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ショーケースの向こう側  作者: 脇汗ルージュ
9/14

苺ショート

午後七時を少し回ったころ。

そろそろショーケースの中も寂しくなってきて、菫はホイップを絞る手を止めた。


そのとき——カラン、と控えめにドアベルが鳴る。


「……いらっしゃいませ」


言うまでもなく、誰か分かっていた。

火曜日のこの時間に、必ず現れるあの人。

スーツ姿の、静かな甘党さん——「ケーキの人」。


「こんばんは」


低くて優しい声。

彼の視線が、ショーケースに向けられる。そこには、ケーキが……ひとつ。


「今日は……苺ショートとだけが、ひとつ残ってます。よかったら」


少し照れながら、菫は言う。

「最後のひとつ」って、ちょっと恥ずかしい。でも、それしかないから。


「……それをください」


彼は迷わず言った。まるでその苺ショートが、彼を待っていたかのように。


包みながら、菫はなんとなく想像してみる。

この人は、このケーキをどこで食べるんだろう。誰かと? それとも——一人で?


でも、答えは聞かない。

火曜日の静かな夜。ケーキのやりとりと、少しの会話だけが、今のちょうどいい距離感。


「ありがとうございました。また来週……火曜日に」


「……はい」


彼の背中がゆっくりと遠ざかっていく。

扉が閉まるその一瞬まで、ほんのり甘い苺の香りが、空気に残っていた。


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