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ショーケースの向こう側  作者: 脇汗ルージュ
13/14

モンブラン

「いらっしゃいませー」


火曜日のその時間、閉店準備に取りかかりながらも、菫の声はどこか柔らかい。


黒川さんは、今日も静かにショーケースを覗く。

特に迷う様子もなく、指先をすっと伸ばして、ひとつのケーキを示す。


「これを。…モンブラン」


「はい。これ、下に薄くチョコが敷いてあるんですよ。隠れた人気なんです」


手際よく包みながら、ふと、菫の視線が黒川さんの横顔に止まった。


いつもスーツ。真面目そうで、無口で、でも優しそうで――

ずっと“ケーキの人”って呼んでいたけど、その人が、少しずつ自分の中で形を変えていくのを、最近感じていた。


たぶんそれは、

りんごタルトの話を聞いた日から。

それから、菫の中の“お客さん”じゃなくなったのかもしれない。


「…黒川さん」


包み終わったケーキを差し出しながら、初めて名前を口に出した。

相手は一瞬、驚いたように目を見開き、それから少しだけ頷く。


「はい」


「火曜日に来るたび、ちょっとだけ楽しみにしてるんです。…私」


言ってから、顔が熱くなるのがわかった。

でも、目を逸らさずに、ちゃんと届けた。


黒川さんは、言葉を探すようにしばらく黙ってから、小さく言った。


「…じゃあ、また来週も」


「はい。お待ちしてます」


帰っていく後ろ姿を見送りながら、菫は思う。


この人は、きっとこれからも何も言わないかもしれない。

でも――少しずつ、積もるものがあるなら、それでいいのかもしれない。


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