ショーケースの向こう側
プロローグ
―ショーケースの向こう側―
ガラス越しに並ぶケーキたちは、まるで誰かの物語の断片のようだった。
とろけるように柔らかなモンブラン。
少し背伸びをしたくなるような艶やかなチョコレートタルト。
苺のショートケーキには、どこか懐かしい笑顔がよく似合う。
白井菫(しらい すみれ)、21歳。大学では栄養学を学びながら、週に数回、小さな洋菓子店でアルバイトをしている。夢はある。でも、その輪郭はまだ曖昧で、未来に立ちすくむ日もある。
その男の人が最初に店に来たのは、4月のまだ風が冷たい頃だった。
黒いスーツにグレーのコート。ネクタイは地味で、髪には少し白いものが混じっていた。年齢は――きっと、自分の父より少し若いくらい。何も語らず、ただ「おすすめを一つ」とだけ言って、指差したケーキを買って帰っていった。
それが彼女と彼の、最初の「会話」だった。
彼は毎週、同じ曜日、同じ時間にやってくる。
そして彼女は、少しずつ「おすすめ」を選ぶのに時間をかけるようになった。
どんなケーキを渡したら、あの人は少しでも笑うだろうか。
そんなことを、ほんの少しだけ考えるようになった。
ケーキと沈黙のあいだに芽生えた、静かな関係。
これは、「ショーケースの向こう側」にいるふたりが紡ぐ、ちいさな物語。
―ショーケースの向こう側―
ガラス越しに並ぶケーキたちは、まるで誰かの物語の断片のようだった。
とろけるように柔らかなモンブラン。
少し背伸びをしたくなるような艶やかなチョコレートタルト。
苺のショートケーキには、どこか懐かしい笑顔がよく似合う。
白井菫(しらい すみれ)、21歳。大学では栄養学を学びながら、週に数回、小さな洋菓子店でアルバイトをしている。夢はある。でも、その輪郭はまだ曖昧で、未来に立ちすくむ日もある。
その男の人が最初に店に来たのは、4月のまだ風が冷たい頃だった。
黒いスーツにグレーのコート。ネクタイは地味で、髪には少し白いものが混じっていた。年齢は――きっと、自分の父より少し若いくらい。何も語らず、ただ「おすすめを一つ」とだけ言って、指差したケーキを買って帰っていった。
それが彼女と彼の、最初の「会話」だった。
彼は毎週、同じ曜日、同じ時間にやってくる。
そして彼女は、少しずつ「おすすめ」を選ぶのに時間をかけるようになった。
どんなケーキを渡したら、あの人は少しでも笑うだろうか。
そんなことを、ほんの少しだけ考えるようになった。
ケーキと沈黙のあいだに芽生えた、静かな関係。
これは、「ショーケースの向こう側」にいるふたりが紡ぐ、ちいさな物語。
売れ残りのショートケーキ
2025/04/23 00:45
キャラメルと秘密
2025/04/23 00:47
甘くて、苦い
2025/04/23 00:48
(改)
甘いものと静かな声
2025/04/23 00:50
(改)
ショーケースの向こうに
2025/04/23 00:52
(改)
焼きたての迷い
2025/04/23 00:54
夕暮れの駅前
2025/04/23 00:57
甘さ控えめ、記憶濃いめ
2025/04/23 01:00
(改)
苺ショート
2025/04/23 01:16
(改)
名札の向こう側
2025/04/23 01:20
(改)
ドキドキするケーキ
2025/04/23 01:29
(改)
りんごのタルト
2025/04/23 01:31
モンブラン
2025/04/23 01:33
試作チーズケーキ
2025/04/23 01:42