表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/137

第43話 そして三回戦へ…

 二回戦を制した東鶴間高校。


 その勝利は、

 高橋雪夜のスリーランホームランによって決まった。


 そして、その報せは――

 遠く離れた場所にいる、佐藤秋一郎の耳にも届いていた。


「……さすがだよ、雪夜」


 佐藤は、誰に聞かせるでもなく呟く。


「やっぱり、僕が認めた選手だ」


 その日は、理由もなく気分が良かった。


 練習中も、自然と口元が緩む。


 そんな佐藤の様子を、東栄高校野球部の面々は不思議そうに見ていた。


(佐藤のやつ……やけにご機嫌だな)

(……なんか、逆に薄気味悪くないか?)


 だが、理由を知る者はいない。


 佐藤秋一郎だけが、静かにその勝利を噛み締めていた。


 一方、東鶴間高校。


 二回戦を勝ち抜いた余韻は、

 翌日になっても、まだ部室に残っていた。


 無理もない。


 一回戦突破すら夢物語だったチームが、

 二回戦まで勝ち進んだのだ。


 特に、二年生と三年生の喜びようは、目に見えていた。


「……大丈夫か、この野球部」


 高柳龍二郎が、呆れたように呟く。


「仕方ないよ」


 高橋雪夜は、苦笑しながら答えた。


「二回戦まで勝てたんだ。

 浮かれるなって方が、無理だよ」


「まあ……それもそうか」


 高柳は肩をすくめる。


 だが、雪夜は少しだけ表情を引き締めた。


「でもさ。

 三回戦は、もう甘くないと思う」


「……だよな」


「ここからが、本当の勝負だよ」


 高柳は、小さく頷いた。


 そして案の定――

 浮かれた空気は、長くは続かなかった。


「お前たち……」


 部室に響いた、低い声。


 振り向くと、そこに立っていたのは監督の九条咲だった。


「いい気になるな」


 一喝。


 その一言で、部室の空気が一変する。


 野球部の面々は、背筋を伸ばした。


 そして、数日後に知らされる。


 三回戦の相手。


 ――昨年、県大会ベスト8の東林高校。


 歓喜は、緊張へと変わる。


 東鶴間野球部にとって、

 本当の試練は、ここから始まろうとしていた。


 二回戦を終えて、数日後。


 三回戦の相手が決まったという知らせは、

 東鶴間野球部に、重くのしかかった。


 ――昨年、県大会ベスト8。東林高校。


 部室の空気は、目に見えて沈んでいた。


 特に二年生と三年生の落ち込みようは、深刻だった。


(もう……無理だ)

(ここまで来ただけでも、出来すぎだろ)


 誰もが、口には出さずとも、同じことを考えていた。


「なんか……すごい落差だな。先輩たち」


 高柳龍二郎が、ぽつりと呟く。


「仕方ないよ」


 高橋雪夜は、静かに答えた。


「相手は、去年のベスト8だよ。

 そう簡単に前向きになれないさ」


「まあ……そうなるか」


 高柳は、それ以上何も言わなかった。


 その時だった。


「……ついに、時は来た」


 低く、しかしはっきりとした声。


 振り向くと、九条咲が立っていた。


「それだけだ」


 短い言葉のあと、監督は前に出る。


「三回戦。スタメンを発表する」


 部室が、一瞬で静まり返った。


「一番、セカンド――高柳龍二郎」


 高柳は、思わず背筋を伸ばす。


「二番、キャッチャー――高橋雪夜」


 ――ざわり。


 その名前が呼ばれた瞬間、部室に小さなどよめきが走った。


 捕手・高橋雪夜。


 それは、誰もが一度は思い描き、

 だが現実的ではないと、心の奥にしまい込んでいた配置だった。


「三番、センター――新井元気」


 雪夜は、静かに呼吸を整える。


「四番、ピッチャー――天宮真十郎」


 次の瞬間。


 今度は、はっきりとした歓声が上がった。


「おお……」

「来た……!」


 天宮は、驚きと覚悟が入り混じった表情で前を見つめていた。


「五番、ライト――渡辺貴明」

「六番、レフト――中田大」

「七番、サード――進藤竜也」

「八番、ファースト――中山太郎」

「九番、ショート――六条遊人」


 すべてを読み終えた九条は、はっきりと言い切った。


「これが――東鶴間野球部の、ベストメンバーだ」


 部室の空気が、少しだけ変わる。


 沈んでいた心に、確かな“熱”が灯った。


「天宮」


 九条が、まっすぐに視線を向ける。


「この試合、投げてもらうぞ」


「……はい」


 天宮は、力強く答えた。


「捕手は――高橋」


 九条は、迷いなく続ける。


「お前が捕れ」


「……はいっ!」


 雪夜は、思わず声を張り上げていた。


 胸の奥が、熱くなる。


 あの日――

 佐藤秋一郎の球を捕った感触が、よみがえっていた。


 こうして。


 万年一回戦負けの東鶴間高校は、

 最強の布陣で、三回戦に挑むことになった。


 本当の勝負は、

 ここから始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