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Over Drive...  作者: KeiTa
Story 1 灼熱の飛竜編
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008;黒と橙

アスロは、薪が嫌いなみたいです。

 アスロは静かにアジトが地下にある小屋へと歩みより、扉を蹴りで破壊した。ドガッと音が響き、中で見張りをしていた二人の盗賊が立ち上がる。小屋の内部には目立った装飾はなく、奥に見える地下へと続く階段はしんと張りつめた空気が漂うようだった。


「誰だ!」


 盗賊の一人がそう叫びながら短刀を構える。低い姿勢から突き上げを繰り出した。アスロはこれを右にひょいとかわし、相手のバランスが崩れたわずかな瞬間を狙って腕をつかみ投げる。……地面にたたきつけられた男が立ち上がる前に、もう一人の男にアスロは蹴りをぶち込む。クリーンヒットはしなかったが、またもやバランスを崩すのにはちょうどいい威力であった。軽くジャンプし首に強烈な一撃を叩き込むと、立ち上がろうとしている男の背に踵落としをぶち込んだ。二人は戦闘不能となり崩れ去る。


 魔法を使っていないのであまり大きな音はしなかった。あくまでも隠密起動を心がけ、静かに階段を下っていく。曲がれば地下一階のフロアとなったところで、アスロは息をひそめ、物音ひとつ発てないように部屋の様子をうかがった。

 アジト地下一階には人質はおらず、身体が細く下っ端のような男が三人。そしてその三人の上司?おそらく幹部クラスのそれなりの実力を持っていそうな屈強な男が座って話し込んでいた。部屋の奥には、今度は防音仕様の鉄の扉が備え付けられていて、その扉の向こうに人質はいるのでは?とアスロは睨んだ。


 ここで彼の脳裏には二択が浮かぶ。一つはこのまま突撃してなるべく迅速に蹴散らす。しかしこれにはデメリットがある。それはもしこの下の階が最深部ならば、物音を聞きつけて人質を盾に取られるかもしれないということだ。もう一つは、隙を見て部屋内部に忍び込み、一人ずつ確実に仕留めていく。これは音が出ないが、かなりの難度だ。アスロは苦渋の決断の末、前者を選ぶことにした。彼は隠密が苦手だったのだ。


 息を整え、アスロは飛び出し、下っ端と見られる男の背に、鋭い蹴りを放つ。男は虚を突かれ気を失ったのかドンッと倒れた。それを見ていた三人の男のうち、幹部クラスの男が声を荒げた。


「侵入者だ!叩き潰せ!」


 幹部の男は背に担いでいた大剣を取り出し、引き抜いた。下っ端二人も、短刀やら片手剣やら装備している。騎士風の防具はつけておらず、盗賊だけにスピード重視の装備。

 幹部クラスの男は隙のない構えから大剣を振りかぶり、アスロに突進する。大剣は能力付加系の魔法をまとったらしく、青色の光が迸った。


「ラアッ!!」


 能力付加系の魔法は、力のあるものがよく使う魔法で、習得条件も肉体的に過酷な試練である。その名の通り使用者が振るう武器に、決められた属性の力を追加する……というものである。この男が使用したのは「青光の追加(ブルー・プラス)」またも文字通り青色の光をまとい水属性と閃光属性の力を追加する中級スペルである。

 ガァンッと激しい音と共に、アスロは黒刀で受け止めた。飛散した光の追加効果で少量のダメージを負っている。アスロはパワーに押され。後方に1mほど引き下がる。大剣の追撃をかわせるようにだ。


「久々の戦闘だ、火加減はないぞ」

 そう宣言すると、淡い豪火の翼を広げ、黒刀で斬りかかる。幹部の男が再び構えている大剣の右側に素早く回り、一瞬視界に潜り込む。そして、横から一直線に一閃を放ち、かろうじて大剣で防がれる。黒刀の切っ先が男の肩に触れ、血飛沫がアスロに付着する。彼はこれを読んでいたかのようにニヤリと笑うと、翼で火炎の波を放つ。


「火炎刀:獣突(じゅうとつ)!!」

 アスロが静かにそう唱えると、彼の黒刀から黒い爆炎が、その燃え盛っている翼からはオレンジに輝く灼熱が放出され、アスロを包み込むと、勢いよく彼は男に突進した。

 「火炎刀」は彼の魔法の主な魔法剣技であり、剣技を放つときの姿勢のよって名前が変わる。それは、その姿勢で放てる最も有効な攻撃ということである。「獣突」は、獣が後方に一度下がり、その反動で地面を蹴り加速した突進を放つ。というのをかたどっていて、直撃すれば計り知れないダメージとなるが、距離が離れれば離れるほど攻撃力(加速力)が増し、それと相対するように命中率が低下するので使いどころが珍しい。



「畜生!」


 幹部の男は回避の姿勢をとったが、黒と(オレンジ)の灼熱は向かうものを威圧するように混ざりあっていて、男は判断を遅らせ直撃した。大剣は金属音を響かせながら後方へ吹き飛んでいく。


「安心しろ、火傷はしねぇよ。多分な」


 幹部の男が倒されて驚いているのか、軽く硬直している下っ端を素早い体術でノックアウトし、アスロは扉のほうへと駆け寄る。

 アスロの使う「火炎刀」は灼熱の飛竜バーニング・ワイバーンに宿る十七の剣技である。その一つ一つが必殺技に等しい威力を誇るが、いずれも使いどころが難しい。


 ─────もうバレてしまったな。

 アスロはそう思っていたが、扉を目の前にしてあることを思い出す。それは、最初にこの部屋を影から伺った時に思ったことと同じだ。先ほどとは違い、眼前にたたずむこの扉は防音仕様(・・・・)であることを思い出した。

 彼の心の中での二択が無意味だったのはともかく、彼は扉を開けた。重く冷たい扉の先には、先ほどよりも更に広い鉄の部屋が広がっていた。寒さが襲うと思われたが、部屋の側面の壁には大きな暖炉がそれぞれ備え付けられており、今までの部屋と同じく、暖かい部屋であった。

 部屋の奥に、上等な椅子が置いてあり、男が一人静かに座っている。そのほかには数多の略奪で得たであろう金銀財宝がコレクションのように壁に吊るされていた。端には巨大な金庫もある。男の周りだけに敷かれているカーペットが敷かれていない部分は、鏡のようにモノを映す黒い床が剥き出しになっていた。


「よう、人質は隠し部屋だ。安心しろよ。どいつもこいつも一人で現れやがって。何をたくらんでるのやら」


 嘲笑いながら、アスロの数メートル先にどっかりと座る細身の男。長い黒髪に紫のバンダナとは相対した、白い服を身に纏い、首からは黄金のネックレス、腕、指、耳にも黄金のアクセサリーが輝きを放っている。

 男の名は─────盗賊王ギブロア・ブレーチス


 パチパチと燃える薪の音が、静かな鉄の部屋に広がっていた。





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