002;黒き刀
登場人物や魔法の説明はいずれ「設定」という形で投稿させていただきます。
今は大体で読んでいってくださいw
アスロが放った言葉により、フィオナは驚いていた。彼女は立ち上がると、姫らしく、見事な立ち振る舞いでこういった。
「……な、何言ってんの…?」
アスロはしばらく黙っていたが、フィオナの真剣なその瞳を前に、なぜか吹きだした。司書室に大きくあいた穴から風が強く吹き付ける。
「………姫様、こんなところでは話もできません。外へ出ましょう!さぁ早く!」
フィオナは自分の話を聞いているのかわからないまま、アスロに手を引っ張られ、外へ出た。彼女にとって王の許可を取らずに外へ出たのは、生まれて初めてであった。昨日の晩だって、ただ帰らなかっただけだったのだ。外へ出ると、風が一層強く吹き付けた。だが、それも一瞬。アスロがフィオナの前に、立ち風よけとなっていた。
────え?何この展開!?全く話が見えないんですけど!!
司書室は二階に位置しており、慰安は屋根の上に二人はたっている。その真下には街の大通りが通っていて、爆音を聞きつけたのか市民の姿が多く見られた。
「あなたって、何者なの?」
「……自分は、東の帝国からやってまいりました。すべては姫様をお守りするためです。しかし、すべてを話すには、あまりにも長すぎます。少しずつ話していきましょう。」
アスロは、城の屋根を歩きながらゆっくりと話した。城の下では、駆け付けた国防騎士が彼らに剣を向けている。
簡単に言えば、囲まれた……というわけだ。
「……灼熱の化身!!姫様を離せ!!!」
数名の騎士たちが、叫びながら城によじ登ってくる。アスロは肩をぐるりと回すと、フィオナに言った、
「……姫様、少し離れていてください。できればこの国の騎士は傷つけたくないですが、仕方がありません。」
アスロは騎士たちのいる下まで一気に飛び降りた。しゃがみ込むような姿勢になり着地する。
─────10m以上あるんじゃないの……?
フィオナは言われた意味が分からなかったので、アスロをずっと見ていた。目前にいる騎士の数、およそ100人近く。並の魔法騎士では倒せるはずない。しかしフィオナは知っていた、アスロがOVER-DRIVEであることを。だが、その強さまでは知らない。
「──────我が身に眠る翼竜の力よその火の意思を翼として姿現せ――――OVER-DRIVE!!!!!!」
アスロが呪文のような言葉を唱えると、彼の背から竜の翼が現れた。彼の周りに光の輪が展開され、その右腕に日本刀のようなものが握られた。すると、翼が発火し、灼熱に包まれていく。これが、昨晩街の上空に現れた、灼熱の球の翼を広げた姿。
「なんだその刀は?」
しかし、騎士たちは口々にこう発した。アスロの持つ刀には、刃がついていなかった。刃というのは、簡単に言えば切れる部分である。アスロの刀の刀身は漆黒の色をしていて、銀には輝いていない。
「俺の刀?…そうさ刃はついていない。この刀は、俺の灼熱で【焼き斬る】刀さ」
黒き刀をアスロは指でなぞっていく。
「見せてみろよ、日々鍛え上げられた国防騎士の強さを!」
アスロはフィオナ以外には敬語を使わないらしい。黒き刀を向けて、騎士たちに挑発した。
「…なめやがって!!やってしまえ!!」
騎士たちが一斉に切りかかった。この世界の魔法は、誰しも扱えるものではない。ふとした時に覚醒したり、学んで覚えたり、高度な魔法は厳しい修行を積まなければならない。覚醒する確率は1千万分の1以下であり、学ぶためには学ぶ魔法相応の費用が掛かってしまう。貧しい家出身で腕っぷしだけが取り柄のものが多い騎士たちは、力や速さを上昇させる身体強化の簡単な魔法しか会得していない。
アスロは攻撃をかわすのではなく、その大きな灼熱の翼で振り払った。そして、黒き刀に灼熱をまとわせて切りかかった。手当たり次第に騎士を焼き切っていくその姿はどう見ても、魔法…という枠から一つ外れていた。
「……こんな簡単に……この国の騎士が」
フィオナが呟く。だが誰一人として、死んではいなかった。刃がついていない以上、出血させることはできない。
ではなぜ倒れていくのか、それは、常人はOVER-DRIVEの膨大な魔力に触れるだけで、気絶してしまう。たとえそれが騎士であろうと、刀で攻撃を受ければ魔力に押し負けて気絶してしまうのだ。もっとも、本物の魔法騎士にはこの小細工は通用しないが。
「道を開けろ!!」
アスロが刀を振り上げ、力を込めた。灼熱がアスロを包み込む。あたり一帯の温度が急上昇したかのような感覚に襲われ、騎士たちの動きが鈍る。刀に渦巻くように炎がまとわれると、アスロはそれを残りの騎士たちに渾身の力で振り下げ、業火の渦を喰らわせるのだった。
「………火炎刀:黒渦!!!」
アスロがそう言うと、騎士たちを渦巻いたアスロの炎が黒く変色し、いっそう強まった。黒い業火は、騎士たちに膨大なダメージを与え倒すとともに、通り道からはねのける働きもした。
「………ま、魔力が」
黒い業火は、騎士たちの魔力を削りきった。魔力を喰らう貪欲な黒き灼熱。獲物を殺すまで、離さない肉食獣のような感じであるが、アスロは魔法の威力を抑えているので死ぬことはない。人体の魔力が「空」となると、自然の魔力を取り込むまで回復せず、まともに動くことすらできない。黒き業火は、そのような状態になると消えるようになっていた。
「……さあ、姫様、こちらへ!急ぎましょう!!」
翼で空に浮かび、フィオナを地上に下ろす。そして手を引き路地を進んでいく。彼女は黙ってついていく理由は一つ。外の世界にあこがれていたからだ。
――――――この男の子となら出られるかな……いや、あいつがいる限り無理かも……。
路地には市民の姿はない。騎士たちによって屋内に避難させられているのであろうか。
そして二人の前に、一人の男が立つ。
右手に握られた銀色に輝く太刀、腰に差した防御用の紫色の短刀、小さな戦場と化したこの広場に吹く風になびくきれいな白髪。この大都市アストラルで最強と恐れられる国防騎士の長。若き天才騎士、ルーウェン・エルフリートが姿を現した。
騎士たちは甲冑に身を包んでいたが、隊長のルーウェンは軍服しか着ていなかった。おそらく速さに特化した戦いなのか、それとも隊長は甲冑を着ないのか。アスロはこう推測を立てていた。
ルーウェンは右手に握られたその太刀を、渾身の力を込めて振るった。アスロが反射的に振るった黒刀とぶつかり火花が散る。わずかにタイミングがずれ、押し負けるようにアスロは大きく後方に引き下がる。着地した先は元いた場所より3mほど左であり、ここでアスロは気づいた。先ほどまでいたフィオナがいない。
アスロが回避している時、ルーウェンはフィオナを奪い去った。アスロを押しきると、呆然と見つめていたフィオナのもとへ着地し抱きかかえ、安全な後ろへ避難させたのだ。
「……逆賊風情が我が国の姫に触れるなど……叩き斬ってくれる!!」
アスロはブちぎれた。
――――――逆賊? ふざけんな!! 俺は………
「上等だ。お前に騎士を超えた俺の力を見せてやるよ。……そして俺は逆賊なんかじゃねぇ!!」
アスロはそう言い放つと、黒刀の剣先を静かにルーウェンに向けた。