18 悩みを仲間で割る
「お笑い芸人になりたいんです」
「シュン」
4Fのミーティングルームだった
向かいのソファには課長ミナアに係長チャリル
ミナアが口を開いた
「シュン、お笑いって。どういうことだ、会社辞めるってことか」
「はい。退職を考えています」
「シュン・・お前、5年目だろ。辛いこともあったのは分かるが、着々と成長してきたじゃないか」
「僕は自分の限界を悟りました」
「まだ、これからだろ。いくつだ、シュン」
「27です」
「早いだろ。限界だなんて言うなよ。それにお前、お笑いって言ったって厳しい世界だろ」
「・・笑いたいんです、僕」
俯き、哀愁を蒐めるシュンだった
現実逃避を夢見たのは今回が初めてではなかった
就職活動の際中にそんなことをふと、
労働に雇われてからは更にその想いは増大した
男。一度はチラつくその麗しき世界を舐め回してみたかった
「ダメだ」
「えっ」
「おまえ、おもしろくないじゃないか」
ソイツの顔面を直視したけど、即応できなかった
「いや」
「いや、じゃないだろ。おまえ、おもしろくないじゃないか」
「いや」
「ミナア課長、どう思います?」
「いや、おもしろくなくはないだろ」
「そうですよね」
「いや、ちょっと」
チャリルが冷めた視線で金縛りを掛ける
「おもしろいこと言ってみろ」
「いや、こんなとこでは」
「プロぶってんじゃねえぞ」
「いや、だって」
「ダメだ、会社にいろ」
営業を外されたままで営業事務の日々を熟している
本社営業部2課、同僚のレイン課長代理、チャリル係長、ノメク係長、ユウキ主任、メロンさん方の見積作成や販売提案書を手伝ったり、事務用品管理、倉庫の整理。補佐業務だ
「シュン、お笑いやりたいの?」
「ユウキさん」
「ふーん、意外だね。シュンってたまに面白いことボソッと言うよね」
「シュン」
「レイン課長代理」
「飲み行くか」
「シュン」
「メロンさん」
「はぁ」
「えっなに」
いつもの4人だった
相変わらずチャリル係長はいないし、今日はミナア課長には声を掛けなかった
スナックMAYAで飲みながら歌った
相変わらずレインが90年代縛りのパワハラをした
1994年生まれの三十路のユウキが歌ってる
いつものシングルではなくて、
MAYAママが作ってくれたバーボンウイスキーのダブルで喉を湿らせたら、ユウキさんが引っ張るから一緒に歌った
レイン課長代理は笑っているし、メロンはその上長の男の肩に手を掛けた
ユウキ主任が僕を引っ張りながら、メロンの逆側からレイン課長代理の肩に腕を回した
男女男女、肩が役職を回し腕して突飛ばし、小さな輪ができてた
ママが乱入してきたから、
女男女男女のペンタゴンができた
ナヤミをナカマでワレバ
悩みの苦味は薄くなっていた
カナリヤを歌を歌ってた




