006;使命と宿命
この回から語り手が変わっていきます。
アスロになったり、ナレーターになったり、フィオナになったり
フィオナの語りが難しかったので急きょ変更になりました^^
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元王国の王女は静かに魔力を集中させていて、その眼は恐らく朱色に輝いている。彼女の魔法はこの朱色の眼であらゆるものを見透かす、王族の女性に与えられる一子相伝の魔法であり、その精度は凄まじく、瞬時に盗賊団の放つ不穏なオーラを感じとり、見つけ出してしまった。
「見つけたわ。あの山のふもとに盗賊団がいる。」
「何!?お姫様、あんたわかるのか!?」
セウルドは初めて見る魔法に驚きを示していたが、心強い仲間だと感心していた。初めて魔法を披露した姫は、彼の驚きぶりに嬉しさを覚えつつも、それを言葉にできず下手くそな聞こえなかったふりをしていた。
「姫、さすがです。……よし、ギブロアを捕まえに行くぞ!」
アスロは静かに言いながら、ゆっくりとフィオナが示した方角へと歩き出している。ギブロア盗賊団は軽い傾斜の山岳地帯を根城としていて、その付近にたどり着くのには、徒歩では至難の業であるため、根城周辺へ向かうものは馬車で一気に通り過ぎるのが主流となっている。
「おい!まてディンク!馬車を用意できる!!」
彼のおかしな行動に、セウルドが引き止めるべく大声で名を呼ぶと、アスロはついてきていると思っていたのか、突然の声に驚き、あわててこちらを振り返る。当然のごとくセウルドは、馬車を村の者から借り、すぐそこに停車させていた。
「飛んで行ったらすぐにばれるだろう?」
灼熱の化身こと、アスロ・ディンクは炎の翼を操る魔法を取得していて、二人くらいの人数なら高度は下がるが引っ張っていくことが可能である。しかし、空中で燃え盛る灼熱の翼は、警戒心の強い者からすれば格好の警戒対象となるため、隠密性は低い。
「行くなら早くいかない?」
立ち尽くすこの状況を打破するように、フィオナが口を挟んだ。そのもっともな意見に、従順なアスロは素早くこちらのほうへと戻ってきて、セウルドもまた馬車の場所を道案内し始めたのであった。
馬車は単純な作りでできていて、二頭の馬が縄で繋がれている後ろに操縦者が座るスペース(1人分)、続いて荷台が連結されていて、その部分は緑色のシートで覆われていた。操縦席にはもちろんセウルドが乗り、二人は荷台で話すことにした。
電球一個という心細い明かりの中で、アスロは自分がなぜラヴェール王国の姫を旅に連れ出そうとしたかを語り始めた。
「姫、OVER-DRIVEが誕生した話を知っていますか??」
「それって、科学時代の終末に行われた実験のことでしょ??」
世界に『魔法(魔術)』が誕生した時、全ての魔法の『核』とも言える部分がいくつかに別れた。それがOVER-DRIVEである。────俗に言うOVER-DRIVEは、別れた魔法物質が人体に宿り(一般の魔法は空気中に漂っている魔力の結晶が、人間と適合し魔法が発現される)超魔力を生み出した『者』のことを呼ぶが、実際は超魔力物質がOVER-DRIVEである。OVER-DRIVEは何世紀にも渡り存在し続けているが、゛同じ時代には100人もいない"などということしかまだ判明していない。
「その実験で、OVER-DRIVEは誕生しました。それは有名な昔話です。ですが……別れた超魔力物質の中で最も大きなものが、世界のどこかに存在しているのです。魔術士、魔法騎士にならなかったその物体が!!」
〝物体”というワードを強調しながら、アスロは少し声を荒げた。その眼は澄んでいて、見ていると彼の真剣さが伝わってくるようである。
「それをアスロは探しているの??」
「ええ、見つけて破壊しなければいけない。……それが自分の使命であり宿命です。」
