町の平穏を願う踊り子でしたが、舞っているところを見られたために婚約破棄されてしまいました……。
「ああーっ、はい! はい! ははいのはい! はい!」
町の平穏を願う踊り子であった私ティリアは、代々伝わる舞いを家の庭で練習していたところ、婚約者ディオルにその様子を見られてしまった。
「お前……何だその変な踊りは」
「この町に伝わる舞いです」
「いつだったか言っていたやつか」
「はい」
舞いについての話は以前したことがある。一応彼もそれは覚えてくれていたようだ。そういうことなら安心、と、一瞬は思ったのだけれど。ただ、思ったより冷たい目をされてしまっていて。
「……お前との婚約は破棄とする」
そんなことを告げられてしまった。
「えっ……」
「そんな変な踊りを真面目にやっている女とは結婚できない」
「どうして急に」
「面倒臭い女だな。黙って受け入れろよ。そんな変な踊りをするやつと生涯を共にするなんて無理、当然のことだろう」
ディオルはこれまで見たことがないくらい冷ややかな面持ちだった。
「ま、元より、お前はくだらない女だと思っていたんだ。顔は並、体型も並、知能も並、おしゃれさや笑いのセンスは並以下……こんな女でいいのかずっと迷っていた。それでも付き合ってきてやったんだ、そのことには感謝してくれよ」
彼は棘のある言葉を吐き出してくる。
「だがもう我慢の限界だ」
「本気で仰っているのですか?」
「当たり前だろう、こんなことを冗談で言うなどあり得ない」
「そう、ですよね……」
「もう少しまともな女かと思っていたが、残念だ」
……まともじゃない、そう言いたいの?
どうして。それはおかしい。だって、私はおかしなことはしていない。私はただ舞っていただけ。それも人々のためだったのに。それなのに私が変な女扱いされなければならないなんて理不尽過ぎる。伝統ある舞いをそんな風に言われることも不快だし、まともでない女だと言われることも非常に辛い。
「ではな。さらばだ」
こうして私たちの関係は終わりを迎えたのだった。
◆
「ああーっ、はい! はい! ははいのはい! ひゅうっ! ははいのはい! はい! ははいのはいはい、はははいはい! ひゅうっ! わしょしょいのしょい! ひゅっ!」
婚約破棄された私は舞いに人生を懸けることにした。
その結果国から文化の担い手として認定されて。
現在は舞って町の平穏を祈りつつその文化を外へも伝えていくという仕事に取り組んでいる。
後の代の踊り子が私のような思いをしなくて済むように、舞いという文化を多くの人に知っておいてほしい――その一心で活動している。
「ティリアさんの踊り、すごい綺麗だなぁ」
「そうですわね~」
「動作一つ一つが魅力的ですね」
「すっごいぞぉ! かっこいいぞぉ! わっしょいわっしょい!」
舞いは私そのもの。だから評価されるととても嬉しい。顔が良い、とか、体型が良い、とか言われるよりも、舞いを褒められる方がずっと嬉しいことだ。
◆
ディオルに婚約破棄された日からちょうど六年となった昨日、結婚式を挙げた。
町の人たちに囲まれての祝福の瞬間。
それはとても温かく愛おしい時間だった。
夫となってくれた人ロウはとても善良な人だ。そして私の舞いへの理解もある。彼はディオルのように舞いを見下したり悪く言ったりすることはない。だからこそ、ロウといる時には私のままの私でいられるし、変に気を遣わなくてはならないこともない。ありのままでいられる、ということが何よりも偉大なことなのだと、彼に出会って知った。
「明後日は舞いの奉納の日だったね」
「ええ」
「頑張って! 応援してるから」
「ありがとう」
どんな時も寄り添ってくれるロウには感謝している。
「あのね……言わせて、今ここで。ロウ、私を選んでくれて……本当にありがとう」
私は私のままで生きていく。
舞いを護り。
舞いを広め。
そうやって生きていければいいなと強く思っている。
ちなみにディオルはというと、私との婚約を破棄した数日後に命を落とした。
聞いた噂によれば、彼は山の祠の近くを散歩していて何を思ったか突然祠を壊す遊びを始めたそうで、その結果そこに封印されていた恐ろしい魔の物に襲われ落命したそうである。
彼の亡骸には、天罰、という文字が刻まれていたそうだ。
……まぁ、余計なことをすればそうなってもおかしくはない。
祠なんて何がそこにいるのか分からないのに、それを深く考えずに破壊したのだから、痛い目に遭おうが命を落とそうがある意味自業自得だろう。
死にたくないなら余計なことはしないことだ。
◆
「ああーっ、はい! はい! ははいのはい! はい!」
私は今日も舞う。
「はいっとはい! はい! ははい! はいーっと、はい、はい、ははいのはい! ひゅぅっ! へいへいへいはいははいのはい! はぁーっい! ああーっ、と、はいはいはい! わっ、しょい! はいはい! はいっ! ああーっ、はい! はああーっ、い、はい! はい! はい!」
命尽きる日まで、踊り続ける。
◆終わり◆




