001;灼熱の化身
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ここは魔術が発達した世界。大国と評されるほどの規模を持つ一大王国ラヴェール王国。その首都アストラルの街に隠れる少女の視点から物語は始まる。小柄なその少女は長い栗色の髪を降ろし、比較的動きやすそうなドレスを着ているので目立つが、暗がりに息をひそめていた。
――――――熱い。
息をひそめながら私はふと思った。それは大都市アストラルの夜、夜空に爆炎が浮かんだからだ。静かな夜だったのに、街は少しざわついている。正しくは火の球だけど、爆炎と例えるしかないような、今まで感じたことがないほどの魔力を感じた。
「警備隊!!市民を非難させろ!!異常事態だ!!」
軍服を着た騎士が走りながらメガホンで叫んでいる。魔術が広まった世界でも体内にしか魔力はないため、こういった科学時代の器機は存在している。私は騎士から身を隠すために民家の陰に隠れた。見つかったら、きっと家に帰されてしまうだろう。何せ今は異常事態だ。それでも、私は最後までここにいたい。こんな機会、一生にもうあるかわからないからだ。
「……おい!!、火の玉が動き出したぞ!!」
夜空に浮かぶ爆炎は、音もなく形態を変えた。巨大な火の玉の形から、大きく翼を開いた鳥のように変わったのだ。高台にいる騎士たちは重火器を構え、下で備えている騎士たちは防御魔術を展開しようと集中していた。だが、その警備は無駄に終わろうとしていた。はるか遠くへ消えようとしていたのだ。騎士たちはそれを見て安堵の表情を見せていた。しかし、消えてしまっては減少の正体はつかめない。仮にあの爆炎の中に人間が潜んでいたとしても、この空の暗さでは見えるのかどうか。
私はじっと目を凝らす。何を隠そう、私はこの眼に魔術を宿している。生まれながらに使える魔術で、何か隠れているのなら、容易に見つけだすことが出来るのだ。
目を凝らしもうかなり小さく見える爆炎を見て、私は驚いた。その姿は、翼をはやした少年だったからだ。それも炎の翼をはやしていた。おそらく魔術の類だろう。炎の翼、どこかで聞いたような見たような。
「……確かめないと!!!
……あ。」
興奮して、声を上げてしまった。昔から私は興奮すると状況を忘れて行動してしまう。当然のごとく私は騎士に捕まり、家へと帰された。アストラルの騎士たちはそんな甘くはなかったのだ。
「……姫様。今後このような行動は慎んでください。あなたは国王の愛娘、フィオナ姫なのです。」
私は自分の家……つまり城へと帰された。自慢話ではない。
ラヴェール王国の歴史は長い。建国以来王家の血筋が耐えることはなく、シュタイン家と呼ばれる貴族が王を務めている。そして私はシュタイン家の長女として生まれたのだ。兄も弟もおらず、このままでは当主を継ぐ羽目になってしまう。
勿論の事、姫は自由に外出できない。どこぞの桃の姫だってさらわれないと外には出ない。私もそれはわかっているつもりなのだが、気になることがあるとつい確かめたくなる。今回もそのような感じだ。六度目になろうか。
「姫様!!聞いておられるんですか!?」
――――――あぁもう、うるさいなぁ。
私は思いっきり目の前に立つ男を睨んだ。彼は怯むこともなく注意する姿勢を崩さない。この見るからに美青年といった男は、私の警護を任されている国防騎士隊長のルーウェン。スラリとした長身で、濃い緑の髪をしている。本人いわく地毛らしい。この若さで国防騎士隊長なのだからとても腕はたつだろう。ただ、私の父……つまり王の直命なので気合が入っているのかは分からないが、過剰に私に話しかけてくる。お前は思春期の娘に対する父親か。と言いたくなるのをこらえる。
「聞いてるわ。もうしばらくは出ないでしょう。今日はもう戻ってくれていいわ」
