【11】 【鍛治士 ミス】
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【鍛治士 ミス】
ミスが働いている武器屋では、入荷する武器を売るだけではなく鍛治による武器の自作販売もおこなっていた。また破損した武器の修復もしており、訪れる客から好評を得ていた。
「ミスさん。今日もお願いします」
「あいよ。また壊しちまったのか?」
「思ったより強い魔物だったもので……」
たははと苦笑いしながら壊れた長剣を渡してくる青年もまた、そんなリピーター客の一人だった。彼は冒険者ギルドに登録している者で、数日に一回くらいの頻度でミスのいる店にやってきていた。
「ずっと同じ剣を愛用するのもいいけどよ、そろそろ新しい武器を買ったほうがいいんじゃねえのか?」
「いやぁ、思い入れのある剣ですし……でも、まぁ、ミスさんが言うなら考えてみようかな。けっこう貯金ありますし」
「おぅ、買いたくなったらいつでも言えよ」
「まったく、ミスさんは商売上手だなぁ」
「お前まだ買ってねえじゃねーか」
「あはは」
ミスは美人であり、その武器屋における看板娘的な存在だった。彼女目当てに武器屋を訪れる者も少なくなく、その青年も例に漏れずその一人のようだった。
ただし、ミス自身にその自覚はあまりないようだったが。
●
武器屋で働き、鍛治士としても活躍するミスは、かつては冒険者としても高い実力を有していた。
「冒険者ギルドの者です。ミスさん、折り入って貴女にお願いがあるのですが」
「ギルドの奴が直々にか? こんな武器屋の鍛治士が必要になる依頼とか何だよ?」
「……ここから離れた荒野に、サンドシャークが出現しました」
「……奥に行くぞ。ここは客がいる」
サンドシャークは荒野や砂漠などに出現する、鮫型の魔物である。地面を水中のように泳げるようにする魔法を生まれながらに使うことが出来、魔物であると同時に魔獣のカテゴリにも属する存在でもある。
最初にサンドシャークの被害が報告されたのは、およそ一週間前。食料や日用品を運んでいたキャラバンが、荒野を進んでいたときに遭遇したという。
その後、冒険者ギルドが討伐クエストを出し、複数の冒険者が討伐に向かったが……帰ってくる者はいなかったという。
「……そんな危ない奴を、あたしに討伐しろってのか?」
「ミスさんだから、ですよ。数年前までは、当ギルドでトップクラスの実力者でしたから」
「……現役時代の話だ」
「とにかくお願いします。このままでは、被害が拡大する一方です」
「…………」
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結局、ミスはサンドシャーク討伐の依頼を受けた。あそこまで頼まれてしまっては、断れない彼女だったのだ。
「さて、と。さっそく出やがったな、サンドシャーク。話が早くて助かるが」
新たな餌食を探知した巨大な砂漠の鮫が、ミスの前に姿を現していた。ミスは単独であり、その手に魔法陣から出した一振りの剣を握り込む。
「さあ、行くぜ。早く家に帰って甘いケーキを食いてえんだ」
ミスの姿が一瞬にして消え去り、サンドシャークの頭上へと出現する。手にした剣に魔力をまとわせて振り下ろした。
そこから先の戦いは、およそ一分ほどで片が付いた。魔法陣から剣や槍、斧や矢など様々な種類の武器を出現させ、ミスはサンドシャークに反撃の余地を与えることなく連撃し続けて息の根を止めたのである。
「ま、こんなもんか」
斬り裂いたサンドシャークの前にミスは立ち、そんな独り言をこぼし……そして彼女は見てしまう。
「……っ」
砂漠の鮫の体内には、未消化の、生物だった名残の者が、あった。
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「らっしゃい。今日も良い武器が揃ってるよ」
今日もミスは元気に振る舞って店頭に立つ。自分が明るくしなければ、誰が明るくするというのか。
あの青年は、いまはもう来ることはない。
この商売をやっていれば、慣れなくてはいけないことだった。
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