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【10】 【女刑事 テクティ】


【10】

【女刑事 テクティ】


 テクティは官憲に所属していた。主に殺人や強盗などの刑事事件を担当していたから、俗称ではあるが刑事であることを自負していた。


「ただいまぁ。今日も疲れたぁ」

「おかえり。ご飯出来てるよ」

「ありがとぉ」


 テクティには将来を約束した彼がいた。彼は優しかった。テクティに怒りを見せたことはなく、いつどんなときでも優しく、冷静に、包容力のある態度を崩さなかった。


「最近、連続殺人が起きてるみたいだね」


 新聞の夕刊を読みながら彼が言った。隣に座るテクティはそれを覗き込みながら、疲れたようにつぶやく。


「あぁ、それ。厄介な事件なのよねぇ」

「最初は鳩や猫や犬が殺されてるのが見つかって、その後に赤ちゃん、子供、学生、そしていまは二、三十才くらいの人が殺されてるって書かれてる」

「小動物から始まって、次第に大きな相手に移っていってる……典型的な殺害衝動の犯人よね」

「刑事が捜査情報を漏らしていいの?」

「これは私の感想。捜査の情報は、例え貴方でも言わないわよ」

「さすが敏腕女刑事だね。期待の星って言われてるだけある」

「この犯人もいつか捕まえてやるわ」

「期待してるよ。君なら出来るさ」



 約一週間後。連続殺人事件の捜査は難航していて、その日もテクティの帰りは遅かった。今日は愛しの彼も予定があるため帰りが遅いと言っていたから、テクティは夜間営業している小型総合店舗で夕飯を買って帰ることにした。


 その店を出て少し歩いた頃……突如として暗い路地の向こうから悲鳴が聞こえてきた。まさかと思ったのとほとんど同時に、テクティは路地へと駆け出していた。夕飯が入った紙袋を落としたが、気にする余裕も拾う暇もなかった。

 路地の先は行き止まりだった。そこに血塗れで倒れる女性と、ナイフを手にしてフードを被った犯人がいた。


「官憲よ! いますぐナイフを捨てなさい!」


 手をかざしながらテクティが言う。その手には魔力をまとわせていて、犯人が何かしようとしたら即座に魔法を撃てるようにしていた。


「……とうとう見つかっちゃったか……君に」

「……え……?」


 テクティは一瞬戸惑ってしまう。聞き覚えのある声だったからだ。犯人がフードに手をかけていくが、テクティはとっさには動けずにいた。

 犯人がフードを取る。そこから現れた顔は、将来を約束した愛しの彼だった。


「君の推理は当たっていたよ。僕は昔から生き物を殺したかったんだ。そしていまは……君を殺したい」

「そんな……嘘よ……こんな……」

「これは本当だよ。君が求めていた真実さ」


 ナイフを構えて、彼がテクティに迫ってきた。テクティは手に帯びていた魔力を解き放って、魔法を撃ち出した。

 ――地面に倒れる彼を、テクティは地面にへたりこむようにして抱き上げていた。口から血を流す彼は、テクティを見上げて微笑んでいた。


「……ありがとう。僕を止めてくれて……」

「……貴方……」


 彼はテクティに優しかった。彼はテクティ以外を殺してきた。


「……さようなら、テクティ……君を愛していたよ……」


 もうこれで何も殺さなくてすむ。安堵したように、眠るように、彼は目を閉じた。

 止めどない涙を流しながら、テクティは声にならない声を上げた。

 ――優しい彼は、もういない――。




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