を込めた横振りの攻撃を放ってきた。
土の国から古く伝わるゴルメンタート唯一の攻撃奥義で、喰らえば確実に50メートルは吹っ飛ぶ。
「クソッ!」
レオは双剣を交差させ、真正面から受けた。
「…ッ!」
だが、一瞬のタメの後レオの体は吹き飛ばされた。
「「レオ!!」」
リリィとカナが同時に叫ぶ。
レオは完全に受け止め切れるとは思っていなかった。
だが、少しでも踏ん張ることで勢いを減らそうと考えていた。
そしてそれは半分成功した。
レオは武台から30センチ離れたところへ落下してきた。
このままでは着地と同時に敗北してしまう。
「これで終わるかよ!」
何を思ったか、双剣を投げつけた。それも2本とも。
2本の双剣はちょうど武台の壁に当たる部分に突き刺さった。
狙いは的確、着地地点に重なって刺さっている。
落ちてきたレオは突き刺さった双剣を蹴りつける。
その威力を利用し、ゴルメンタートに向けて飛び込んだ。
ゴルメンタートの眼前で右手を着き、飛び込み時のエネルギーを右手に一気に集約させる。
その間、体を反転させ両足を目標へ向けた。
「まさかっ!」
「行っけぇぇえええ!!」
決死の咆哮と共にレオは右手で武台を突き放した。
空中キックが大剣を襲う。
「グッ…!」
大剣で必死に受け切ろうとするゴルメンタートだったが、抵抗虚しく弾き飛ばされた。
「よし!」
武台に着地したレオは、ゴルメンタートが飛ばされている間に、相棒の双剣を取りに行った。
武台の壁から双剣を抜き取ると、素早くゴルメンタートへ接近する。
「おりゃああああ!!!」
レオが渾身の力を込めて双剣を振りかざす。
しかし、ゴルメンタートも不安定な体制のまま、その攻撃を受け止めようとする。
双方の剣がぶつかり合う。
やはり、レオの今の力では押し切ることは出来なかった。
徐々に押されて行く双刃をレオにはどうすることもできなかった。
「くそッ…ッ!」
激しい頭痛がレオの頭を襲う。
火花 加速の効果時間の限界がやって来た証拠だ。
「こうなったら!」
双剣の狙いを外し無理やり振り切ると、両の剣を構え直す。
「【炎舞剣技 弐の章 火花 光】!」
レオは双剣をゴルメンタートの目の前で交差させ、思いっきり擦り切った。
その時、瞬間的にかなりの光が双剣から放たれた。
「なっ⁉︎」
ゴルメンタートはまともにその光を見てしまい、目を眩ませる。
そこへ、後ろから双剣が首に合わせて置かれる。
「終わり。俺の勝ちだよゴル」
レオは剣を擦り合わせた時に出来る火花を最大限の力で起こし、ゴルメンタートの視界を奪ったのである。
ゴルメンタートはしばらく黙っていたが、審判でもある初老に問いかける。
「おい、これは加護の力を使ったのではないのか?明らかにかなりの量の光が出ていたぞ」
問いかけられた初老が国王を見上げると。
「いや、お前にも分かっているはずだ。わしの感じる限り、レオは加護の力を使ってはおらん。自力であそこまでの光を放ったのだ」
「…いや、言ってみただけだ。確かにレオは加護の力を使ってはいない。俺の負けだ」
「ではこの試合、レオ・エスティーア様の勝利といたします!」
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武台から降りてきた2人を少女達は暖かく迎えた。
「レオ凄かったよー!」
「…とても素晴らしかった……」
「そう?ありがとう、二人とも」
2人に褒められ、レオも悪い気はしなかった。
少し浮ついていたところへ、両肩にズシリと重みが走った。
見ると、レオに肩を組んできたアレスティンだった。
「おお!アレスも終わったのか!どうだっ…」
「気をつけろレオ。あいつは尋常じゃない」
「え?あいつって…」
「オーヴェンだよ」
振り返ると、そこに武台から冷たくこちらを見下ろすオーヴェンがいた。
よく見ると、アレスティンは体中傷だらけだった。
「アレス!お前ボロボロじゃないか!大丈夫か⁉︎今救急班を呼んで…」
「僕のことはいい。大丈夫だから。それより今はあいつの事を…」
そしてアレスティンは気を失った。
「おい!アレス!おい!」
「レオ様、応急手当てをしますのでアレスティン様をこちらに…」
救急班がアレスティンを運ぶ。
レオがオーヴェンを睨み付けると、彼は今だに冷たい視線をこちらに浴びせていた。
自分の表現力の無さを痛感してきた今日この頃。