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【6】 【女社長 セア】


【6】

【女社長 セア】


 セアはとある貿易会社の社長だった。いまは社長室のデスクに向かい、山積みになっている書類の束に目を通していた。

 そばには秘書である彼が控えている。彼とは恋仲であり、今日はセアの誕生日でもあった。


「そういえば、今日は何の日か覚えてる?」


 書類に目を落としながら、セアはそれとなく彼に聞いた。催促するわけではないが、やはり彼と二人きりで誕生日を祝ってほしかった。


「はい。今日は通信魔法具の開発会社との会議が、一時間後に入っております。さらにその一時間後には、街にある我が社の工場への定期視察をおこなう予定となっています」


 彼はプライベートではそれなりにユーモアがあるが、仕事では至って真面目だった。セアはちらちらと彼を見る。


「……そう。それ以外は?」

「昼はこの社長室で食事を取ることになっています。社長のご要望により、私の手作りのお弁当となります。食べる順番はアイス、芋の煮物、鮭のムニエル、手羽先、ルイボスティーとなっています」

「食べる順番まで決まってるの? 細かすぎない? あと随分変わった取り合わせね?」

「ご心配は無用です。アイスは溶けないように冷凍魔法できちんと冷やしておりますので」

「いやそうじゃなくて」

「ご要望とあれば、私があーんして差し上げることも可能です」

「……それは嬉しいけれど」


 セアはもどかしく思ってしまう。もういっそ自分から誕生日のことを切り出そうかと思ったが、それだと催促しているみたいになってしまうのが嫌だった。

 彼には自然な感じで気付いてほしかったのだ。


「そのあとの予定は?」

「午後始めには我が社の開発部の社員と、新しい魔法具の開発会議となっています。その後には馬車に乗って港に向かい、本日荷下ろしされる外国製品の視察に向かいます。事前に確認した製品や条件と違いがないか、その場で最終チェックをおこなった後、街に戻って小休憩を取ります」

「小休憩はいつものカフェ?」

「はい。ご要望ならば、この社長室で小休憩を取り、私自らがラテアートのコーヒーをお作りします。ハート形、桃形、棒のないスペード形、どれでも構いません」

「それ、どれも同じじゃない?」


 いずれもハートに見える形だった。それが彼の愛情表現なのかもしれない。セアはついつい小さな息をついてしまう。


「……もう午後の話はいいから、夜の予定を教えてちょうだい?」

「ディナーは街のレストランに向かい、ステーキを予定しております。社長が気に入っていらっしゃる、内装の凝ったレストランでございます」


 セアは期待した。そのレストランで誕生日を祝ってくれるのだと思ったからだ。


「それで?」

「……? 『それで?』とは?」


 彼は頭に疑問符を浮かべていた。


「いえ、だから、そのレストランで他にすることがあるでしょう?」

「……? ああ、なるほど」

(やっと気付いたわね)

「食後のデザートのアイスを忘れていました。桃味とズッキーニ味、すき焼き味がありますが、どれに致しますか?」

(違うっ。てゆーかズッキーニ味とすき焼き味のアイスって何⁉ 初めて聞いたんだけど⁉)


 まさか彼がここまで鈍感だとは思わなかった。天然ともいえるかもしれないが。

 もう我慢が出来なくなったセアは、ついに自分で聞くことにした。書類を置いて、彼に顔を向ける。


「こうなったら、はっきり言うわ。今日は私の誕生日なのよ。まさか忘れてたわけじゃないわよね?」

「……ふぅ」


 やれやれと彼は肩をすくめた。仕方のない人だと言わんばかりに、上着の内ポケットから一つの小箱を取り出す。


「せっかくしらばっくれていたのに。本当はレストランで渡すつもりだったんですけどね」


 彼が小箱を差し出してくる。セアは受け取って、まさかと思いながら開けると、そこには小さな指輪が入っていた。


「愛しています、セア。私と結婚してください」


 セアは口元に手を当ててしまう。感激のあまり嬉し涙が出てしまいそうだった。


「はい。私も貴方のことを愛してるわ」


 そして、二人は結ばれて、末長く幸せに暮らしたのだった。




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