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ショーケースの向こう側  作者: 脇汗ルージュ
8/14

甘さ控えめ、記憶濃いめ

あの夕暮れの再会から数日が経った。

いつもと同じように、お店のショーケースの中に並ぶケーキを眺めながら、菫はそっと、あの日のことを思い出していた。


「…いつも、おいしいケーキをありがとう」


あれ以来、彼は変わらず毎週一度、やってくる。

でも何も変わっていないようで、少しだけ違うのは、彼の「ありがとう」がほんの少し、やわらかく聞こえるようになったこと。


今日もまた、彼は同じように現れた。

「おすすめをください」と、変わらない口調で。


菫は迷った末、小さなタルトを選び、そっと差し出す。

「今週は、桃のタルトです。甘さ、ちょっと控えめです」


「…じゃあ、きっと僕にはちょうどいいですね」

そう言って、彼はタルトの箱を受け取り、ほんのわずかに口元を緩めた。


「……この間は、突然声をかけてすみませんでした」


「いえ、あの、本屋で…ですよね」

答えながら、自分の声が少し浮ついているのを自覚する。

彼が視線を逸らさずに見てくることが、こんなに緊張するなんて。


「……偶然って、不思議ですね」


「……ですね」


そのまま、短い沈黙が流れる。

でも、その静けさが、どこか心地よかった。



この関係はきっと、何かが始まる一歩手前。

ほんのりと、甘さ控えめの関係。

けれど、確かに心の奥に残る味わい。

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