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ショーケースの向こう側  作者: 脇汗ルージュ
7/14

夕暮れの駅前

バイトが早く終わった日の帰り道、菫はちょっと遠回りして、駅前の小さな本屋に立ち寄った。

いつもは混んでいるはずの時間帯なのに、今日は人通りがまばらだ。

夕焼けがガラスに映って、本の背表紙を金色に染めている。


ふと、誰かが本棚の前で立ち止まっている気配に気づいた。

スーツ姿で、少し背が高くて、手には文庫本を一冊。


——…え?

目を丸くして、思わずその人の顔を見つめてしまう。


間違いない。

お店で毎週、ケーキをひとつだけ買っていく、あの「ケーキの人」だ。


でも名前は知らない。

毎回「おすすめをください」とだけ言って、静かに微笑むだけの人。


なんでこんなところに?

声をかけようか、やめようか。

足がちょっとだけ前に出たその時、彼がこちらに気づいた。


一瞬、お互いが「あれ?」という顔をした。

でも、次の瞬間には彼の口元に、あの控えめな微笑みが浮かぶ。


「…いつも、おいしいケーキをありがとう」


静かな声だった。

それだけで、心臓がドクンと跳ねる。


「…あ、いえ、こちらこそ」


おかしな返事になった。でも止められなかった。

少しだけ会釈して、彼は再び本棚に視線を戻す。


なにも起きなかったような顔で。

でも、たしかに今、この街のどこかで、ふたりの距離は少しだけ近づいた。


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