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【9】 【悪役令嬢 ニーラ】


【9】

【悪役令嬢 ニーラ】


「ニーラお嬢様、悪戯はおやめください。私の鍬を返してください」

「あははー。やっだよー」


 鍬を持って逃げ走るニーラを、使用人の男は追いかける。足の速さ自体は使用人の方が速いはずだが、ニーラは狭い場所を通ったり、分かりにくい場所に隠れたりして、使用人は追い付けなかった。

 まるで動きが全て読まれているようで、使用人はぜいぜいと息を切らしてしまう。そこに屋敷メイドが慌てた様子で駆けつけてきた。


「ああ、良かった! こんなところにいたのですね!」

「どうしたんですか? いま私はお嬢様から鍬を取り返すのに忙しくて……」

「貴方が耕していた畑ですが、ついさっき村人から逃げた牛が入って、暴れて踏み荒らしていったんです!」

「何ですって⁉」

「他に怪我人はいなかったんですけど……とにかく貴方も無事で良かったです」

「……危なかった……」



 庭に大量の落とし穴を掘っていたニーラに、メイドが大声を上げる。


「お嬢様⁉ こんなに庭に穴を掘って⁉ 危ないじゃないですか! 誰かが落ちたらどうするんですか⁉」

「あははー。穴がいっぱいー」

「こらっ、逃げないでください!」

「捕まらないよー」


 言った通り、ニーラは決して捕まらなかった。メイドが先回りしようとしても、ニーラは全く別の場所に逃げてしまうのだった。まるでメイドの動きが分かっているようだった。

 その日の深夜。屋敷が静まり返った頃、庭の方からギャアッと叫び声がした。


 見回りの使用人が駆けつけると、埋め戻しが追い付かなかった穴の一つに、一人の男が落ちて気絶していた。強盗に押し入ろうとしていた男だった。

 翌日の牢獄のなかで、強盗は忌々しそうに文句をこぼしていた。


「クソッ! まさか庭に穴が空いてるなんてッ⁉ 計画が台無しだぜッ!」

「平和の女神様はあの人達の味方をしてくれたってことさ」

「クソッ!」


 強盗は看守を睨み付けた。



「何故だ⁉ 何でいきなり婚約を破棄したいなんて言い出すんだ⁉ 理由を教えてくれ!」

「……貴方が嫌いになったからよ。貴方と結婚しても、幸せな未来が見えなかったからよ」

「そんな自分勝手が許されるか⁉ 俺達の両親だって乗り気で……!」

「元々両親達が勝手に決めたことよ。私の両親には、婚約破棄しなかったら屋敷を出ていくと言ったわ。そうしたら渋々納得してくれたわよ」

「な……っ⁉」

「とにかく。そういうことだから。それじゃあね。もう二度と会うこともないでしょうけど」

「おい⁉ 待てよ!」


 ニーラは背を向けて、振り返ることなく歩き去っていった。

 一年後。ニーラは不治の病でこの世を去った。

 彼女に会うことは、二度とない。




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