軽く返事をして、私は部屋に入る。ドアの外で、ずっと警護騎士は立っているらしいが、人を使うということが慣れていない私にはこれが耐えられないので、私直属の部下には椅子を与えている。だが今回は一人で考えたい。彼は私が寝る気配を見せると自分の部屋へと戻っていくのだが、今日はもう戻らせることにした。
「何かあればおよびください」
騎士の言葉を無視して、ぼんやりと、窓の外を見つめる。一つ気がかりなことがあった。
明日、司書室に行って、ゴルス爺にもう一度話を聞いてみよう。ゴルス爺というのは、白いひげが特徴的なこの城の司書長で、私の城での唯一の話し相手でもある。ゴルス爺はその豊富な知識から国の議会にも参加していて私も色々なことを聞いたりしている。
私は、知りたかった、孤高の存在と言われる「OverDrive」のことを。
朝
目が覚めた。
どんなに早く起きようとも、ルーウェンの起床の早さにはかなわない。さすがは、騎士隊長なのだが、すこし腹立たしい。そんなルーウェンを無視して抜け出し、早速司書室へ足を運ぶ。司書室のドアを開けると、老人が書物を読みふけっていた。
「……これはこれは、姫様。お久しぶりです」
「突然だけど、聞きたい話があるの」
そう切り出すと、爺はおもむろに話し出した。用件を伝えずとも、彼は理解していたのだ。妙な静けさが、この場の雰囲気を一身に物語っている。
「……やはり姫様は見ていたのですね。昨日の晩、アストラル上空に現れた灼熱の球を。姫様の事ですから、その正体が巷で騒がれているOverDriveだとお思いなのでは?」
爺の洞察色歯凄まじい。いや、私のことをよく知っているという事だろうか。やはり爺は知っていたのか。と、心の底の探究心が喜びの声を上げた。
「……ええ、灼熱の球の中で少年を見たわ」
「……そうでしょうな。では、手始めにOverDriveのことを簡単にご説明いたしましょう。OverDriveはとある大惨事によって誕生してしまった、超魔力保有者と伝えられています。言い伝えによれば、彼らは科学時代の最後の兵器と呼ばれ、その魔力は、大陸をも沈めれるといわれているのです。」
爺は少し息を吸い、続けた。
おそらく、ここからが重要なのだろう。
「……彼らは、その力故、様々な大国から狙われています。この地、アストラルを首都とするラヴェール王国もまた、灼熱の化身アスロ・ディンクを狙っています」
「アスロ・ディンク?」
それがあの少年の名前だろうか。
私は気づけば身を乗り出して聞いていた。窓の外で風が笑っているように吹いたので、私は姿勢を正した。
「申し上げるのを忘れていました。それが昨晩の灼熱の球の正体です」
「……灼熱の化身、アスロ・ディンク……。」
私が少し考え込むと、奇妙な空気が感じられた。外で警備している国防騎士たちが騒がしいのだ。この静かな雰囲気を台無しにするような、騒ぎ声。何かあったのだろうか。
「……何の騒ぎ…?」
そう呟いた次の瞬間、司書室の壁が木端微塵に壊され、熱風が私を覆った。突然の出来事に、私は驚きすらしない。危機なのかそうでないのかも分かっていなかった。
顔をあげると、何とか回避していた爺の隣のがれきの山でゆらゆらと何かが揺らめいている。その姿はまさしく、灼熱の化身と呼ぶにふさわしい姿だった。そして炎が消え、少年が現れた。
灼熱の化身アスロと見られる少年は、司書室のがれきの上に立ち私を見つけると、腰を低くして頭を下げた。黒と赤を混ぜたような髪は肩までには達していないが男としては少し長いほうだろう。見た目だけで言えば真面目そうな好青年で、こんな荒業をするようには見えない。しかし、どこか秘めた闘志を感じさせる。なぜそんな姿勢にするのかは、全くわからなかった。OverDriveのことを、逆賊と勘違いしていたのかもしれない。しかし、たった一言で、私の考えは変わったのだ。
「……探しました、フィオナ姫。さあ、私と一緒に旅立ちましょう」
少しいびつな敬語で、こう声をかけてきたのだった。
って………え!?