車内の暗さが、この場の雰囲気を醸し出していて、彼の重い使命感がドッとこの場の空気を重くしていた。しかし、フィオナはこの空気に臆することなく、話を聞き続けていた。
「それはわかったけど、私をなぜ連れ出したの??」
「その物体は、自らが知性をもち、人格をも有していて、自らに凄まじい魔法を掛けたのです。……『無色透明』という、全てから隠れる魔法を。」
その魔法は、別名《世界最高の隠蔽魔法》と言われ、“認識”がほぼできないために、破壊も利用もすることができない。しかし、五大大国の1つであるラヴェール王国の王妃が宿す、超上級眼力魔法が有効であることをアスロは知った。
「それで、あんな強行な……。」
フィオナは呆れたような口振りで言った。その表情を変えようと思ったのかアスロは、
「姫、着いたみたいですよ。」
と先程から止まっているのにも関わらずこう言った。
「さぁ、盗賊狩りと行こうや。」
セウルドが雰囲気を出すように言いながら、二人の緊張感の無さを問い詰めるように先程フィオナが示した方角を指差した。二人は風が吹き付ける地に降り立ち、セウルドの指先を見つめていた。
「ちゃんと………護ってよね。」
不意にフィオナが、極度に小さな声で呟いていた。─────言った……と言うよりかは考えていた言葉が《漏れた》と言う感じである。彼女は言葉に発したことに気づいていない。
「勿論ですよ、フィオナ姫。」
これもまた、極度に小さな声でアスロも微笑みながら呟いた。
「え? アスロ何か言った?」
自分が呟いたことに気づいていない彼女は、音がしたことに反応し、アスロに尋ねた。
「い、いえ。別に何もありません。」
彼の頬は僅かに紅潮していて、どぎまぎしながらフィオナとは逆方向を向く。そしてそのままセウルドの方へ数歩進むと、
「何か作戦はあるのか…?」
きっちりと話を変えるように尋ねた。フィオナの話をスル―してセウルドのほうへと歩いていき、聞き入った。
「まぁ、あるっちゃあるな。」
セウルドは、二人の顔を順番に見ると作戦……と言うより行程のようなものを伝えた。
「いいか? まずここから約1km離れた奴等のアジトへ向かう。ディンク、アンタは雑魚を一掃してくれ。姫はそのサポートでセットだな。……頭のギブロアはオレに任せてもらおう。」
しっかりと着込まねば身体を冷やすほどの風が襲いかかるなか、セウルドは静かに言った。
彼は言ったこと以外にも、何か考えているようだった。
「姫、心配はないと思います。自分も雑魚を片付けたらアイツに加勢するんで。」
風に栗色の髪をなびかせながら、考え込んでいるような表情のフィオナを見たアスロは、安心させるようにそう言った。頭のギブロアの強さが得体の知れない以上、セウルドが勝てるのかがフィオナにとっては不安であった。
「姫、障壁魔法は使えますか??」
「一応修得しているわ。」
「まぁそれなら心配ありませんね。自分が全力で護ります。」
今のフィオナにとって、アスロの「絶対的な護る力」が一番の頼りだった。王国内部で騎士たちを圧倒した姿や、森林都市で歴戦の強者であるセウルドにも引けをとらなかったことがそう物語っている。
三人は盗賊団の根城へと北上していき、次第に不穏な雰囲気に包まれていく。……犯罪者の魔力は、このような周囲の空気の質を変化させていくのも秘めていて、上位の魔法を扱う魔法騎士ならば、それを探知することが可能である。三人が足を進めていると、かすかに雪があるこの山岳地帯に一際目立つ小屋が見えてきた。小屋そのものは対して普通の木造小屋であるが、その周辺は掘られたような跡があり、地下に空間が広がっていると推測できる広さである。
「あの辺りかなり怪しいぞ。不穏なオーラも感じるしな。」
「うん、小屋に見張りが二人、地下に十数人いるわ。」
朱色の眼を発動させながらフィオナが言ったとき、セウルドの拳がグッと握りしめられたのをアスロは見ていた。
その力の入りようを、彼はしばらく覚えていた。