キャラメルと秘密
「よし……完璧」
小さなため息と共に、白井菫は焼き上がったキャラメルタルトを見つめた。
サクサクの生地に、じっくりと焦がしたキャラメルクリーム。甘すぎず、ほろ苦く。
どこか、あの人の雰囲気に似ている――なんて、ちょっとだけ思ってしまった。
「……売れ残ってもいいや。今日は、私のおすすめってことで」
そう呟いて、いつもよりほんの少しだけ丁寧に並べたそのタルト。
夕方、やがていつもの時間。カラン、と扉のベルが鳴る。
「……いらっしゃいませ」
おじさんはいつも通り無言で、ショーケースを見つめた。
そして、いつもよりほんの少しだけ長く、目を留める。
「……キャラメル、です。今日だけ、私のおすすめなんです」
彼の視線が、ほんの少しだけ動いた。
それが「ください」という意味だと察して、菫は胸の奥がくすぐったくなるような気持ちになる。
包み終わると、おじさんはまた、ほんの一瞬だけ――やっぱり、笑った気がした。
その笑みが本当に笑みだったのか、それとも見間違いか、確かめるすべもないけれど。
「また、来週も……」
思わずこぼれたその言葉に、おじさんはふと立ち止まって振り返る。
何かを言うかと思ったけれど、やっぱり何も言わず、ふわりと手を上げた。
(ああ……言葉じゃなくて、伝わることって、あるんだ)
店の中に、キャラメルの香ばしい香りと、静かな余韻が残った。